てんかんは、脳の神経細胞が過剰な電気活動を起こして発症する慢性的な脳疾患です。適切な治療などにより、症状をコントロールできるようになる可能性もあると言われています。てんかんのある人が安定的に就業するためには、症状や要因、発作が起きた時の対応など正しい知識を身につけ、適切な配慮を行うことが重要です。
本記事は、てんかんの基本知識から発作が起きた際の適切な対処法、てんかんのある人を採用する際の確認事項や配慮などについて解説します。てんかんがある人が安心して働ける職場環境を構築するためにも、ぜひお役立てください。
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てんかんとは?
てんかんとは、てんかん発作を繰り返す脳の病気で、年齢や性別、人種といった条件に関係なく発病すると言われています。世界保健機関(WHO)では、てんかんは「脳の慢性疾患であり、脳の神経細胞(ニューロン)に突然発生する激しい電気的興奮により、繰り返し起きる発作に伴い、さまざまな臨床症状や検査での異常が伴う病気」と定義されています。
数百億あるとされる人間の脳の神経細胞は、電気的な活動により情報伝達を行っています。強い電気刺激を受けて過剰な電気活動を起こすことがあり、それがてんかん発作につながると考えられています。
厚生労働省によると、てんかんのある人は人口1,000人あたり5〜8人(日本全体で60万〜100万人)いるとされ、特に小児と高齢者の発症率が高い傾向にあります。
てんかんの発作の症状
てんかん発作の代表的な症状として、以下のようなものがあります。
部分発作 | 運動発作 | 手足がひきつる |
首や目が勝手に動く | ||
感覚発作 | 光が見える | |
音が聞こえる | ||
手がしびれる | ||
自律神経発作 | 吐き気や頭痛が起きる | |
全般発作 | 欠神発作 | 意識を失う |
強直発作 | 全身が硬直する | |
脱力発作 | 力が入らなくなる |
てんかんに対する一般的なイメージとしては、意識を失う「欠神発作」や、全身が硬直する「強直発作」の印象が強いかもしれませんが、必ずしもそのようなケースばかりではなく、発作の様子はその人それぞれです。
多くの場合、てんかん発作は数秒間から数分間で終わりますが、数時間続くこともあります。発作を繰り返す間隔も、数年、数ヶ月、数日とケースバイケースで変わることが特徴です。
てんかん発作の要因
てんかんの発作のきっかけとなる要因として、以下のようなものが挙げられます。
行動によるトリガー | 体調変化によるトリガー | 外部環境によるトリガー |
薬の飲み忘れ計算やパズル読書ビデオゲーム | 体温の上昇過呼吸月経睡眠不足睡眠リズムの乱れ肉体的な疲労精神的な疲労ストレスの蓄積 | 光の点滅やしま模様急な音気圧などの気象条件 |
気温や気圧の変化、外からの音や光といった外的要因に加えて、ストレスや睡眠不足、月経などの体調の要因も関係しています。どのような条件下で発作が起きるかは個人によって異なりますが、可能な範囲できっかけとなる要因を減らす工夫をすれば、症状を抑えられる可能性があります。
職場でてんかんが起きた際の対応について
職場でてんかんのある人が発作を起こしたときには、周囲の人はまず冷静になることが最も重要です。安全な場所に移動させて、周囲の危険物を除き、呼吸がしやすいように服のボタンやベルトをゆるめます。
全身にけいれんが起きた場合でも、通常は数十分ほどで意識が回復することが多いため、すぐに救急車を呼ぶ必要はありません。無理に揺さぶったり、大声で呼びかけたりせず、落ち着いて見守ることが大切です。
時計があれば、発作が起こった時刻や症状、発作が治まるまでの時間を確認しておきます。発作が治まった後、眠っている場合には無理に起こさずにそのまま休ませ、状況に応じて早退や欠勤も検討しましょう。
てんかんがある人を採用する際に確認するべきこと
てんかんのある人が職場で快適に働くために、採用時には以下のようなことを確認しておく必要があります。
- 薬の飲み忘れがないかどうか
- どういった種別のけいれん発作が起きたか
- 直近で発作が起きたのはいつ頃か
- 業務上避けた方がいい仕事内容(車や命に関わる薬品等を扱うなど)
- 本人自身にけいれん発作が起きたときにどう対応してほしいか
- 周囲に対してどのような、どの程度の配慮を必要としているか
確認事項に注意することで、多くの人は一般のてんかんがない人と同じように仕事ができるようになります。事実確認の内容に沿って適切な配慮を行いつつも、思い込みや偏見がないように採用することが大切です。
てんかんがある人を採用する際の職場での対応
ここでは、てんかんがある人を採用する場合に、職場における対応のポイントについて解説します。安定就労に必要な配慮や対策を知り、現場に取り入れるために参考にしてください。
- 一緒に働く人にてんかんについて周知する
- 本人が疲れを溜めすぎないように配慮する
本人からの希望があれば、一緒に働く人にてんかんについて周知する
本人の同意を得た上で、てんかんの人がいる旨を職場内で周知し、理解を促すことが大切です。実際にてんかん発作が起きた際の症状や起きやすい時間帯、予兆、取るべき対応などの情報を共有しておきましょう。
周囲の人がスムーズに必要な対応を行うために、発作時の対応マニュアルや緊急連絡先を周囲の社員に配っておく方法も有用です。
疲れを溜めすぎないように配慮する
てんかん発作が起こる要因として、睡眠不足やストレス、精神的・身体的な疲れがあります。残業が多いなどで仕事の負荷が大きくなると、疲れからてんかん発作が起きかねません。
無理のない範囲で勤務を続けられるよう業務時間や業務量を調整しましょう。夜勤や長時間労働は避け、在宅勤務やフレックスタイム制など柔軟な働き方がしやすい制度の導入も検討できると理想的です。
本人が周囲に気を使ってしまい、気軽に相談できない場合もあるので、業務に関して相談できる担当者を決めておくと良いでしょう。
まとめ
てんかんは、突発的な発作によって症状が起きる慢性的な疾患とされています。てんかん発作が起きる要因は、外的要因から身体的、精神的な疲れまでさまざまです。症状にも個人差がありますが、多くの場合発作が起きると突然倒れて呼吸が止まる、意識がなくなるといった症状が見られます。
職場においててんかん発作が起きた際には、その場で冷静に対処することが最も大切です。また、てんかんがある人を採用する際には、本人との事前確認や周囲への周知をしっかり行うことで、発作が起きた際にも適切かつスムーズな対応が期待できます。
監修者コメント
てんかん患者さんは発作の問題だけでなく、体調や服薬管理、通院し続けることなど日常生活にも様々な制限があります。精神的なサポートのみならず、疾患理解や特に発作の前兆や特徴を理解することが重要です。疲労具合を確認しつつ、適切な仕事量になるよう、調整も必要です。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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