精神障害の障害者手帳は更新できない場合がある?制度や事例を紹介

従業員が一定数以上の規模である企業には、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にすることが義務化されており(障害者雇用促進法43条第1項)、対象となる事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する必要があります。

雇用状況を算定するうえで気になることは、精神障害者保健福祉手帳の「期限」についてです。
精神障害の障害者手帳は、有効期限ごとに更新が必要なため、「雇用後に手帳の更新ができず、法定雇用にカウントできなくなってしまうケースがあるのではないか?」と心配している人事担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、精神障害の障害者手帳の制度や、更新に関する情報を解説します。

このページの目次

精神障害者保健福祉手帳の更新制度とは

障害者総合支援法のもと様々なサポートを受けることができる「障害者手帳」には、障害の区分によって、以下の3つの種類があります。

  • 身体障害者手帳
  • 療育手帳
  • 精神障害者保健福祉手帳

この3つのうち、精神障害者保健福祉手帳には「2年ごとの更新制度」が適用されています。身体障害者手帳には更新制度はありません。

精神障害者保健福祉手帳の更新制度の概要

精神障害者保健福祉手帳は2年ごとに更新があり、有効期限の3か月前から手続きを行うことができます。更新手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 主治医の診断を受ける
  2. 必要書類を用意して、現在交付されている手帳の写しを添えて申請する
  3. 都道府県知事や指定都市の市長からの認定を受ける

手帳の更新は障害者本人による申請が必要です。手続きを忘れてしまうと、失効してしまいます。6月1日の障害者雇用状況報告の際に手帳の所持状況を本人に照会した際に、実は失効していたというケースを聞くことがあるので注意が必要です。

更新を失念してしまうことを防止するため、東京都では更新手続き開始1週間前にLINEで通知するサービスを開始しています。このようなサービスを雇用している精神障害者の方に情報提供するなどの対策をあらかじめ講じておけるとよいでしょう。

参考:精神障害者保健福祉手帳等更新をLINEで通知(東京都)

精神障害者保健福祉手帳に更新制度が設けられている背景

前述の通り、精神障害者保健福祉手帳は、身体障害者手帳とは異なり、2年ごとの更新制度があります。

そもそも「障害」は、一般的な傷病とは区別されています。障害者基本法において、障害者は「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」と定義されています。また、障害者権利条約では、目的規定において「長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるもの」とされています。

骨折などをイメージするとわかりやすいですが、治療やリハビリなどを経て比較的早期に治癒するものは「障害」とは言わず、長期的に「日常生活又は社会生活に相当な制限」が固定するものが障害として認定されます。

四肢の障害や視覚障害、聴覚障害などの身体障害は長期に渡りその障害が快復することは稀です。そのため、一度認定を受けて取得したあとの更新制度は適用されていません。

一方で、精神障害者保健福祉手帳は、それとは異なります。環境によるストレスの影響で発症する精神疾患の場合には、十分な休養や治療、環境調整の結果、症状が快復する場合があります。そのため、精神障害者保健福祉手帳は、一律で2年ごとに更新手続きを行い、手帳を本人が必要とするかの意思に加えて、必要性が客観的に認められるか主治医が意見書を作り、行政で審査するものとされているのです。

精神障害の障害者手帳は更新できない場合がある?

結論からいうと、精神障害者保健福祉手帳は更新できない場合があります。
しかし、ご本人が手帳の更新を望んでいるのにも関わらず、その意に反して手帳の更新が認められない、というケースは経験上、とても少ないレアケースです。その点について、詳しく説明していきます。

精神障害者保健福祉手帳の更新が認められないケースとその対応

手帳の等級は1級から3級まであり、1級に近いほど日常生活の困難が大きいことを示します。精神疾患の状態と能力障害の状態の両面から、総合的に認定される等級が判断されます。

1級:他者からの支援がなければ、日常生活を営むことが極めて困難な方
2級:通常は自力で生活できるものの、予期せぬ出来事が発生した際には、日常生活に支障をきたす可能性がある方
3級:社会生活や日常生活において、ある程度の制約を受ける方

上記の基準と照らし合わせて、障害が快復して本人がサポートを必要としなくなり、日常生活・社会生活ともにサポートが不要だと客観的に判断された場合には、手帳の更新ができない場合があります。

判定された等級や、非該当となったことに対して、ご本人が不服がある場合は「審査請求(不服申立て)」ができます。申立てをしたい場合は、届いた通知書に記載されている窓口へ問い合わせを行います。審査請求に費用はかかりません。

精神障害には症状が治癒するものと、基本的には変わらないものが混在している

精神障害者保健福祉手帳は、精神障害のある方すべてを対象としています。精神障害者保健福祉手帳の公布対象として、具体的な例としては以下のような種類が挙げられます。

  • 統合失調症
  • 気分障害
  • 高次脳機能障害
  • てんかん
  • 中毒精神病
  • 発達障害
  • その他すべての精神疾患

これらの障害のうち、一般的に心因性と呼ばれている、精神的ストレスや環境要因により発症する適応障害、不安障害、強迫性障害などは、十分な休養や治療、環境調整の結果、症状が快復する場合が多くあります。

その一方で、高次脳機能障害や発達障害、てんかんなど、脳機能に起因する障害は身体障害などと同様に、基本的に状況が変わらないものと考えられています。また、統合失調症など遺伝的な要因が大きいとされている精神障害は、基本的には服薬など継続的な治療が必要とされています。

つまり、「精神障害者保健福祉手帳は更新ができない場合がある」と一概に捉えるべきではなく、障害の種別や個人の状況によってその可能性は大きく異なることを理解する必要があります。

心因性の障害がある程度快復していても再発防止の観点から手帳を必要とするケースがある

また、適応障害、不安障害、強迫性障害などの心因性の精神障害がある程度快復していても、再発防止の観点から障害者手帳の更新が認められる場合があります。

精神障害の症状がよくなって普通の生活ができることを、通常、完治とは言わず、「寛解」といいます。 寛解とは、病気による症状が好転、あるいはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態を指します。うつ病などの精神障害は完治と言い切ることが難しい病気であることの裏返しとも言えます。

事実、うつ病の再発率は60%とも言われており、その後再発を繰り返すとさらに再発率が高くなるとされています。再発を防ぐために、ストレスをためないための環境を整えるなど、周囲のサポートを必要とするケースが多くあります。

従って、症状が一定程度落ち着いていても、周囲の継続的な理解・サポートを得るために、障害者手帳を継続することが必要なケースが多くあるため、一概に快復の状態だけで障害者手帳の更新可否が判断されるものではないことを知っておく必要があります。

ご本人の意思によって手帳を更新しないケースへの考慮

以上のような背景があるため、ご本人が障害者手帳の更新を必要としており、それを裏付ける客観的な事実があれば、多くの場合は更新が認められるでしょう。
Kaienの支援経験上においても、手帳更新を認められないことは極めてレアなケースです。

むしろ記事の冒頭に記載した「雇用後に手帳の更新ができず、法定雇用にカウントできなくなってしまうケースがあるのではないか?」という観点において留意すべきことは、「行政上手帳の更新が認められない」ことではなく、「本人の意思で手帳を更新しない」場合です。

厚生労働省では、障害者雇用における障害者手帳の取り扱いについて、以下の通りガイドラインを定めています。

・労働者本人の意思に反して、障害者である旨の申告又は手帳の取得を強要してはいけません。
・障害者である旨の申告又は手帳の取得を拒んだことにより、解雇その他の不利益な取扱いをしないようにしなければいけません。

プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要

企業側は、障害者手帳の取得・更新はご本人の自由意思であることを前提としながら、普段からコミュニケーションをとり意向を確認することで、障害者雇用状況報告の直前で思いがけずカウント対象とすることができない、ということがないようする必要があるでしょう。

双方合意の上で精神障害で手帳の更新を行わなかった事例

最後に、ご本人と企業との双方合意の上で精神障害で手帳の更新を行わなかった、という事例を紹介します。

Aさんは、IT企業の障害者雇用枠で入社しました。Aさんは前職の職場環境との相性が合わがず、うつ病を発症し精神障害者保健福祉手帳を取得しました。

その後、当IT企業で3年間、SEとして順調に勤務を継続。病状は安定し、業務を通じて高いスキル発揮し評価も高く、十分な自身も身についていました。周囲の目から見ても、他の一般雇用枠のSEと比べて、そん色のないパフォーマンスを発揮できるようになっていたとのことです。

Aさんには思うところがあり、「手帳を返納したうえで、改めて一般枠として勤務したい」と考えるようになったといいます。ご本人からその意思が人事担当者へと伝えられ、直属の上司も「障害者雇用かどうかに関わらず必要な戦力だ」と本人の実力を認めました。

このように、本人の意思と周囲の意見を踏まえた結果、手帳の更新をせずに一般枠として雇用が継続されることが企業・ご本人の双方で合意形成されました。

まとめ

精神障害者保健福祉手帳は、2年おきに更新する必要があります。ただし、すべての方が手帳を更新するとは限りません。本人の意思を尊重したうえで、医師の客観的な診断や行政での審査も踏まえて手帳更新の有無が決定されます。

一般的には、ご本人が手帳の更新を希望したが、行政の判断により認められないケースはごく稀です。一方で、本人の意思により手帳を更新しないと判断するケースは起こりうるので、普段から本人の意向を確認できるようコミュニケーションを取っておくことが重要でしょう。

この記事を書いた人

大野順平

株式会社Kaien 就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター

2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。

論文寄稿 :

月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)

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