障害者トライアル雇用とは?メリットデメリットを紹介

法定雇用率の達成を目指しているものの、障害者雇用の実績が少なく不安を抱いている企業には「障害者トライアル雇用」の活用がおすすめです。
障害者トライアル雇用を活用すると、事前に求職者との相性を見極め、受け入れ体制を整えた上で継続雇用を決定できるだけでなく、助成金を受けることができます。

今回は、障害者トライアル雇用の制度概要やメリット、利用する際の注意点、実際の企業事例などを詳しく紹介します。

障害者トライアル雇用制度とは?

「トライアル雇用」とは、就業経験のない人や未経験の職種への就労を希望している人などを“お試し”で有期雇用し、継続雇用のきっかけを創出することを目的とした公的な制度です。対象者ごとに「一般トライアル」「障害者トライアル」「障害者短時間トライアル」の3種類に分かれています。

このうち、障害者を対象とする「障害者トライアル制度」は、本雇用の前に障害者を原則3ヶ月間試行雇用し、適性や能力を見極めてから継続雇用することで、ミスマッチや早期離職を防止するための制度です。また、条件を満たす事業者には助成金が支給されます。

トライアル雇用を通して就労する休職者は年々増加しており、トライアル終了後も約8割が継続雇用されています。

障害者トライアル雇用制度の対象者

障害者トライアル雇用は「障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第1号」に定められる障害者を対象としており、障害の種類や原因に制限はありません。

また、以下の①②の条件を両方満たしていることが求められます。

① 継続雇用する労働者としての雇入れを希望している者であって、障害者トライアル雇用制度を理解した上で、障害者トライアル雇用による雇入れについても希望している者
② 障害者雇用促進法に規定する障害者のうち、次のア~エのいずれかに該当する者
ア 紹介日において就労の経験のない職業に就くことを希望する者
イ 紹介日前2年以内に、離職が2回以上または転職が2回以上ある者
ウ 紹介日前において離職している期間が6か月を超えている者
エ 重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者

引用元:厚生労働省|障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース

障害者トライアル雇用制度の助成額

障害者トライアル雇用制度を利用して障害者を3ヶ月間有期雇用し、一定の条件を満たした場合、事業者には対象者1人当たり月額最大4万円の助成金が支給されます。

支給額は、出勤予定日が分母、実際の出勤日数が分子となり、その比率によって変動します。比率ごとの支給額は、以下の通りです

  • 75%以上:4万円
  • 50~75%:3万円
  • 25~50%:2万円
  • 25%未満:1万円

また、精神障害者を初めて雇用する場合の助成金は、月額最大8万円です。なお、精神障害者は最大で12ヶ月のトライアル雇用期間を設けることができますが、助成金の支給対象期間は3ヶ月間に限られます。

どういった時に障害者トライアル雇用を利用するべき?

障害者トライアル雇用制度は、求職者との相性を見極め、入社後のミスマッチを防止する手立てとして有効です。そのため、障害者雇用の実績があまり多くなく、求職者の適性や能力を慎重に見極めたいケースに利用するといいでしょう。

また、求職者との相性を確かめたい場合には、雇用契約や賃金支払いが発生しない「職場体験」の受け入れがありますが、業務で機密情報を扱うなどの理由から、受け入れが困難なケースもあるでしょう。その場合にも、求職者と有期雇用契約を結び、かつ助成金が支給されるためコスト面でも有利な障害者トライアル雇用の活用がおすすめです。

障害者トライアル雇用制度のメリット

障害者トライアル雇用制度を利用する事業者側のメリットとしては、以下があげられます。

  • 求職者と業務の相性や、受け入れに必要な支援措置などを事前に確認できる
  • 継続雇用前にミスマッチを発見し、早期離職を防止できる
  • 就労に対する求職者の不安を払拭でき、採用率の向上につながる
  • 雇用期間中にミスマッチが発覚した場合、満了後の契約解除が容易にできる
  • 助成金を活用できるため、人件費の削減につながる

また、求職者側にとっても継続雇用前に必要な措置を整備してもらえるため、安定して業務に臨めるというメリットがあります。

障害者トライアル雇用制度のデメリット

メリットの一方、以下のようなデメリットもあげられます。

  • 教育・育成担当を配備しなければならず、人的リソースを割かれる
  • 助成金を受給するための書類作やスケジュール管理に手間がかかる

前述のとおりトライアル雇用の対象者の要件のひとつには「就労経験のない職業に就くことを希望している者」とあり、トライアル雇用制度は一般の求人と比べて、育成・教育のためにコストや人的リソースがより多くかかることが多いかもしれません。

また、助成金を受け取るには、申請時だけでなく雇用開始後にも書類提出が必要です。書類作成や提出スケジュールの管理など、担当者の負担が増える点にも留意すべきでしょう。

障害者トライアル雇用制度の申請の流れ

障害者トライアル雇用制度を利用し、助成金を受給するまでの事業者側の対応は、次の流れで進みます。

  1. ハローワーク等に「障害者トライアル雇用求人」として求人票を提出する
  2. 紹介を受けた求職者の面接選考し、条件が合えば雇用を開始する
  3. 障害者トライアル雇用開始日から2週間以内に「実施計画書」を作成してハローワークへ提出する
  4. 雇用終了日の翌日から2ヶ月以内に、助成金の「受給申請書」をハローワークまたは労働局に提出する
  5. 今日終了までに継続雇用に移行するか、雇用期間を満了するかを決定する

なお、申請した助成金はトライアル雇用終了後に支給されます。申請内容が要件を満たしているか審査された後、該当期間の支給額が一括で振り込まれます。

障害者トライアル雇用制度を取り入れる際の注意点

トライアル雇用は、通常雇用の途中から切り替えることはできません。制度を利用したい場合、ハローワーク等にトライアル雇用専用の求人票を提出し、紹介を受ける必要があります。また、求人数を超えるトライアル雇用も不可となっています。

例えば、求人数が2名のトライアル雇用求人に対して、3名以上のトライアル雇用を実施し、そのうちの2名を選抜し継続雇用する、といった運用は禁じられているということです。

助成金における注意点としては「雇用終了日の翌日から2ヶ月以内」申請期間を過ぎてしまうと、助成金を受給できなくなってしまう点があげられます。さらに、雇用中に事業者都合で途中解雇すると支給対象外となりますので、注意してください。

また、厚生労働省は、トライアル雇用の選考は書類ではなく面接で行うよう要請していますので、面接での選考を想定して採用スケジュールを組み立てましょう。

障害者トライアル雇用の活用事例

障害者トライアル雇用は、実際にどのような形で事業者に活用されているのでしょうか。実際の企業事例を紹介します。

ケース1

畜産食料品製造を行う企業では、障害者雇用の実績がなく、雇用に不安があったため、障害者トライアル雇用の活用に踏み切っています。紹介された求職者は重度知的障害と難病の重複障害により言語障害や歩行不安定を抱えていたことから、地域障害者職業センター等の支援を受け、障害特性の理解や受け入れ環境の整備を進めました。

その結果、求職者の労働能力を実際に確認できたことが障害者雇用の不安を払拭につながり、継続雇用が実現しています。

ケース2

設備工事業の事例では、障害者雇用の実績はあったものの、短期離職が課題となっていました。配置する部署の担当者が障害者雇用に対して不安を抱いていたため、トライアル雇用を活用して障害者本人と職務内容や支援措置を具体的に調整し、雇用に挑みます。調整においては、地域障害者職業センターのジョブコーチから助言を受け、担当者以外の従業員にも障害特性を周知し、対応のポイントを伝えています。

職場での受け入れ体制が整備されたことから、週5日のパート勤務で継続雇用が実現し、その後のステップアップについても方針が決定しています。

ケース3

身体障害者の雇用実績がある病院のケースでは、今まで経験のない精神障害者の雇用でトライアル制度を利用しました。対象となった障害者は集中力や注意力に欠如が見られ、臨機応変な対応を困難としていたため、本人ができる業務の掘り起こしを行いました。また、休憩時間や通院日の確保など、本人の健康面に留意した配慮も行っています。

その結果、トライアル期間中に本人が遂行可能な業務を掘り起こすことができ、事務職としての継続雇用に至っています。

まとめ

障害者トライアル雇用は「本当に就労可能なのか」という事業者・求職者双方の不安を払拭し、継続雇用のきっかけを生み出すための制度です。制度を利用して有期雇用する事業者は助成金を受け取ることができ、採用コストを削減できるなどのメリットもありますので、障害者雇用の実績がなく、不安がある事業者はぜひ活用を検討してください。

また、求職者の紹介はハローワークだけではなく民間の障害者人材紹介サービスでも可能です。Kaienでは、人材紹介だけでなく、業務の切り出しや受け入れ体制整備などに関する総合的な支援を行っております。障害者雇用に関してお悩みの企業は、ぜひご相談ください。

この記事を書いた人

大野順平

株式会社Kaien 就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター

2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。

論文寄稿 :

月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)

取材対応 :

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