ABA(応用行動分析学)とは|職場の人事担当者が知っておきたい考え方

「部下が職場の上司や同僚に反発的な言動を繰り返し、注意しても改善されない」
「着衣の乱れや問題行動を正すよう部下に指摘しても、聞き入れる様子がない」

上司や人事担当者にとって、そのような部下は悩みの種になっていることでしょう。

しかし、ABA(応用行動分析学)の手法を用いると、部下の問題行動が自然と少なくなる可能性があります。今回の記事では、ABAの考え方や具体例、職場でABAの手法を取り入れる際のポイントなどを解説します。

部下へのマネジメントで手詰まりを感じている方は、この記事を参考にABAを理解していきましょう。

ABA(応用行動分析学)とは?

ABAは応用行動分析学とも呼ばれており、正式名称は”Applied Behavior Analysis”といいます。

「人間の行動は本人だけでなく、本人を取り巻く環境との相互的な作用によって形成されている」というのが、ABAの根底にある考え方です。環境的な働きかけによって、本人の好ましい行動を増やし、良くない行動を減らすというのがABAによるアプローチ方法となります。

ABAの手法は、自閉症スペクトラム症などの発達障害の子供に対する発達支援の場で広く採用されています。さらには、療育分野だけでなく医療や福祉、看護、リハビリテーションなどさまざまな現場でもABAが活用されており、職場のマネジメントに活かすことも可能です。

ABA(応用行動分析学)の考え方

ABAの基本的な考え方と、ABAを理解するうえで不可欠な要素である「強化」「弱化」「消去」について解説します。

ABC分析

ABC分析の基礎原理についてイラストを交えて説明しています。

ABAでは「ABCフレーム」という考え方の枠組みを用いて、人間の行動を分析します。ABCフレームの「A」はAntecedent = 先行事象(行動が起こるきっかけとなる状況)、「B」はBehavior = 行動、「C」はConsequence = 後続事象(行動による結果)という意味です。

たとえば、スーパーのお菓子売り場で子供が母親に「お菓子が欲しい」と泣きわめき、母親はやむを得ずお菓子を買う、という場面を想定してみましょう。ABCフレームに当てはめると、お菓子売り場を通りがかって欲しいお菓子を見つけ(A)、買ってもらうために子供は大声で泣き(B)、子供を静かにさせるために母親がおかしを買い与える(C)という流れになります。

行動(B)と結果(C)にはつながりがあり、この例では泣くことでお菓子を入手するという結果に至りました。そのため、この子供は今後もお菓子を手に入れるために、泣き騒ぐという行動が「強化」される可能性が高まります。

ABC分析では、強化のほかにも弱化、消去という要素が存在します。

強化

ABC分析の「強化子」についてイラストを交えて説明しています。

ABAにおける強化とは、「行動が起こりやすくなること」を意味します。先程の例のように、なにかしらの行動の直後に本人にとって良いことが起こると、以後も同じ行動が起こりやすくなるのです。

分かりやすい例として「宿題をやったらほめられ、ほめられるのが嬉しくて積極的に宿題をやるようになる」といったことがあげられます。

ほめられる、報酬を与えられるなどの良いことが、本人の行動を強化するのです。この「良いこと」を、「正の強化子(きょうかし)」や「好子(こうし)」などと呼びます。

弱化(罰)

強化の反対にあるのが「弱化」であり、「罰」とも呼ばれています。弱化は行動の結果として「好ましくないこと」が起こり、今後はその行動が起こりにくくなることです。

弱化の一例として、学校にスマホなどの私物を持ち込んで先生に没収された結果、私物の持ち込みをしなくなるというケースが挙げられます。

ただし、ABAの現場では基本的に「弱化」は使用されません。弱化によって問題行動を減らそうとしても成功に結び付きづらく、ほかの問題行動が起こったりするケースもあるからです。

そのため、できるだけ強化によって行動を改善に導こうという働きかけをするのが一般的です。

消去

行動をしても良い結果が起こらなかった場合、以後、その行動は減少していきます。これは「消去」と呼ばれています。

たとえば、母親と買い物に行った子供が欲しいものを見つけ、買ってもらうために泣きわめく場面を想像してみましょう。どれほど「泣く」という行動を起こしても母親が絶対に買わなければ、子供は最終的に泣くという行動を取らなくなっていきます。

ABC分析の「消去」についてイラストを交えて説明しています。

ABAでは消去を単独で用いるのではなく、強化と組み合わせて問題行動の解消へと導くことが推奨されています。消去だけを使おうとすると、反動的に問題行動が増えてしまうケースもあるため、強化と消去を複合的に選ぶことが重要です。

ABA(応用行動分析学)を行う際の流れ

問題行動が起きた際の、ABAの実施手順は大きく3ステップに分けられます。まずは原因を特定して、次に具体的な対応手法を選んで実行し、最後に効果の有無を判断して次回以降の対応につなげるのが基本的な流れです。

ここでは、実際にABAを行うときの具体的なポイントを説明します。

①原因を理解/特定する

問題行動が起きた場合には、まずは原因を理解することが重要です。行動が起きる背景として、次の4つの強化子が原因となっているケースが多く見られます。

強化子概要
要求の実現お菓子を買って欲しい、あの遊びがしたいなどの要求を叶えるために問題行動を起こし、要求が通った場合に今後も同じ行動を繰り返す
回避と阻止勉強をしたくないなど、嫌なことから逃れるために問題行動を起こし、嫌なことを回避できた場合に今後も同じように行動する
注目要求の実現家族や先生などに注目してもらうために、暴力や迷惑行為などの問題行動を起こし、注目が得られた場合に同様の行動をするようになる
自動強化(感覚刺激)くるくる回る、つばを吐くなどの行動で得られる刺激そのものに快感や安心感を覚えて、同じ行動を繰り返す
強化子と概要

行動の背景にある原因を特定するためには、本人の視点に立って考えることが大切です。

②適切な手法を知る

1のステップで問題行動の原因を理解したら、次は適切な手法を選んで問題改善へと働きかけていきます。手法としては「強化」と「消去」を組み合わせたり、適宜単独で行ったりします。

<適切な手法の例>

  • 強化によって好ましい行動を増やす
  • 消去によって、問題行動を減らす
  • 消去と強化を組み合わせる

宿題をやるのが嫌で逃げ出そうとする子供を例に、強化や消去の手法を解説します。

手法具体例
強化宿題をしたら即座に、大いにほめる
消去逃げようとしても、絶対に逃がさず宿題に向かわせる
消去と強化の組み合わせ逃げようとしても絶対に逃がさないが、課題のレベルを下げて一問でも解いたら大いにほめる
適切な手法一覧

消去によって「問題行動を起こしても好ましい結果は得られない」ということを教え、さらに強化で「適切な行動を起こしたときには良い結果が得られる」のだという学びを与えることで、具体的な行動改善へと導いていくのです。

③効果があれば継続・なければ改善

問題行動に対して、実際に強化や消去で働きかけを行なったら、効果があったか否かを記録していきます。有効であった場合には引き続きその手法を繰り返して、問題行動の改善を目指しましょう。効果が得られなかった場合には、違う手法を取り入れて問題行動に対処していきます。

実際には問題行動の内容や起こる状況は多種多様であり、一人ひとりの個人差もあるため紋切型で考えることはできません。柔軟な思考で、ABAの手法を選択することが重要です。

しかし、トラブルが起きた際にはABCフレームの枠組みにあてはめて考えることが問題改善へとつながります。本人を取り巻く環境を変えて問題が起きにくくしたり、強化や消去の手法を取り入れたりして、さまざまなアプローチを試みていきましょう。

ABA(応用行動分析学)を職場で活かすために知っておきたいこと

一般的には幼児教育の場面で応用されることが多いABAですが、その考え方やアプローチは職場でのマネジメントでも活かせるエッセンスが多くあります。

具体例としては、上司や同僚に対して反発的な言動を繰り返してしまう部下に対する指導の場面や、何度も注意してもなかなか行動が改善しない場合には、以下のアプローチを念頭に置くとよいでしょう。

➀本人のニーズをとらえる

職場で発生している「問題行動」には、その行動を繰り返すなんらかの理由があります。例えば、何らかの不快を回避することです。着衣の乱れがなかなか改善されない人の根本的な原因は、発達障害の方によくみられる感覚過敏が原因だったという事例があります。

あるいは本人が職場で承認されたいという欲求を満たすためかもしれません。そのような場合には、本人の話を聞く機会を増やすことで問題行動が自然と少なることがあります。

問題行動がなかなか改善されない場合には、本人の話を聞いたり、よく観察することに立ち返ってみることをおすすめします。

➁直接的な指導ではなく、本人を取り巻く環境にアプローチする

本人に対する直接的な指導を行い、本人の意思に基づく行動の変化を試みるのではなく、その問題行動が起こらないシチュエーションをつくるほうが問題の早期解決につながることが多々あります。

特定の人とトラブルになることが多い場合には業務のペアを変えたり、職場の席を移動したり、担当業務を変えることで、問題行動がすっかりなくなるかもしれません。

➂正の強化の機会を増やす

問題行動が改善したり、そのような行動が見られなかった日には、声をかけてポジティブなフィードバックを伝えることができるとよいでしょう。

一般的に職場ではなにか問題があった時に注意されることは多々あれど、特に問題が起こらないときにほめられることは早々ありません。しかし、意図的に行動の改善に対して、ほめるなどの「正の強化」の機会を意図的に増やすことで行動の改善を助けることとなるでしょう。

まとめ

ABA(応用行動分析学)は心理学の一種です。ABAでは、行動が起こる背景には個人と環境との相互的な作用があると考え、行動が起こる前後の環境を分析して問題行動を改善へと導きます。

ABAは発達障害児の療育で大きな効果を発揮していますが、子供の行動改善だけでなく職場のマネジメントなどに活用することも可能です。問題行動を指摘しても改善が見られない社員に対して、ABAの手法を念頭において働きかけてみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

大野順平

株式会社Kaien 就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター

2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。

論文寄稿 :

月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)

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