面接官向け|発達障害がある方を面接する際のポイント、会話のコツを解説

昨今、障害者雇用の重要性が高まっています。なかでも発達障害などの精神障害者は、2018年の法改正により雇用義務の対象となり、求職者も増加傾向です。

また、独立行政法人日本学生支援機構の調査(※)によると、全国の大学などにおける障害を持つ学生数は年々増加傾向にあり、発達障害を持つ学生の割合も増えているという結果も出ています。そのため、今後も障害者雇用における発達障害の割合は増えていくでしょう。

本記事では、発達障害の方を面接する際の心構えやチェックポイント、コミュニケーション方法などについて解説しています。発達障害の方への理解を深めるためにも、ぜひ参考にしてください。
※出典:「令和 4 年度(2022 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」結果の概要について

発達障害がある方の面接で必要な心得

アジア人女性が面接にて採用担当者と対話している様子

発達障害に起因する苦手なことや、特徴的な傾向は「症状」とは言わず、一般的には「障害特性」と表現されます。

障害障害は、見る角度や環境を変えれば「仕事で活かせる強み」となるケースもあるので、「弱点」ではなく「個性」と捉えることができます。発達障害がある方を面接する際には「障害」にフォーカスして「困っている」「弱み」を前提にするのではなく、人として向き合い、個性を理解するように心がけることが大事です。

また、物事の捉え方は、人により異なるため、応募者の自己認識もポジティブあるいはネガティブに極端に偏っているケースがあります。本人の認識と事実が異なる場合も多いため、良い意味で本人のいうことだけをそのまま鵜呑みにするのではなく、事実ベースで見極める判断力が必要です。

さらに発達障害の方は、「言語の流暢さ」と「理解の深さ」が比例しないケースも多くあります。例えば、会話のキャッチボールが苦手でも、理解力が高く、むしろ仕事上でのコミュニケーションはスムーズにできるというケースもあるでしょう。このように、「会話が流ちょうであるかどうか」のみで評価すると、その方の能力を見誤ってしまうケースもあるので注意が必要です。

発達障害の応募者が面接で見ているポイント

面接を受ける応募者は、その会社の「障害に関する理解の程度」や「就職したあとに期待できる配慮」を、面接官とのやり取りを通じて見ています。そのため、面接官は、障害に関する一定の理解を持っていなければなりません。

応募者が安心して面接を受けられるように、面接の進め方や伝え方などでは、通常の面接よりも配慮が必要です。配慮のない面接の進行は、「この会社で働いていけるだろうか」と応募者に不安を与えてしまいます。

発達障害に関して理解しておくべき要点については、次項以降で詳しく解説していきますので、参考にしてください。

発達障害の特徴

発達障害とは、生まれながらにして脳機能の発達にバラつきがあり、「得意なこと」と「苦手なこと」に大きな差がある状態を指します。能力のバラつき方は、同じ発達障害であっても十人十色です。

また、発達障害には複数の症状があり、多くの場合、どれか1つの症状があるのではなく、ASDやADHD、LDなどの複数の特徴が折り重なっています。そのため周囲の人は、1人ひとりが持つ特性の理解が必要です。

表面的な発達障害の知識をもとに、診断名でその人の障害特性を決めつけることが無いように注意しましょう。

発達障害についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひご覧ください。

発達障害の方の面接でチェックしたい3つのポイント

発達障害の方を雇用する場合も、通常と同じく、自社で長く働いてもらえるかどうかを面接で見極める必要があります。

ここからは、発達障害の方を面接する際の、3つのチェックポイントについて解説します。

1.長期就労する準備ができているか

障害者雇用の面接では、就労準備の基礎が整っているかを見極めることが重要です。

一般枠の雇用の延長で、突出するような高いスキルを持っていたとしても、健康管理の面で準備が不十分で、雇い入れた直後に会社に来れなくなってしまう、という残念なケースも少なくありません。

そのような事態を防ぐために有効な概念として「就労準備性ピラミッド」があります。

就労準備性ピラミッドの5段階の図

就労準備性ピラミッドとは、就業するのに必要とされる5つの項目の優先度を表した図です。長期就労できるかを判断するには、このピラミッド図のように、土台として「心と体の健康管理」や「日常生活の管理」があり、てっぺんに向けてバランスよく能力が備わっているかどうかを重要視します。 

どれだけ高いスキルがあっても、土台がしっかりしていなければ、その能力が職場で発揮されることはありません。面接においては、表面的な能力の高さやしゃべりの上手さだけで判断せず、健康管理と生活管理について掘り下げながら、基礎能力の確認が必要です。

2.自己理解や障害理解が進んでいるか

発達障害の方が仕事をするうえでは、自身の障害を理解・受容し、必要に応じて周囲に自ら配慮を要請する力が必要です。障害に対する知識の理解ではなく、本人の障害に対する受け止めの心理的状態がより重要となります。

面接では、過去の体験に基づく自己理解のエピソードを掘り下げるなど、自分の障害をどれくらい受け入れられているかを確認するといいでしょう。

3.医療・福祉サービスや家庭での支援者がいるか

発達障害の方が長く仕事を続けていけるかを見極めるには、医療や福祉サービスを適切に利用できているかも重要なポイントです。

面接では、支援者や主治医、カウンセラーなどとの信頼関係の状態を確認し、困ったことがあったときに相談できる関係性が構築できているかどうかをチェックしておきましょう。

発達障害の方の面接で使えるコミュニケーション手法

面接にてジェスチャーを交えながら応募者に話をする様子

発達障害の方の面接では、コミュニケーションにも工夫が必要です。ここからは、発達障害の方を面接する際に使える、コミュニケーション手法を紹介します。ぜひ、面接実施の際にお役立てください。

安心感の持てる接し方をする

発達障害の方がリラックスして面接に臨めるように、安心感を与える接し方をする必要があります。まずは笑顔で接するように心がけ、応募者が伝えていることを理解しようとする姿勢を示しましょう。

また、面接の冒頭で、面接の具体的な目的や流れ、時間の見通し、約束事を事前に丁寧に示しておくと、安心感や信頼関係を構築しやすくなります。

場のルールを事前に明示する

面接の最初に明示する、面接の流れや時間の見通しは、以下のように伝えるといいでしょう。

伝え方の例
面接の流れの明示・面接時間は●●分を予定しています・初めにこちらからいくつか質問します
・質問があったら都度聞いてもらって大丈夫です・この選考を通過した後は●●を予定しています
面接の目的の明示・この面接を通じて、●●さんの良さを理解したいと思っています
・●●さんが当社で安心して働けるかどうかを判断することも面接の目的の1つです
面接ルールの明示・●●さんにとって当社が安心して長く働ける場所であるかを確認するために、立ち入ったことを聞くことがあるかもしれません。雇用後のミスマッチを防ぐことが目的なので、お応えできる範囲で回答してください。
・答えたくない質問があれば、無理に答えなくても大丈夫です

質問への回答がしやすい配慮をする

発達障害のある方の中には、会話の文脈から相手の意図をくみ取るのが苦手な方がいます。例えば、入社後の仕事内容の話をしている流れの中で「あなたの希望を教えてください」と問いかけた場合を想像してください。面接官は当然、「希望する仕事内容を教えてください」というつもりで質問しているけど、会話の文脈を読み取ることが苦手な方は、給与のことについて聞かれているのか、勤務地について聞かれているのか、何についての希望を聞かれているのか推察できず、会話がズレていってしまう、ということがしばしば起こります。

聞きたいことを、時間に限りある面接の中で効率よく聞き取るためにも、質問にも以下のような工夫が必要です。

  • 例えば「普段の生活についてお伺いしますね」など前置きを入れて、期待している回答の範囲を明示する
  • 質問時に、回答例を挙げる。「得意だと感じた作業はありましたか?例えばデータ入力や、書類作成など。」
  • まずはYes/Noの形式で答えられる質問をしてから、「それはなぜですか?」と掘り下げていく

また、仮に答えたい内容が頭の中にあったとしても、言いたいことを言葉にまとめるのに時間がかかってしまう特性もあります。沈黙が続くと気まずく感じて、さらに言葉や質問をかぶせてしまう面接官をよく見ますが、できる限り考える時間を十分に与えていただくことをお勧めします。すぐに答えが出ない場合でも「待ちますのでゆっくり考えてください」など声をかけ、応募者の心理的な負担を軽減するよう、心がけてください。

発達障害の特性は人によって違う

前述したとおり、発達障害の特性は人により異なります。話すのが苦手でも業務理解度が高く作業効率がいい方や、話を理解するのは苦手だが、細かい作業は得意という方など、さまざまな強み・弱みを持っています。そのため、「発達障害の人はこういう特性だ」などと決めつけて判断するのは禁物です。

自社の業務に適した方を見つけるのはもちろん、応募者に「この会社で働きたい」と思ってもらうためにも、採用する企業側には、その人自身を理解しようとする姿勢が大切です。

まとめ

法の整備により、民間企業でも障害者雇用が進むなか、発達障害を持つ求職者の数も年々増加傾向にあります。自社で発達障害の方を採用する場合、支障なく活躍してもらうためにも、自社業務への適性を面接で見極めなければなりません。

発達障害の方の適性を的確に見極めるには、”発達障害とはこうだ”とカテゴライズするのではなく、1人1人対話しながら「その人自身」の特性や個性を理解しようとする姿勢が大事です。

Kaienでは「本業に貢献する障害者雇用」をテーマに、企業様向けの各種コンサルティングサービスを提供しています。発達障害の方を含む障害者雇用を進めるためにも、ぜひ、プロのサポートを活用してください。

この記事を書いた人

大野順平

株式会社Kaien 就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター

2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。

論文寄稿 :

月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)

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