
障害者雇用を進めたいものの、「費用負担が心配」「どんな助成金が使えるのかわからない」と感じている企業は少なくありません。障害者雇用には、採用時の初期費用から定着支援までサポートする助成金制度が複数あり、人件費や環境整備の負担を抑えながら雇用を進められます。
この記事では、障害者雇用で活用できる主な助成金の種類や支給額、申請方法、注意点までをまとめて解説します。
このページの目次
障害者雇用の助成金制度とは?

障害者雇用の助成金制度とは、障害者を雇用・定着させるために必要な環境整備や人材育成、職場改善などに対して企業が受けられる国の支援制度です。
障害者雇用の助成金制度は、以下の目的で利用されます。
- 人材の受け入れ準備にかかる費用
- 定着支援に必要なサポート体制の構築
- 業務環境の改善など、企業側の負担を軽減
助成金の種類は複数あり、企業規模や雇用形態、必要な支援内容によって申請できる制度が異なります。障害者雇用に関する助成金とその活用方法について詳しく知りたい方に向けて、セミナーも開催しているので、以下のページからぜひご相談ください。
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助成金の種類と一覧
障害者雇用で活用できる主な助成金には、採用時の支援から定着支援まで、以下のような種類があります。
| 助成金名 | 特徴 |
|---|---|
| 特定求職者雇用開発助成金 | 障害者など就職困難者を継続雇用する企業を支援 |
| 発達障害者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) | 発達障害のある方を新規雇用した企業に支給 |
| 特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース) | 発達障害・難治性疾患のある方の雇用を支援 |
| 特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース) | 成長産業で障害者の人材確保・育成を行う企業向け |
| 企業在籍型職場適応援助者助成金 | ジョブコーチによる職場適応支援にかかる費用を補填 |
| 重度障害者等通勤対策助成金 | 重度障害者の通勤負担を軽減するための環境整備を支援 |
| キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース) | 障害者を正社員へ転換した企業を支援 |
| 障害者介助等助成金 | 職場での障害者の介助・支援に必要な費用を補助 |
代表的な助成金の概要については、以下のページで詳しくまとめていますので、併せてご参考ください。
助成金の申請方法
障害者雇用の助成金申請は、制度の要件を確認したうえで必要書類をそろえ、期限内に申請するのが基本です。多くの助成金は、雇入れ前の手続きやハローワークの紹介が条件となります。
まずは、管轄のハローワークや労働局で相談し、適用可能な制度を把握することから始めましょう。以下は申請の大まかな流れです。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1.制度の確認 | ハローワーク・労働局で適用可能な助成金を確認 |
| 2.求人提出〜雇用 | 多くの助成金はハローワーク紹介が必須 |
| 3.必要書類の準備 | 契約書・手帳写し・賃金台帳などを揃える |
| 4.申請書の提出 | 助成金ごとの指定期限内に提出 |
| 5.審査・支給 | 内容審査後、助成金が支給(分割支給の場合あり) |
必要な書類
助成金申請で求められる書類は、制度によって異なりますが、基本となるのは以下のような資料です。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 基本書類 | ・助成金支給申請書・雇用契約書/労働条件通知書の写し |
| 対象者に関する書類 | ・障害者手帳の写し(身体/療育/精神いずれか) |
| 勤務実態の証明書類 | ・賃金台帳・出勤簿(勤怠データ)・ハローワーク紹介状の写し |
| 企業側の証明書類 | ・登記事項証明書・就業規則(必要な場合) |
| その他制度特有の書類 | ・雇入れ計画書・業務内容の説明資料など |
申請時の注意点
助成金は、書類が揃っていれば必ず受給できるわけではありません。申請条件や期限、雇用実態の整合性など、多くの点で注意が必要です。
以下に、押さえておくべきポイントを整理しました。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 申請期限を必ず守る | ・期限超過は即不支給・制度ごとに「雇入れ後〇日以内」など厳格に決まる |
| 雇用の継続意思を示すこと | ・助成金のための短期雇用と見なされると不支給の可能性・職務内容、配置計画を明確にしておく |
| 書類の不備をなくす | ・記入漏れ、押印忘れ、添付不足などは審査遅延、不支給の原因・不明点は労働局で確認する |
| 制度の併用は注意が必要 | ・助成金は組み合わせに制限あり・併給不可制度も多いため事前相談が必須 |
| 不正受給はペナルティ | ・全額返還+加算金、延滞金・悪質と判断されれば企業名公表の可能性も |
助成金を使うメリット

ここでは、障害者雇用における助成金活用による以下のメリットを解説します。
- 人件費の負担を安定させられる
- 採用や定着に向けた投資がしやすくなる
- 法定雇用率の達成につながる
それぞれ詳しく解説します。
人件費の負担を安定させられる
国や自治体の助成金を活用すれば、障害のある社員の採用・雇用継続に必要な費用の一部を補填でき、人件費の負担を抑えられます。厚生労働省の特定求職者雇用開発助成金(採用時の初期費用を補助)や障害者雇用安定助成金(継続雇用の支援)などが代表的です。
さらに、条件を満たせば法人税や事業所税の軽減措置を受けられる場合もあります。助成金や税制優遇は、採用コストやリスクを抑えつつ多様な人材活用を進められる経営上の有効な手段であり、人件費を安定させる面でもメリットがあります。
採用や定着に向けた投資がしやすくなる
助成金を活用すると、障害者の採用や職場定着に必要な環境整備や人材育成に、より積極的に投資しやすくなります。職場のバリアフリー化や設備導入といった初期費用も、対象助成金によって一部を補助できるため、企業の負担を抑えながら取り組みを進められる点が大きなメリットです。
活用できる助成金には、福祉・休憩設備の導入を支援する障害者作業施設設置等助成金や、社内のサポート体制づくりを補助する障害者介助等助成金があります。これらにより、職場適応に必要な環境整備をスムーズに進められます。
また、ジョブコーチ(職場適応援助者)支援や障害のある社員向け研修の実施にも助成制度が利用可能です。公的支援による後押しがあることで、長期的な定着を見据えた体制整備にも安心して取り組めるようになります。
法定雇用率の達成につながる
障害者を積極的に採用しやすくなることで、企業は障害者の法定雇用率を達成しやすくなります。日本では従業員40人以上の民間企業に対し、従業員の2.5%にあたる障害者を雇用する義務があります(2026年度中に2.7%へ)。
参考記事:https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2023/03/
助成金による財政的な支援を受けつつ障害者雇用を進めることで、法定雇用率の基準を満たしやすくなって、未達成による納付金(月5万円/人)や企業名公表、罰則といったリスクを回避できます。
助成金を使うデメリット

ここでは、助成金活用に伴う以下のデメリットを解説します。
- 申請や報告にかかる事務作業が多い
- 助成金が支給されない場合がある
- 雇用継続の義務や受給期間の制約がある
それぞれ詳しく解説します。
申請や報告にかかる事務作業が多い
障害者雇用に関する助成金を受給するためには、申請前の準備から受給後の報告まで、以下のような業務(一例)が発生します。
- 必要書類(申請書・計画書・実績報告書など)の作成
- 雇用契約書・賃金台帳・出勤簿など証拠書類の整理・保管
- 求人票の作成およびハローワークでの手続き
- 企業情報(登記事項証明書など)の提出準備
- 障害者手帳情報の確認とコピー保管
- 助成金制度ごとの条件確認・要件チェック
- 書類提出後の追加説明・照会対応
- 受給後の報告業務(勤務状況・賃金情報の更新)
- 制度変更に伴う最新情報の収集・管理
とくに不慣れな企業では、申請対応だけで相当な時間を取られるケースも少なくありません。場合によっては、社労士(社会保険労務士)など専門家に代行を依頼する必要があり、その分のコストも発生します。
また、助成金制度は年度途中で内容が変わることも多く、常に最新の情報を把握し、提出時に不備がないよう管理する体制づくりも必要です。
助成金が支給されない場合がある
障害者雇用に関する助成金は、申請すれば必ず受け取れるわけではありません。一定の条件を満たしていない場合や、不支給要件に該当する場合には、支給されないことがあります。
特に、法令違反や申請書類の不備はよくある減額・不支給の原因となるため、事前に確認しておくことが重要です。また、支給決定後に不正や違反が判明した場合は、受け取った助成金の返還を求められるケースもあります。
以下に、代表的な不支給となるケースをまとめました。
| 不支給の理由 | 具体例 |
|---|---|
| 法令違反・未納がある | 雇用保険・労災保険の未加入・未納、労働関係法令違反がある場合 |
| 不支給要件に該当する | 過去の助成金不正受給歴、反社会的勢力との関係がある場合 |
| 雇用条件が基準を満たさない | 賃金が最低賃金×30時間を下回る、実労働時間が極端に短いなど |
| 申請書類の不備・要件未達成 | 申請期限に遅れた、必要書類の不足、要件そのものを満たしていない場合 |
| 支給後に不正が判明した | 支給決定後に虚偽申請や要件違反が判明し、返還を求められるケース |
これらのケースを避けるためには、事前に条件を確認し、雇用契約・勤務時間・賃金設定を適切に整備しておくことが必要です。とくに初めて助成金を申請する企業では誤りが起きやすいため、社会保険労務士など専門家に手続きを相談することも有効です。
雇用継続の義務や受給期間の制約がある
障害者雇用助成金を利用する際は、雇用継続義務と受給期間の制限に注意が必要です。助成金が支給されると、企業には定められた「対象障害者等雇用継続義務期間」が課され、その期間中は雇用を維持しなければなりません。企業側の都合で期間内に解雇すると、受け取った助成金を全額返還する義務が生じます。
雇用継続義務期間は助成金の種類によって異なりますが、多くの場合、支給決定日から1〜3年程度です。また、助成金の支給期間も無制限ではなく、原則として一度きり、または6ヶ月・1年単位での支給に限られ、毎年自動で支給されるわけではありません。
継続して助成を受ける場合は、再申請や定期報告が必須であり、支援はあくまで一時的なものです。支給期間が終了した後は、企業が自力で雇用を継続できるよう、あらかじめ計画を立てておくことが重要です。
障害者雇用の助成金に関するよくある質問

ここでは、障害者雇用の助成金に関するよくある疑問について回答します。
障害者雇用助成金の申請はハローワーク以外でできる?
障害者雇用助成金の申請先は助成金の種類によって異なり、ハローワークだけでなく高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)で手続きするものもあります。そのため、申請する助成金ごとに担当窓口を正しく把握しておきましょう。
| 申請先 | 助成金 |
|---|---|
| ハローワーク | ・特定求職者雇用開発助成金 |
| 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) | ・障害者作業施設設置等助成金・障害者介助等助成金・障害者職場適応援助者支援事業 |
個人事業主でも障害者雇用助成金は適応される?
個人事業主でも一定の条件を満たせば障害者雇用助成金を利用できます。助成金の多くは事業主(事業者)を対象としており、法人だけでなく事業を営む個人事業主も申請可能なケースが含まれます。
ただし、すべての助成金が個人事業主を対象としているわけではなく、利用の可否は助成金の種類ごとに異なります。主な条件としては、以下が求められます。
- 雇用保険へ適正に加入していること
- 対象者をハローワーク等の公的な紹介経路で雇用していること
- 適切な労働条件を満たしていること
そのため、個人事業主が助成金を活用する際は、申請を検討している助成金ごとに対象要件を必ず確認しましょう。
障害者雇用助成金について相談したい場合の問い合わせ先は?
障害者雇用助成金の相談先は「ハローワーク」と「高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」の2つです。助成金の種類によって担当窓口が異なるため、まずはどちらが自社のケースに適しているかを把握しておくことが大切です。
| 相談先 | 主に相談できる内容 |
|---|---|
| ハローワーク | ・障害者の求人募集・雇用計画に関する助成金・採用前〜採用直後の支援 |
| 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) | ・職場環境整備に関する助成金・在宅勤務関連助成金・ジョブコーチ支援など専門的な制度 |
「自社に合う助成金はどれか」「制度を活用した採用計画をどう立てるべきか」といった、
企業ごとの個別判断が必要な内容は、公的機関だけでは十分に回答が得られないこともあります。より実務に落とし込んだアドバイスが必要な場合は、以下のページからお気軽にご相談ください。
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障害者雇用の助成金を活用して誰もが活躍できる社会を目指そう

障害者雇用助成金は、採用時の初期費用や職場定着に向けた環境整備を後押しし、企業の負担を抑えながら安定した雇用を実現するために役立つ制度です。制度ごとに目的や支給内容が異なるため、自社の状況に合った助成金を正しく理解し、適切な活用が大切です。
また、「どの制度を選べばよいか分からない」「助成金を使いながら採用や定着を進めたい」といった企業様向けに、助成金の活用方法や実際の事例を解説するセミナーも開催しています。助成金を活用した職場づくりの具体的な進め方を知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
【オンデマンド視聴】助成金を活用した障害者雇用の採用と定着のための取組み事例
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