【最新調査レポート】障害者雇用における企業のAI活用状況 ~アンケート結果から見えた現状と現場のリアル~

民間企業における障害者の法定雇用率が引き上げられる中、職場への定着や業務の切り出しに課題を感じる企業は少なくありません。そうした中、ChatGPTなどの生成AIツールが、企業のAI活用の一環として、障害者雇用においてどのような役割を果たしているのか注目を集めています。
株式会社Kaienでは、障害者雇用におけるAIツール(生成AI等)の活用実態や現場での工夫、今後の課題を明らかにするため、「企業のAI活用状況に関するアンケート」を実施いたしました。
本記事では、企業様から頂戴した回答データ(n=88)の集計・分析結果をもとに、企業のAI導入状況や、障害者雇用におけるAIの「合理的配慮」としての可能性についてご報告いたします。

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調査結果サマリー:障害者雇用におけるAI活用の現状

本調査の結果、企業におけるAI活用はすでに一般的な業務環境の一部となっており、障害者雇用の現場においても以下の4つの傾向が確認されました。

  1. 導入状況:AI活用は「特別なこと」から「日常のインフラ」へ
    • 回答企業の約80%が業務において生成AIを導入しており、障害者雇用においても「あって当たり前の環境」になりつつあります。
  2. 合理的配慮としての有効性:7割以上の企業が「有効」と回答
    • AIを「合理的配慮」として活用することに70%以上の企業が有効性を認めており、メンタルヘルス管理やコミュニケーションの円滑化など、障害特性に起因する課題解決に直結している事例も見られました。
  3. 採用基準の変化:「必須ではないが、強力な加点要素」
    • 採用選考において、約40%の企業がAIスキルを「必須ではないが、使えると評価が高い・採用に有利」と回答しています。
  4. 現場の課題:「個人のリテラシー」への依存
    • 一方で、障害のある社員へのサポート体制については、約4割が「特になし(個人の工夫に任せている)」と回答しており、現場レベルでの具体的な活用指導やルール作りが今後の課題となっています。

アンケート集計結果(詳細データ):企業のAI導入と実態

本アンケートにおける回答企業の属性は、人事(採用・定着・DE&Iなど)が約72%、上司が約29%、指導係・メンターが約28%でした(※複数回答、n=88)。以下に主要な設問の集計結果をご報告します。

企業の生成AI導入状況

約8割の企業で、何らかの形でAIの導入・活用が進んでいることがわかりました。

  • 全社的に導入し、活用を推奨している:45%(36社)
  • 一部の部署・職種で導入・活用している:35%(28社)
  • 導入予定なし・検討中:20%(16社)
企業の生成AI導入状況

合理的配慮としての有効性

障害者雇用におけるAIの有効性については、リスクの懸念よりもメリットへの期待が大きく上回る結果となりました。

  • 有効だと思う(事例はまだないが、可能性を感じる):55%(44社)
  • 非常に有効だと感じる(実際に補完できている事例がある):19%(15社)
  • どちらとも言えない・懸念あり:26%(21社)
合理的配慮としての有効性

採用時のAIスキル要求度

選考時において、AIスキルは強力な加点要素になりつつあります。また、入社後の活用を期待する声も多く見られました。

  • 必須ではないが、使えると評価が高い・採用に有利:40%(32社)
  • 現時点では求めていないが、入社後に使い方を覚えてほしい:30%(24社)
  • 特に求めていない(業務で使用する予定がない):24%(19社)
  • 必須スキルとして求めたい:6%(5社)
採用時のAIスキル要求度

障害のある社員へのサポート体制

組織的なサポートの導入は進んでいるものの、依然として個人のリテラシーに依存している現状が浮き彫りになりました(※複数回答)。

  • 特になし(個人の工夫やリテラシーに任せている):約39%(31社)
  • 利用ガイドライン・ルールの明示:約31%(25社)
  • 有料アカウントの支給(ChatGPT Plusなど):約20%(16社)
  • 社内研修・勉強会の実施:約18%(14社)
  • プロンプト集の共有:7社
障害のある社員へのサポート体制

障害のある社員の活用用途

障害者雇用の現場でのAI活用用途を尋ねたところ、業務効率化にとどまらず、「心理的負担の軽減」といった合理的配慮としてのニーズが可視化されました(※複数回答)。

  • 作業時間の短縮・効率化:約48%(38社)
  • 成果物の品質向上(誤字脱字等):約41%(33社)
  • 心理的負担の軽減(メンタル):約25%(20社)
  • コミュニケーション支援:約23%(18社)
  • アイデア出し・企画支援:18社
  • 専門スキルの補完:13社
  • 着手のハードル低下:6社
障害のある社員の活用用途

企業のAI活用事例:現場のリアル

本調査では、企業のAI活用として、現場での実践的な事例も多数寄せられました。特性上の課題をテクノロジーでカバーしている具体的な声をご紹介します。

【コミュニケーション・文書作成支援】

  • 感情的な言葉の修正:
    • コミュニケーションが直接的になりがちな社員が、送信前にAIにメール添削を依頼。「角が立たない表現」に変換させることで、対人トラブルを未然に防止しています。
  • 心理的安全性の確保:
    • きつい言い回しになっていないかの確認や誤字脱字のチェックをAIに行わせることで、社員は安心感を得ています。また、上司に何度も質問することに引け目を感じる社員が、まずAIに質問して自己解決を図ることで、精神的な安定と業務スピードの向上を両立させています。

【業務遂行・マネジメント支援】

  • 指示の具体化:
    • 「会議の準備をして」といった曖昧な指示をAIに入力し、具体的なToDoリスト(チェックボックス形式)に変換して実行を支援しています。
  • 業務理解と初動支援:
    • 手順書から「次やるべきこと」を回答させたり、ゼロから考えるのが苦手な特性に対し、たたき台(ドラフト)を作成させたりすることで、着手へのハードルを下げています。

【メンタルヘルス・自己管理】

  • メンタルセルフケア:
    • 自身の体調や不安をAIに入力し、客観的な整理やアドバイスをもらうことで、安定就労につなげています。朝、体調を入力してアドバイスをもらうメンター的な使い方や、悩みを「業務」と「プライベート」に切り分けて整理する事例もありました。
障害者雇用「業務切り出し事例集」
(精神・発達障害編)

考察と今後の展望:企業のAI活用は「合理的配慮」の一環へ

本調査結果から、企業におけるAI活用は、単なる業務効率化ツールとしての枠を超え、障害者雇用の分野において コミュニケーションや心理的サポートを含めた『合理的配慮』の一環として、大きな期待と関心を集めている ことが明確になりました。

これらの事例は、AIが「障害のある社員が、自身の苦手をテクノロジーで補い、強みを発揮するための『メガネ』や『車いす』のような役割」を果たし始めていることを示唆しています。 一方で、導入は進むものの、具体的な制度設計や活用事例の創出、さらには個人のリテラシーへの依存からの脱却は、今後の企業にとって重要な課題と言えます。

企業のAI活用は、障害者雇用の現場において強力なサポーターとなりつつあります。個人の工夫に頼る段階から、組織全体でのサポート体制の構築へと進めることが、採用された社員の長期的な活躍や定着の鍵となるでしょう。

Kaienでは就労支援の現場においても、利用者の方へAIの活用方法や留意点についての情報提供を行っています。

参考:障害者雇用におけるAI活用法とは?代表的なツールや注意点、よくある質問を紹介

障害者雇用におけるAI活用、その他業務の切り出しや現場のマネジメントに関してご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

東海林 彩子

株式会社Kaien 法人ソリューション事業部
ブリッジコンサルタント

大学(心理学専攻)卒業後、イベント運営会社を経て、2014年Kaien入社。就労移行支援の支援員として経験を積み、2020年から法人向けサービスに参画。大手企業多数の障害者雇用プロジェクト推進の他、大手グローバルファームに常駐しダイバーシティ推進担当として社内啓発などの業務に従事。公認心理師。