障害者雇用の2018年問題とは?
2018年4月、障害者雇用で大きな改革が行われます。それが『精神障害者の雇用義務化』と『障害者雇用率の2.2%の引き上げ』です。ただこの2つは同じ意味といえます。つまり精神障害者の雇用が義務化されるから、障害者雇用率が引き上げられるのです。
「え、どういうこと・・・?」 ちょっとわかりづらいですよね…。私も理解が遅くてよく怒られるので、気持ちがわかります…。ゆっくりと一つ一つ解説していきましょう。
わかりやすい(はず!)障害者雇用率の計算方法
今回の問題。理解するにはそもそも国がどのように障害者雇用率を数えているかを知る必要があります。
法定雇用率を決める計算式
(働いている障害者+求職中の障害者)÷(働いている人+求職中の人)
実は2017年度(つまり2018年3月)までは、この式の障害者に精神障害者が含まれていないのです。これを精神障害を含めましょう、ということになるのが2018年4月です。そしてそれはすなわち、障害者雇用率が上がるということになります。なぜなら働いている(あるいは仕事を探している)障害者の内、精神障害の障害者手帳をもっている人がたくさんすでにいるからです。精神障害の人を外すと2.0%だったのが、入れると2.2%以上になっているというのが現状です。
本当ならば2.3%か2.4%になるかもとすら言われていたのですが、まずは2.2%にすることにしました。激変緩和措置(急に変わると企業も大変だから少しずつにしましょう)っていうものですね。実際、数年以内には2.3%になることも既に決まっています。
精神障害をすべての企業が雇う義務ではない でも・・・
ここからが更にこんがらがるところなのですが・・・実は「精神障害者の雇用義務化」というのは、「上の計算式の中に精神障害が入りますよ」という意味です。「すべての企業が精神障害のある人を雇わないといけないわけではない!!」のです。ですから「知的障害だけを雇いたい!!」といえばそれはその会社の方針としてOKですし、「身体障害者だけで雇用率を満たしている」ようであれば今回の変化で行政から指導を受けることはありません。あくまで数字を達成すればその中身(働いている人の障害種別)は問われないのが、今の障害者雇用の法制度です。
でも・・・なんです。実は大きな会社ほど、今回上がる0.2%の障害者雇用率は大きなインパクトになる可能性があります。例えば1万人の企業だったら20人、新たに障害者を雇う必要があるわけです。雇わないと、色々行政から指導が入って、企業の人事だけではなくお偉方が対応を迫られちゃうのです。(詳しくは別の機会にお話しますね。)
かつ、身体障害の人や知的障害の人はなかなか労働市場に出てきません。もともと人数が少ないこと、雇用され得る人は相当の割合ですでに雇用され尽くしていることから、労働市場にいるのは精神障害の人がほとんどという状況です。つまり回り回ってといいますか、障害者雇用率の上昇・精神障害者の雇用の義務化は、やはりほとんどの企業で精神障害の人を一層雇う必要があるということになってきます。
精神障害に発達障害*¹って含まれるの?
じゃあ、その精神障害に発達障害って含まれるの?という質問をよくいただきます。答えは YES です。
そもそも精神障害は 「うつ」「双極性障害(躁うつ)」「統合失調症」「パーソナリティ障害」など。一方で発達障害は 「ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)」、「ADHD(注意欠如多動症)」、「LD(学習障害*²)」などのことを指しますが、いずれも 精神科 で診断されるものです。このため精神的な病ということで精神障害者保健福祉手帳が発行されるプロセスは変わりません。
つまり、狭い意味での精神障害は「うつ」「双極性障害」などその人のこれまでの人生の辛さで後天的に出てきた症状・病気であり、広い意味での精神障害は、狭い意味の精神障害+発達障害(生まれながらの先天的な脳機能の違い)、ということになります。
念のため、行政的な”精神障害者”は精神障害者保健福祉手帳をもっている人ということになります。このため今回2018年問題で雇用が拡大することが予想される精神障害者には、発達障害の診断のある人も含まれるわけです。
2018年4月に2.2%の雇用率にするのが模範的な企業だが…
もちろん、コンプライアンスを重視される企業でしたら、法令が変わる2018年4月に合わせるのが模範的と言えるでしょう。しかし実際は、2018年4月までに対応完了しなくても、大きな問題にはならないこともあります。というのも・・・
- 2018年4月1日 障害者雇用率 2.2%に上昇
- 2018年6月1日 各企業の障害者雇用率の算定日(→この日に何人雇っているかが重要)
- 2018年12月頃 6月のデータの集計結果(※) ハローワークから公表
- 2019年1月以降 ハローワークにより未達成企業に指導
特に※で計算されたデータで一定基準(全社平均)を
下回る企業に改善計画提出を要求 - 2019・20年 各社による雇用率達成のための試み
- 2021年?3月 未達成の企業として企業名公表
という感じで流れていくからです。
【参考】東京都 障害者雇用促進ハンドブックより以下抜粋 障害者雇用率未達成の事業主で一定の基準を下回る事業主に対しては、公共職業安定所長が「障害者の雇入れに関する計画書」の作成を命令します。 なお、行政の指導にもかかわらず障害者雇用に適正に取り組まなかった企業については、その旨を厚生労働大臣が公表します。
ポイントとしては、
- 本当の意味で各企業が気にしているのは、法定雇用率(2.2%)というよりも2018年6月の平均値(おそらく2.0%前後になりそうと言われています)
- その平均を上回っていれば、そこまで焦る必要はない
- もし平均を下回りそうならば、まずは2.2%ではなく平均に達する策を考える
- そもそもどんな策を打っても平均に届かないようならば、それは確かに準備を加速させる必要がある
- ただ多くの会社が怖がる”社名公表”というのはだいぶ先の話で悪質な場合が多い
という感じです。
【参考】厚労省 平成28年度 障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表等について
焦ってするべきではない障害者雇用
何をお伝えしたいのかというと障害者雇用は焦ってすべきではないということです。特に見えない障害といわれる、精神障害・発達障害の場合は、コツを押さえればそれほど失敗することはないですが、企業内の理解が進まないうちに進めても、採用した人たちがなかなか定着してくれない、結果雇用率が上昇しない、ということにつながりかねません。また失敗を繰り返すと、障害者雇用に対する負のイメージが社内に広まってしまい、更に雇用を難しくします…。(かといって前述のように、身体障害や知的障害だけでは障害者雇用率が充足しない場合が多いですので、精神・発達の雇用促進が必要になります。)
人事や経営の思いだけで2.2%に適応しようとする必要はなく、しっかりと計画を立てて、社内での告知や体制整備などの準備をしながら、安定した雇用につなげていただきたいと思います。もちろんKaienでは現実を踏まえた上でのアドバイスを企業に差し上げています。特に発達障害、またそれに関わる二次障害としての精神障害についての雇用や採用でのポイントなどをお伝えしています。ぜひお気軽にお問い合わせください。(Kaien法人窓口: rep@kaien-lab.com)
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます
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