5年に一度の障害者雇用の統計調査 「令和5年度障害者雇用実態調査」のポイントを解説

「障害者雇用実態調査」は、厚生労働省が実施する障害者雇用に関する統計調査です。5年ごとに実施されており、2023年6月から7月にかけて行われた調査結果が、2024年3月に厚生労働省のウェブサイトで公表されています。

参考:令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します(厚生労働省)

障害者雇用に関するデータには、毎年6月1日現在の身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用状況について、障害者の雇用義務のある事業主などに報告を集計している「障害者雇用状況の集計結果」があります。(参考:令和5年 障害者雇用状況の集計結果

両者の違いは以下の表にまとめていますが、端的に言うと「障害者雇用実態調査」は障害者雇用推進の施策検討や立案に向けて役立てる情報を集める障害者雇用における国勢調査のような位置づけといえるでしょう。

障害者雇用実態調査障害者雇用状況の集計結果
実施の頻度5年に一度1年に一度
障害の区分4区分(身体障害、知的障害、精神障害、発達障害)障害者手帳に基づく3区分(身体障害者、知的障害者、精神障害者)
調査の対象となる事業所常用労働者を5人以上雇用している民営事業所雇用義務のある企業(民間企業であれば43.5人以上規模)
調査方法統計法に基づく一般統計調査(標本調査)ロクイチ報告に基づく集計(全件調査)

雇用者数は推定110万人に到達、全体的に障害者雇用は着実に進展

従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数は110.7万人(推定値)で、前回調査に比べて 25.6万人の増加という結果でした。

なお、同時期に公表されている「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」で公表されている雇用数は 64.2万人とされており、混乱される方がいるかもしれません。障害者雇用状況の集計結果は、上述の通り、「雇用義務」に特化した集計値となっており、従業員43.5人未満の企業の雇用は算定に含まれていないこと。また、「障害者雇用実態調査」は、手帳を持っていない(医師の意見書のみで確認しているケースなど)方も調査の対象としているため、「障害者雇用実態調査」のほうが、「障害者雇用状況の集計結果」と比較して、人数が多く集計されているものと推察されます。

障害区分ごとの増加の内訳をみると、身体障害者および知的障害者の増加の割合が高く、それぞれ約10万人程度の増加。次いで発達障害者が約5万人の増加。精神障害者はほぼ横ばい、という結果でした。
障害者雇用全体における身体障害者の方が占める割合は、15年前(2008年)と比較すると、77%から47%と変化し、2018年に施行された「精神障害者の雇用義務化」の法改正なども経ながら、より幅広い範囲の障害者に対して雇用のすそ野が広がっていることがわかりました。

平成20年から令和5年度までの障害者雇用実態調査に基づき、Kaienが作成

精神の手帳を持っている労働者の内訳 約3割が発達障害か

繰り返しとなりますが、障害者雇用状況報告書(ロクイチ報告)をまとめた「障害者雇用状況の集計結果」は障害者手帳に基づくデータであるため、発達障害は手帳の制度設計上、精神障害者としてひとくくりで扱われています。そのため、手帳の区分上で「精神障害者」として取り扱われている人のうち、どの程度の割合を発達障害者が占めているのか、実態を把握することが難しいものとされていました。

障害者雇用実態調査では、前回2018年調査から、統合失調症・気分障害などの精神障害と、ASD・ADHDなどの発達障害を区別し、調査を行っています。2023年の調査結果は、精神障害者の雇用者数は21.5万人(うち障害者手帳を持っている人は推定19.9万人)、対して発達障害者は9.1万人(うち障害者手帳を持っている人は推定7.4万人)となっており、精神障害者保健福祉手帳を持っている人のうち発達障害を主たる診断とする人の割合は約27%と推定することができます。

発達障害の二次障害としてうつなどの診断を受けている人も多くいますし、密接に関係しているものなので診断名で区分けすること自体にあまり意味はありませんが、障害者雇用全体のうち、どの程度の割合で発達障害の方がいるのか?というざっくりとした全体像を捉えるための一つの参考にはすることはできるでしょう。

また、前回2018年からの推移に着目すると、うつ病などの精神障害の方の雇用は20万人から21.5万人と微増であることに対して、発達障害者の雇用は3.9万人から9.1万人と増えており、急速なペースで発達障害者の雇用が拡大している、ということが言えるでしょう。

障害区分による違い① 年齢構成

ここからは、障害4区分の違いに着目します。まずは年齢構成についてです。

各障害区分による年齢構成には大きな違いがあります。知的障害・発達障害は19歳以上から35歳未満が全体の6割以上を占めており、比較的若い年齢層の方が雇用の対象となっています。一方で身体障害の方はそれとは相反し、障害者雇用における身体障害の方の高年齢化が顕著に現れました。50歳以上の方は身体障害の方の全体の6割以上を占めており、実数にすると32.8万人。これはすべての障害者雇用(110万人)の約30%にあたります。

定年退職などを考慮すると、今後5年・10年以内に、障害者雇用全体における4区分の構成がおおきく変化していくことが想定されます。

令和5年度 障害者雇用実態調査の公表データに基づき、Kaienが作成

障害区分による違い② 給与

次に給与です。障害4区分の平均賃金はそれぞれ以下の通りです。

  • 身体障害者 23万5千円
  • 知的障害者 13万7千円
  • 精神障害者 14万9千円
  • 発達障害者 13万0千円

上記の通り、身体障害が他の3つの障害区分と比較して、10万円程度平均賃金が高いという結果でした。

障害区分による違いは、複合的な要因が折り重なっている結果であると想像されます。第一に考えられるのは、勤続年数の違いです。精神障害や知的障害の方の平均勤続年数は5年程度であるのに対して、身体障害の方の平均勤続年数は12年以上あり、経年ごとに徐々に給与が上がっていった結果が影響していることが想像されます。

その他の要因としては、他の区分と比較して身体障害の週30時間以上の通常勤務をしている人の割合が多いことが関係していると考えられます。しかしその一方で週30時間以上の通常勤務のみを比較しても、やはり数万円の大きな差はあります。

給与以外にも無期雇用の正社員比率にも、他の障害区分と比べて身体障害の方のほうが高い傾向がみられました。担当している業務内容や責任範囲に違いがあるのかもしれませんが、全体の傾向として障害区分による待遇の違いが出てしまっていることについては、今後是正されていくことが期待されます。

事業者は「障害者に適当な仕事がない」と感じている

障害者を雇用する際の課題としては、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者ともに、「会社内に適当な仕事があるか」が70%以上と、最も多くなっていました。

また、障害者を雇用していない企業が、雇用しない理由として挙げている点も上記同様に「当該障害者に適した業務がないから」というものが最も多い結果となりました。当該設問は前回2018年の調査においても同様の結果が見られています。

まだまだ雇用の現場においては、障害者の人には簡単な業務や単純作業しか任せることができない、と思い込んでいる人たちが多いのかもしれません。しかし障害者雇用であっても、専門領域を活かして活躍したり、障害に対する適切な配慮を得ながら一般雇用と同じ業務内容・責任範囲で活躍している事例はたくさんあります。

参考:特性を強みに変える 多様な人材が活躍できる企業特集

2024年6月に公表された労働政策審議会障害者雇用分科会の意見書では、障害者雇用のマッチングについて以下のような課題があると示唆されています。

アセスメントについては、検討会報告書において、障害者の就労能力や一般就労の可能性が十分に把握されておらず、適切なサービス等に繋げられていない場合もあるのではないかといった指摘がされており、ハローワークについては特にアセスメントの機能強化の必要性が指摘されている。

引用元:労働政策審議会障害者雇用分科会意見書

言い換えると、障害者雇用を支えている関係機関が障害者の能力を十分に把握するためのノウハウを十分に持っていないため、障害者の能力や意欲を可視化できておらず、企業で活躍してもらうためのマッチングができていない、ということです。

厚生労働省では、今後、福祉・雇用それぞれのサービス体系におけるアセスメント(障害者・企業双方のニーズの把握と、就労能力や適性の評価)の仕組みを構築・機能強化する方針を立てています。

まとめ

障害者雇用実態調査は民営事業所における障害者の雇用実態を把握し、障害者の雇用施策の検討や立案に役立てるために、厚生労働省が5年ごとに実施している統計調査です。雇用されている障害者の数は、前回調査から25.6万人増加し推定110万人でした。

障害の種別ごとに身体障害、知的障害、精神障害、発達障害の4区分に分けて調査されており、年齢構成や平均賃金などに違いがあることが示されています。

雇用している企業の視点では「障害者に適当な仕事がない」と感じている企業が多いことがわかりました。今後さらに法定雇用率が引き上げされる中で、雇用の拡大にあたって重要となるポイントは、障害者雇用のマッチングにおいてアセスメントの機能強化にあると推察されます。

Kaienでは法人様向けのサービスとして、業務切り出しや職域開拓を支援するコンサルティングや、採用選考における障害アセスメントを伴走して行い、OJT形式で見極めノウハウをお伝えする採用支援に力を入れています。戦力となる障害者雇用を推進したい企業様はぜひご相談ください。

参考:障害者雇用のコンサルティング障害者雇用の採用支援

この記事を書いた人

株式会社Kaien|就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター 大野順平

2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。
論文寄稿:月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)
取材対応:朝日新聞「発達障害は「わがまま」? 働く場の合理的配慮?特集。NHK クローズアップ現代+「企業が注目!発達障害 能力引き出す職場改革」 他多数

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