株式会社デジタルハーツプラスは、ゲームやソフトウェアの不具合を検出するテスト・デバッグなどを行うIT企業「株式会社デジタルハーツ」の特例子会社として2019年10月に設立されました。
企業のビジョンである「異能が活躍するプラットフォーム」についての思い。ビジョンの実現に向けて行うKaienとの共同プロジェクト「発達障害・異才を活かす開発ユニット」の計画について、代表取締役社長の畑田康二郎氏に伺いました。
株式会社デジタルハーツプラス(株式会社デジタルハーツ 特例子会社)
本社: 東京都新宿区西新宿三丁目20番2号 東京オペラシティビル
URL: https://www.digitalhearts-plus.co.jp/
“異能の人財”を採用することは「社会的責任」ではなく「成長戦略」
親会社であるデジタルハーツについて教えていただけますか。
はい。親会社の株式会社デジタルハーツは、ソフトウェアの不具合を検出するデバッグ・システムテストサービスを中心に行うIT企業です。東証一部に上場している株式会社デジタルハーツホールディングスのグループ中核を担う企業です。
ゲームデバッグの領域では国内シェアNo.1です。年間のプロジェクト件数は6500件以上、毎日約3500人が稼働し、1000社以上との取引を通じて100万件を超えるバグを検出し、日本国内のゲーム産業の高い品質を下支えしてきました。
デジタルハーツの人財活用は個性あふれる企業が多いIT業界においてもひと際に異彩を放っていますね
引きこもり状態にあった人などの未就業者であっても、第一線で活躍している人がたくさん居ます。とにかくゲーム愛が強い人が多い集団ですね。リリース直前の製品でも「バグの匂いがする」といって誰も見つけられなかった不具合を検出することも良くあります。長年ゲームなどの機器に慣れ親しんできた人ほど、バグを見つけるという真面目さと緻密さが要求される仕事に向いているというのが背景にあるようです。
この4月からは、NPO法人育て上げネットさんと共同で、若年無業者の就労支援共同プロジェクト「デバッグ・トレーニング(バグトレ)」を開始しています。働いた経験がなくても、好きなゲームを操作しながら項目ごとの内容をチェックし、不具合があればレポートするという業務を体験してもらうことで、職業理解や適性判断を行うというプログラムになります。これまでの経歴に囚われることなく、自らが今出来ることをコツコツやっていくことで道が開けていく、そうした一歩目を提供できればと考えています。
さらに最近は、こうしたゲームデバッグ人財から選抜したメンバーに対して「サイバーセキュリティブートキャンプ研修」を実施しています。ゲームで鍛えられた能力を、デジタル社会の安全確保に結び付けていき、サイバーセキュリティ分野の人材不足という社会課題に対応していきたいと考えています。
デジタルハーツプラス設立の背景を教えてください
デジタルハーツはコミュニケーションへの苦手感があっても比較的働きやすい会社だと思いますが、個々の障害特性に応じて配慮することで、本来持っている力をさらに発揮してもらうことができるのではないかと考えています。多様な人財にデジタルハーツグループで活躍してもらうためには一定程度特別な雇用環境の整備が必要だという考えの下、きめ細かいサポート体制を整備しやすい特例子会社を設立しました。現在、初台本社と、仙台オフィスで合計13名が、親会社デジタルハーツと連携してゲームやソフトウェアのテスト・デバッグを中心とした業務を行っています。
そもそもデジタルハーツは数名のフリーターによるゲームのテスト業務から始まった会社です。「異能の人財」によって成長が支えられてきた会社といっても過言ではないのです。デジタルハーツグループが引きこもり経験のある方や、発達障害などの特性のある方を積極的に採用することは、引きこもり対策や障害者雇用の支援などのCSR(企業の社会的責任)ではありません。当社にとってはごくシンプルな、会社を大きくするための「成長戦略」なのです。最近はSDGs(持続的な開発目標)がブームになっていますが、ターゲット8「働きがいも経済成長も」というのは、当社が創立以来取り組んできたことそのものですね。
会社のビジョン「異能が活躍するプラットフォーム」について教えてください
デジタルハーツプラスの企業ビジョン「異能が活躍するプラットフォーム」は、敢えて尖った表現にしています。特例子会社ではありますが、単に義務付けられた障害者雇用数を達成することだけが会社の目的ではない、ということを強調したい、という意図があります。
相応しいチャレンジの機会と環境さえ整えば「”異能の人財”はデジタル社会の根幹を支える人材になりうる」。デジタルハーツは事業拡大を通じてそれを証明してきました。今後、社会全体のIT化が加速することで、可能性はより広がっていくでしょう。それをグループ全体で実現するために、デジタルハーツプラスは「プラットフォーム」としての機能を担っていく、という決意を企業ビジョンに込めました。
障害者手帳の有無は問わず異才を発掘
新プロジェクトの「発達障害・異才を活かす開発ユニット」について概要を教えてください
きっかけは、Kaienさんとの情報交換です。Kaienの求人サイト「マイナーリーグ」の登録者には、ITの実務経験豊富な即戦力人材が、一定程度の割合で存在していること。その人たちの多くが一般枠雇用で働きつつも、機会があれば障害をオープンにして配慮を得て働きたいと考えているという話を聞きました。そのような人材が実際にいるのであれば、ぜひ当社で働いてもらいたい、と考えました。
また、デジタルハーツでは上流のシステム開発から受託してテストまで一気通貫で行うような案件も多数存在しており、開発エンジニアの採用を積極化しているほか、ビジネスパートナーに外注している案件もあります。「マイナーリーグ」に登録されているような異才の即戦力人材にも活躍して頂ける機会が沢山あります。
そこで、発達障害の就労支援の専門機関であるKaienさんの力も借りながら、IT領域の専門性や実務経験を持ちながらも、「コミュニケーションの面で苦手な部分がある方」、「長く働き続けるためにコンディションに合わせたペース配分が必要なタイプの方」など、凸凹がある方々が、気兼ねなく自分の障害特性を開示し、実力を十分に発揮することができるサテライトオフィスを、立川に立ち上げることを決めました。
どのような業務内容・就業環境なのですか?
業務内容はシステム開発案件の詳細設計(基本設計でざっくり考えた概要を元にして、実際のプログラムが作れるまで細かく落とし込む工程)を行います。コミュニケーションが得意ではない方が困難を感じやすい「客先常駐」がなく、顧客との折衝と基本設計は本社側で行って、詳細設計やシステムの実装に集中できるようにします。
就業場所は、Kaienのサテライトオフィスを利用し働きやすい環境を整えていきます。障害特性や必要な配慮は人によってそれぞれですから、障害理解の専門家であるKaienの常駐支援員の方に定期的に面談をして頂きながら、長期就労をサポートしていただこうと考えています。
特例子会社なので応募には障害者手帳が必須でしょうか?
いいえ、必須ではありません。立川サテライトオフィスの「発達障害・異才を活かす開発ユニット」は、障害者手帳をお持ちの方はもちろんですが、障害者手帳を持たない、いわゆるグレーゾーンの方にもぜひご応募を頂きたいと思っています。「異能の強みに注目して戦力化する」ということがビジョンですので、手帳を持っているかどうかにこだわるのは本末転倒ですからね。
手帳の有無に関わらず、得意・不得意を自己理解している者同士が、互いに認め合ってその才能を輝かせ、成長していくことができる。立川でそんなチームを作りたいと考えています。
上級エンジニアへのステップアップも応援
これから立ち上げメンバーを採用する予定とのことですが、どのような人材を求めていますか?
まずは立ち上げメンバーとして、一定程度のITスキルは必要になります。目安としては最低でも1年以上のシステム開発やプログラミングの実務経験、又はそれに相当する資格等をお持ちの方を採用の対象に考えています。発注元となる親会社とのコミュニケーションはSlack/Teams等のチャットツールが中心になる予定です。
勤怠の面は、事前の報告や相談をして頂けるのであれば柔軟に許容したいと考えています。ただし突発のお休みが多かったり、無断欠勤が多かったりする方はご遠慮いただきたいです。自己の障害特性をしっかり把握して適切な対処方法を備えている方であれば、会社としてサポートしていくことができると考えています。
勤怠が安定しており、パフォーマンスの面でも強みを発揮していただける方には、ステップアップの道もしっかり作っていきたいと考えています。例えば、特例子会社の所属から本社(デジタルハーツ)に雇用を切り替え、初台勤務で上級エンジニアへとステップアップする、ということも十分あり合えると思います。スモールステップで実力を身に着け、エンジニアとしてキャリアアップしたい方にもぜひチャレンジしていただきたいと思います。
インタビュー協力
株式会社デジタルハーツプラス
代表取締役 畑田 康二郎 氏
京都大学大学院でエネルギー応用工学の修士課程を修了後、2004年に経済産業省に入省。エネルギー政策、ベンチャー支援政策、自動車産業政策などに従事した後、2012年に外務省に出向して、欧州連合日本政府代表部および在ベルギー日本国大使館に外交官として駐在。日EU自由貿易協定や日EU規制協力対話の立ち上げに関わる。2015年に帰国し、内閣府宇宙戦略室(2016年に宇宙開発戦略推進事務局に改組)にて、宇宙2法の制定、宇宙産業ビジョン2030の策定、宇宙ビジネスアイデアコンテストS-Boosterの企画等を行う。2017年に経済産業省に帰任し、新しいベンチャー支援プログラムJ-Startupの立ち上げに携わる。2018年に経済産業省を退職して株式会社デジタルハーツホールディングスに入社し、2019年10月に株式会社デジタルハーツプラスを設立し、代表取締役に就任する。