マインドフルネスとは?発達障害やうつ病などに効果的な理由

マインドフルネスは「今、ここに存在する自分」に意識を向け、集中力を高めたり心を安定させたりする効果が期待できる心理的プログラムです。Google社が積極的にマインドフルネスを取り組んでいることから日本でも注目度が高まっていますが、実は発達障害やうつ病を抱えた人にも有効であることをご存知でしょうか。

今回は、マインドフルネスの基礎知識にはじまり、社会で注目されている理由や発達障害者にとっての効果、実際の活用事例などを紹介します。


マインドフルネスとは?

マインドフルネスとは、過去や未来のことにとらわれて不安やストレスを抱えている状態から脱却し、現在自分が置かれている状況に集中するための手法です。

正確には「マインドフルネスストレス低減法」といい、マサチューセッツ工科大学のジョン・カバットジン教授により心理的治療法として開発されました。ジョン教授は禅の影響を受け、仏教を単なる宗教ではなく、人の悩みを解決するための精神学として捉えていたといいます。そのため、マインドフルネスの実践プログラムは「めい想」を中心に構築されています。

具体的には、ヨーガやボディスキャンなどを通して自己の心身を注意深く観察し、めい想を通してその瞬間の呼吸や体感に意識を集中して「ただそこに存在する自分」を認識していきます。禅やヨーガの重要なエッセンスを体系的にまとめ、トレーニング法として確立したものがマインドフルネスなのです。

マインドフルネスを実践すると、集中力や仕事の生産性を高めたり、ストレスを軽減したりする効果があるといわれています。

マインドフルネスが企業で注目されている理由

昨今では、組織のパフォーマンス向上が期待できる心理的トレーニング法として、IT企業を中心にマインドフルネスを取り入れる企業が増えています。その理由として、少子高齢化により採用難が続いていることがあげられます。

日本のビジネスシーンでは長らく採用売り手市場が続いており、業界問わず多くの企業が人材確保に苦戦しています。新しい人材の確保が困難になったことから、既存人材の生産性向上が重要課題となりました。その解決策のひとつとして、マインドフルネスを取り入れる企業が増えているのです。

また、現代は働き方に対する価値観が多様化し、仕事に対して意義を求める人材が増えたことも一因でしょう。賃金だけを目的にせず「なぜここで働くのか」といった動機付けの重要性が高まったため、企業にも多様な価値提供が求められています。マインドフルネスを実践すると自身の精神的な原動力を把握できるため、社員のモチベーション管理につながるとして取り入れる企業が増えています。

マインドフルネスで得られる効果

企業がマインドフルネスを実践して得られる効果は、大きく「身体的効果」と「精神的効果」の2つに分けられます。

最も大きな身体的効果は「脳が変化する」ことです。マインドフルネスのめい想を行うと、脳の過剰な活動を鎮めて、生産性や集中力の向上、記憶の容量が増えるといった変化があることが報告されています。

また、めい想では「自身の心身に集中する」「集中が切れたことに気がつく」ことを繰り返して心を鍛えるため、次第に集中力が長続きするようになります。さらに、自分の状態を客観視できるようになることから、ストレスや緊張、不安から解放され、心が穏やかで安定した状態を維持する効果も期待できます。

発達障害の人とマインドフルネスの関係性

ビジネスシーンでも積極的に活用されているマインドフルネスですが、発達障害の特性がある人が実践してもプラスの影響が期待できます。

発達障害者は、先天的に脳機能に偏りがあることから、集中力が続かなかったり、物忘れが多かったりするなどの特徴を持つ場合があります。ほかにも、強い不安感を抱いている、対人関係がうまくいかない、ちょっとしたことでパニックになってしまうなど、日常生活でさまざまな困難を抱えやすいタイプの方もいます。

マインドフルネスを実践することで、このような自身の状況を客観視し、行動や感情をコントロールできるようになる可能性があります。心や思考が大きく揺れ動いても、それを無理に鎮めるのではなく、めい想を通して「自分は今、このようなことを感じている」と客観視する訓練を重ねることで、冷静に対処できるようになるのです。

次章では、マインドフルネスを実践した発達障害者が具体的にどのような効果を得られたのか紹介します。

発達障害者が実際にマインドフルネスを実践した体験談

ここでは、発達障害のある方がマインドフルネスを実践した体験談を2つ紹介します。

ケース1 就職活動における「気持ちの揺れ」をマインドフルネスでリカバー

私は大学生のときにADHD(注意欠陥多動性障害)とアスペルガー症候群の診断を受けました。中学生の頃にテレビでADHDの特集を見てから「自分はADHDではないか?」と思っており、大学2年の時に自分で精神科を受診したのがきっかけです。

卒業後は家族とも相談して障害者手帳を取得し、障害者枠での就職を選択しました。就職活動が思うように進まない中、メンタル面のバランスを保つために取り入れたのがマインドフルネスです。

就職活動は自分の都合通りに物事が進まず、気持ちが塞いでしまうことが多いため、ひとつの結果に一喜一憂しない姿勢が大切です。マインドフルネスのめい想を取り入れたり、日々の感情や行動を記録して自分を俯瞰したりする癖を付けたことで、慌てずに平常心で自分と向き合えるようになったと感じています。

ケース2 イライラを感じやすい特性をマインドフルネスで軽減

私には多動性の傾向と、イレギュラーや緊急的な対応が発生した際にイライラを感じやすい特性があります。

数年前、当時の勤務先で担当業務の範囲が広がり、慢性的な業務過多で常にストレスを感じていました。そこで、イライラやストレス軽減効果を期待してマインドフルネスを取り入れ、毎朝1時間ほど瞑想の時間を持つことを習慣化しました。徐々にイライラは軽減し、職場で感情的になる場面も減って、上司から「最近どうしたの?」と褒められたほど、効果はあったように思います。

ただし、注意しなければならないのは、マインドフルネスを行っても「業務量が許容範囲を超えている」という根本的な原因が解決されるわけではないということです。 現在はその会社を退職し、別の職場で安定して働けていますが、ストレスの原因が明確である場合、マインドフルネスを試すと同時に根本的な課題解決に取り組むことも重要だと考えています。

マインドフルネスの企業導入事例

企業がマインドフルネスを取り入れる場合、具体的にどうすればいいのでしょうか。マインドフルネスを活用している企業事例を紹介します。

Google

マインドフルネスに力を入れているGoogleでは、マインドフルネスと神経科学、エモーションインテリジェンスを組み合わせた独自の能力開発プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」を実施しています。

SIYは科学的な根拠のある実用的なツールで、リーダーシップやコミュニケーション能力、自己管理能力、応用力、集中力といった個人のさまざまな能力を開発するプログラムです。座学だけでなく、習慣化の実践がセットになっており、世界で約6,100人の参加者を調査した結果、受講の前後で有用な変化があったことが確認されています。

Googleは社外に向けてもプログラムを提供しており、社員研修としてSIYを実施する企業も増えています。

Yahoo!

2016年からマインドフルネス研修を開始しているYahoo!では、Google社のSIYを参考に、「メタ認知トレーニング」を取り入れた独自のプログラムを作り上げています。

「メタ」とは「高次の」という意味で、一段高い視点から状況を俯瞰し、的確な方向へと物事を導くトレーニングのことです。このプログラムでは、自分が持っている思い込みやバイアスを認識し、自分の状況を俯瞰的・客観的に認知することでリーダーシップ開発やパフォーマンスの向上を目指します。

さらに、Yahoo!はマインドフルネスの有効性を示すためのデータ取得を重視しています。例えば、マインドフルネス研修を週3以上実施している社員とそうでない社員とでは、業務のパフォーマンスに平均40%ほどの差があることがわかっています。

まとめ

集中力や注意力を高めるだけでなく、ビジネスパーソンが身に付けるべき能力の開発につながるマインドフルネスは、多くの企業が社員研修の一環として取り入れています。

また、自身の感情や思考の動きを俯瞰的・客観的に観察できるようになることから、発達障害を抱える人にも一定の効果があると考えられます。めい想を中心とした取り入れやすいプログラムで構成されていますので、タスク管理やコミュニケーションに悩んでいる社員がいる企業は、マインドフルネスを取り入れてみてはいかがでしょうか。

■監修者コメント

座禅が代表例であるように、情報を取り込むのではなく、立ち止まり、心を落ち着ける時間を持つことはとても重要です。5分の時間であっても、静寂に耐えられない人は多くいるのでは? トレーニングだと思い、続けてみてください。

監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックリンク 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属

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