認知行動療法(CBT)とは?障害者雇用で知っておきたい活用方法

認知行動療法(CBT)とは、物事の捉え方や言動に働きかけることでストレスを軽減する心理療法の1つです。近年では、発達障害による困りごとや悩みを解消するためのアプローチとしても浸透してきています。

本記事では、認知行動療法についての理解や、取り組み方、発達障害との関係、実践時の注意点などについて解説します。職場における活用方法や体験談など、障害者雇用の促進に役立つ情報も紹介しますので、ぜひご覧ください。


認知行動療法(CBT)とは?

認知行動療法(CBT/Cognitive Behavior Therapy)を理解する上で、たとえ話としてよく用いられるのが「コップの水の話」です。

水が半分入っているコップを見て、「半分しか入っていない」「半分も入っている」という2通りの捉え方ができます。「半分しかない」と考えると不安になりますが、だからといって「半分残っている」と楽観的に捉えていては、後先考えずに飲んでしまうと後悔する可能性もあるでしょう。

つまり、いずれかが問題だというわけではなく、両方に問題はあり、現実的でバランスの取れた考え方をすることが重要です。その考え方を学ぶことが認知行動療法と呼ばれます。

認知行動療法は、物事の捉え方(認知)や行動に働きかけて、ストレスを軽減する心理療法の1つです。元は「認知療法」と「行動療法」という2つの方法が別々に浸透してきましたが、近年は「認知行動療法」という1つの療法としてまとめられることが多く見られます。うつ病や統合失調症、パニック障害など精神疾患の治療に効果的とされ、診療現場でも用いられるケースがよく見られます。

認知行動療法のやり方

認知行動療法は、医師・カウンセラーなどと面談をしながら行うのが一般的です。おおまかには、以下のような流れで進められます。

● 本人が感じているストレスや直面している問題を把握する
● 問題によりどのような感情を感じるか、どのような状況で起きやすいかを整理する
● 自動思考(自動で浮かぶ考え)に焦点をあて、自身の感情や行動にどう影響しているかを把握する
● 自動思考の特徴的な癖に気づき、現実とのズレに注目して見方を変える練習を行う
● 問題解決や人間関係の改善に向けて練習する

1つの目安としては、1回30分以上の面談を16〜20回ほど実施するとされます。期間は3ヶ月前後ですが、場合によってはフォロ-アップ面接が行われることもあり、個人差があります。

認知行動療法と発達障害の関係

発達障害のある人は、自身の特性から物事に関する認知のゆがみが起こりやすいと言われます。症状の度合いや特性などにもよりますが、全体を俯瞰する力や客観的に考えて行動することに対して、先天的に苦手とする傾向が見られやすいためです。

前述の自動思考の元となる無意識の価値観を、スキーマと呼びます。発達障害の認知のゆがみとなる原因には、以下のようなスキーマが挙げられます。

● 白黒思考
● 極端な一般化
● 認知のフィルター
● マイナス思考
● 根拠のない破局的な解釈
● 過大解釈と矮小化
● 感情的決めつけ
● 「~すべき」思考
● レッテル貼り
● 自己関連付け(すべて自分のせいだと考える)

認知のゆがみには、上記のうち複数の不適切なスキーマが影響していることも少なくありません。ここで、上記の理由から認知のゆがみが見られる具体例を紹介します。

■ 同僚が誤って自分のデータを消去してしまった場合

不適切なスキーマ
● 過度な一般化:1度の出来事をすべてのこととして結論付けようとする
● レッテル貼り:同僚に悪気がなくても今回のミスで「悪い人間」とラベリングする
● 破局的な解釈:根拠がないにもかかわらず「相手が自分が嫌いだから悪意を持ってわざとやった」とネガティブな結論を思い込む
● 感情の決めつけ:自分の感情が現実に影響すると信じ、物事を決めつける

認知のゆがみ:「同僚は悪いやつで自分が嫌いだから、故意でやった。気持ちが落ちてしまって、今日は仕事でミスしてしまうだろう」

不適切なスキーマによって、出来事に対して極端かつ否定的な捉え方をしてしまいます。その結果、相手が悪い人間で、自分が攻撃されていると思い込むことで、生きづらさを感じてしまうケースもよく見られます。

認知行動療法を通して、認知のゆがみの原因となるスキーマに気付き、考え方の癖を調整できれば、発達障害が抱える生きづらさを軽減できる可能性があります。

認知行動療法が職場で役立つケース

認知行動療法は、発達障害のある人が特性や症状によって直面しやすい場面で役立つことがあります。ここでは、認知行動療法が職場のどのように役立つのか、具体的なケースを解説します。

仕事でミスが多発したとき

仕事でミスが多発してしまった際に、認知のゆがみにより「失敗ばかりで、自分はなんて駄目な人間なのだろう」と極端なまでにネガティブに捉えてしまう場合があります。また、「こんなにミスしてしまったのだから、仕事もクビになるだろう」といった白黒思考に陥る可能性もあるでしょう。

そこで、認知行動療法により認知を再構成することができれば、俯瞰的な視点を持って「今回はミスをした、でも以前にはうまくいったときもあった」と捉え直すことが可能です。また、「ミスが多発してしまったが、半年間勤められている」という客観的な事実に基づき、思考のバランスを調整できるでしょう。

苦手な人と仕事をするとき

仕事をしていると、苦手だと感じられる人と接する機会に遭遇します。認知のゆがみにより、相手のちょっとしたしぐさや発言から「自分はあの人に嫌われている」と思い込んでしまう傾向が見られます。

相手に「嫌いです」と直接言われたことがなくても、マイナス思考や破局的な考えから決めつけてしまう場合があります。実際に相手が嫌っているかどうかは確証を持てないケースがほとんどです。

そこで、認知の再構成によって視野を広げることで、「前回会ったときには相手から挨拶してくれた」といった別の事実に気付けることもあるでしょう。あるいは、「いつも笑顔なことが多いけれど、今日は少し元気がない気がした」など、事実を把握しなおし、自己関連付けの解消につながる場合もあります。

仕事を辞めようか悩んでいるとき

今の職場環境や人間関係が嫌で、仕事を辞めようか悩んでいる場合に、認知行動療法の「メリット・デメリット分析」が役立ちます。メリット・デメリット分析により、認知のゆがみに気づき、認知の再構成を行うことでベストな選択肢を見つけられる可能性があります。

メリット・デメリット分析では、名前の通り、対象となる物事のメリットとデメリット両面を考えます。転職の場合は、以下を可能な限り書き出します。

● 仕事を辞めることのメリット・デメリット
● 仕事を辞めないことのメリット・デメリット

メリットとデメリット両面を把握することで、仕事を辞めてもデメリットがあり、仕事を辞めなくてもメリットがある、という視点が得られます。よって、現在の職場に対する過大解釈やレッテル貼りを解消して、認知の再構成につなげられる可能性があります。

【体験談】認知行動療法を行うことで社会的スキルが向上したケース

ここで、認知行動療法を通して、社会的なスキルの向上につながったAさんの事例を紹介します。

Aさんは、仕事で同じミスばかりを繰り返し、周囲から「話をちゃんと聞いてない」「別のことを考えていただろう」などと注意されていました。また、上司とかみ合わないと「空気が読めない」「常識がない」と他の人の前で叱責されることもありました。

その後、Aさんは病院で発達障害の診断を受け、通院中に心療内科にて1年半ほど認知行動療法を利用しました。カウンセリングでは、仕事や日常生活で体験した出来事に対する自分の感情や反応を記録し、ロールプレイを通して、今後同じような出来事が起きたときにどのように考えれば良いかを身につける訓練を行いました。

また、カウンセリングを継続することで、認知のゆがみの調整だけでなく、会話の練習ができたため社会的スキルの向上につながったと言います。

認知行動療法を職場に取り入れる際に知っておきたいこと

認知行動療法を行うことで、職場や日常生活における困りごとや悩みの解消につながる可能性があります。ただし、職場において取り入れる上では気をつけたいポイントもあるため、事前に知っておくことが大切です。

認知行動療法を受けられる機関

発達障害のある人などが、認知行動療法を受けたい場合には、まずは医療機関の精神科や心療内科にて診察を受けるのが一般的です。ただ、どの病院でも必ず受けられるとは限らず、医師の判断により認知行動療法を実施している専門家の紹介を受けるケースが見られます。

医療機関以外にも、精神科や心療内科と連携しながら認知行動療法を提供している専門機関もあります。厚生労働省では、対象となる医療機関一覧を公開していますので、以下よりぜひご参照ください。

認知療法・認知行動療法の届出医療機関一覧

認知行動療法を取り入れる際の注意点

認知行動療法は、医師やカウンセラーなど専門家と当事者で取り組みますが、本人が自分の考えに気づいていないと認知かどうかがわからず、うまく進まない場合があります。また、本人の体調が良くないときに行うと、本人を否定することで症状が悪化するなど、逆効果となるリスクもあるため、表面的に取り入れるのは危険です。

心の病気や精神疾患に関わる治療法である分、人のデリケートな部分に触れることを念頭においた上で取り組むことが重要です。認知のゆがみのメカニズムとして、先天的・後天的な理由、もしくは自身の資質よりも、理由や経緯があって癖付いてしまっている場合が多いことも理解する必要があります。

職場において認知のゆがみの考え方がある、と感じた場合に認知行動療法を提案できるように、知識として知っておくことがベストといえるでしょう。

まとめ

認知行動療法は、自分の認知の癖に気付き、バランスを整えることでストレスを軽減させる療法です。うつ病など精神疾患のある人をはじめ、発達障害がある人が特性や症状による認知のゆがみを解消するために、認知行動療法が有用な場合があります。

認知行動療法を通して視点を変え、客観的に物事を捉え直すことで職場におけるトラブルや問題の解消に役立つことが期待できます。認知行動療法を受けられる医療機関は限られますが、専門のカウンセラーと連携している病院などもあるので、近くの施設を探してみましょう。

また、本人の体調や状況によってはカウンセリングが逆効果となるリスクも考えられます。職場で認知のゆがみに気づいた際に認知行動療法を提案できる程度に、知識を身に着けてみてはいかがでしょうか。

監修者コメント

発達障害の人に対して、認知行動療法は有効ですが、単純に適応するのではなく、個別のニーズに基づいて、うまくカスタマイズしてあげる必要があります。また身につけるためには同じトレーニングを通常よりも多く繰り返す必要があり、諦めず、忍耐強く続ける必要もあります。

監修 : 益田 裕介 (医師)

防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属


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