カサンドラ症候群は、発達障害*の1つである自閉スペクトラム症(ASD)のある人とのコミュニケーションがうまくいかないなどの理由で、ストレスによって精神的・肉体的な症状が発生する状態のことです。職場においては、ASDの人と接する機会の多い社員や指導者に見られやすい傾向がありますが、そのような好ましくない状態に陥らないようにするためには周囲の配慮や予防策の実践が大切です。
本記事では、職場におけるカサンドラ症候群の特徴から主な症状、なりやすい人の傾向、周囲ができる配慮などについて解説します。職場でASDの人を雇用する上で、周囲の人を含めて働きやすい環境を構築するためにぜひご覧ください。
このページの目次
職場のカサンドラ症候群とは?
カサンドラ症候群とは、自閉スペクトラム症(ASD)の方とコミュニケーションや情緒的関係の構築が難しく、身近にいる人が不安や抑うつなどの不調をきたす状態のことです。パートナーや家族など身近な人が自閉スペクトラム症(ASD)である、もしくはグレーゾーンである場合に見られやすい傾向があります。
カサンドラ症候群は、職場内でも起こることがあり、「職場内カサンドラ」などとも呼ばれます。自閉スペクトラム症(ASD)の人と密接に関わる側が、当事者との意思疎通がうまく取れないために、精神的苦痛が大きくなることで不調を起こしてしまうのです。
なお、カサンドラ症候群というのはあくまでも精神状態を指すひとつの呼称であり、障害名として確立されているわけではありません。
職場のカサンドラ症候群の症状
カサンドラ症候群の症状として、身体的な不調と精神的な不調の2つがあります。代表的なものには以下が挙げられます。
【身体的な不調】
- 不眠
- 頭痛
- 動悸
- 体重の増減
- めまい
【精神的な不調】
- 抑うつ
- 自己肯定感の低下
- 無気・疲労感
- 孤独感
- 不安障害
- 情緒不安定
- 自己喪失感
- 罪悪感
カサンドラ症候群は、家族や身近な友人、職場の上司など距離の近い相手に、自閉スペクトラム症(ASD)の特性などによる共感性や情緒的表現の障害が見られる場合に起こりやすいとされます。また、当事者との情緒的交流が乏しいために起こる対立関係や、精神または身体の虐待などがある場合も症状につながる可能性があります。
症状の度合いは軽度な体調の変化で終わる場合もあれば、日常生活が困難になり、医療的な治療が必要となるなど、ケースバイケースで異なります。
カサンドラ症候群になりやすい人
カサンドラ症候群になりやすい人によく見られる特徴として、次のような点が挙げられます。
- 責任感が強い
- 真面目
- 我慢強い
- 完璧主義
- 几帳面
- 面倒見が良い
- ストレスを溜めやすい
- 自分を責めがち
上記のような人は、ASDの当事者に何かひどいことを言われても「自分の伝え方が悪かったせいだ」「自分が注意すれば良くなるだろう」といった考えを持ちやすい傾向があります。最初は我慢できていたとしても徐々にストレスが溜まり、結果的にカサンドラ症候群の状態になる可能性があります。
職場でカサンドラ症候群にならないためにできる配慮
職場内での人間関係が原因でカサンドラ症候群に陥ってしまうと、勤務が難しくなる可能性があります。場合によっては休職や退職が必要になるため、予防する意識を持って対策に取り組むことが大切です。ここでは、職場でカサンドラ症候群にならないためにできる配慮や対策法を解説します。
相手の特性を理解する
カサンドラ症候群の状態を避けるためには、自閉スペクトラム症(ASD)の人がどのような特性を持っているのかを理解することが重要です。自閉スペクトラム症(ASD)の当事者によく見られる主な特性としては、以下が挙げられます。
- 社会性に関する困難:相手の気持ちを汲み取ることが苦手など
- 表現に関する困難:すぐに言葉が出ない、表現力が乏しくコミュニケーションが苦手、「ちょっと」「少し」などあいまいな表現が伝わりにくいなど
- こだわりの強さ:好き嫌いが極端、自分のルールを曲げられない、ルーティンから外れると不安が強くなるなど
自閉スペクトラム症(ASD)の人は、人の表情や言葉のニュアンスから情緒的な部分を汲み取ることを苦手としており、不本意に相手を困らせてしまう場合があります。また、雑談のようなコミュニケーションを苦手としており、対人関係が築くなかで悩みを抱えるケースも少なくありません。
そして、優先順位を付けて計画を立てることや、アイデア出しなどに苦手意識を持ちやすい傾向も見られます。こうした特性を理解したうえで、相手に配慮した対応を行うことが重要です。
指示の仕方・接し方を見直す
自閉スペクトラム症(ASD)の人に対する指示の出し方や応対方法を変えることで、ストレス軽減につながる可能性があります。具体的には、以下のような方法が有用です。
- できるだけ具体的な指示を出す
- 指示は1つずつ伝える
- 指示内容をメモやメールなど視覚的なもので伝える
- 予定や計画の変更はできるだけ早く伝える
- 注意をするときは感情的にならず、冷静に具体的にどうしてほしいか説明する
自閉スペクトラム症(ASD)の人は、あいまいな指示を受けてもどう対応するのが適切かを判断することが苦手な場合があるため、指示は1つずつ具体的に伝えることが大切です。また、電話や口頭ではなく、メモやメールなど視覚的な情報として伝えることで、当事者は行動しやすくなります。
さらに、臨機応変で柔軟な対応が難しい点を踏まえ、予定や計画の変更があった際には速やかに伝えるとスムーズです。
定期的にリフレッシュする環境を取り入れる
カサンドラ症候群にならないためには、自閉スペクトラム症(ASD)の人との閉鎖的な状況を解消する必要があります。支援している人が孤立しないよう、定期的に当事者と距離を取るなどして、お互いがリフレッシュできる時間を設けましょう。
また、支援する人が1人だけだとどうしてもストレスが発散しにくい状況になるため、複数の支援者を作る、あるいは間に第三者が介入するなどの対策も有用です。複数の人が支援すれば悩みにも共感し合えるため、カサンドラ症候群の状態の軽減につながるでしょう。
まとめ
自閉スペクトラム症(ASD)の人と身近な関係にある人に起きやすいカサンドラ症候群は、家庭だけでなく職場でも見られる場合があります。職場内でのカサンドラ症候群は、真面目で責任感が強く、我慢強いタイプの人がなりやすいとされています。
カサンドラ症候群を防ぐために、相手の特性を理解するところから始める必要があります。そして、相手への接し方や物事の伝え方を変えることで、スムーズに仕事を進められるようになるでしょう。また、複数人で情報共有できる環境を作り、互いにリフレッシュできるように定期的に距離を取ることも有用です。
カサンドラ症候群の可能性がある場合の対策法として、ASD当事者が発達障害を開示した場合には、認知行動療法などを提案することもおすすめです。
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監修者コメント
カサンドラ症候群も症状が進行すると、うつ病と変わりないほど悪化し、不眠や食欲低下、意欲集中力低下、頭がうまく回らないのに焦っている…など症状が出現します。なので、調子が悪いと思ったら気軽に精神科を受診してください。が、気軽に受診したら精神科医に怒られた…という意見もよく聞きますので、不勉強な精神科医は避けるように…。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属