【企業向け】特例子会社とは?障害者雇用のメリットなどについて簡単に解説

2023年から法定雇用率が引き上げとなったものの、障害者雇用に向けた業務の切り出しや施設の整備が難しく、法定雇用率の達成が難しい企業も多いことでしょう。自社での障害者雇用が難しい場合に検討したいのが「特例子会社」という制度です。特例子会社の認定を受けると子会社に障害者雇用を集約でき、グループ全体の業務効率化にもつながります。

この記事では、特例子会社の制度概要や認定条件、制度を利用するメリット、申請の手順などを簡単に解説します。

特例子会社 (特例子会社制度・グループ適用) とは?

特例子会社 (特例子会社制度・グループ適用) とは?

特例子会社とは、障害者の雇用促進と安定した障害者雇用の確保を目的に設立された会社です。一般の企業と比べて障害に対する支援や環境整備をより手厚く行い、就労における支障を取り除き、適正に能力を発揮できるよう、時短勤務や通院休暇、業務量の調整といったサポートが整えられている場合が多いようです。

特例子会社は、障害者雇用促進法第44条により「子会社に雇用される労働者に関する特例」と定められている制度で、認定されるためには一定の条件を満たす必要があります。詳しい要件については、後述で説明します。

特例子会社の目的

特例子会社で雇用した障害者は、親会社やグループ会社の法定雇用率に算定することができます。
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法定雇用率とは、一定規模以上の事業主に義務付けられている、全従業員に占める障害者雇用数の割合です。会社規模が大きくなるほど雇用する障害者の数も多くなり、業種や業態によっては業務の切り出しが難しいため、法定雇用率を完全に達成するのは難しい企業も多いでしょう。

特例子会社を設立すると、障害者雇用を特例子会社に集中させて、親会社や関連会社は事業推進に特化するという経営が可能になります。企業は従来通り事業推進に注力しながらも、障害者雇用の責務を果たすことができるようになるのです。

企業グループ算定特例制度(関係子会社特例)との違い

企業グループ算定特例制度(関係子会社特例)との違い

企業グループ算定特例制度とは、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定を受けると、企業グループ全体で法定雇用率の通算が可能になる制度です。グループ内で障害者向けの業務を切り出しやすい企業がある場合などは、わざわざ新しく特例子会社を設立しなくても、障害者雇用を進めやすくなります。

算定方法の違いとしては、特例子会社のグループ適用は、適用を受ける子会社を任意で設定できるのに対し、グループ算定特例制度ではグループの全子会社が対象となります。

また、グループ算定特例制度は、特例子会社のグループ適用より認定条件が厳しいことから、活用している企業は少ないのが現状です。

どんな会社が特例子会社を選ぶべきか

以下のような状況の企業は、特例子会社の設立を視野にいれるといいでしょう。

  • 社内のバリアフリー化など、障害者雇用のためにかかるコストを各社に分散させず、1社に集中させたい
  • 就業条件や給与体系など、障害者が働きやすい社内制度を一から構築したい
  • 業種や業態的に業務の切り出しが難しく、グループ各社で障害者を雇用することが難しい
  • 従業員数が多く、雇用する障害者の数も多いため法定雇用率の達成が難しい

従業員が多いほど雇用すべき障害者の数は多くなりますが、切り出す業務を創出し続け、雇用を維持するのは容易なことではありません。さらにグループ企業が増えるほど各企業の雇用管理が煩雑になるため、グループ規模の大きな会社ほど特例子会社のメリットが活きてくるでしょう。

特例子会社の設定要件

厚生労働省の資料によると、特例子会社の認定を受ける条件は、次の通りです。

(1)親会社の要件
・親会社が、当該子会社の意思決定機関(株主総会等)を支配していること(具体的には、子会社の議決権の過半数を有すること等)。
(2)子会社の要件
①親会社との人的関係が緊密であること(具体的には、親会社からの役員派遣等)
②雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上であること。
③障害者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること(具体的には、障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置等)。
④その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること。

引用元:「特例子会社」制度の概要|厚生労働省

特例子会社の設立のメリット

特例子会社を設立する企業側のメリットとしては、次の3つがあげられます。

  • 障害者雇用に必要な設備投資やコストを集中させ、業務を効率化できる
  • 多様な障害者に合わせた雇用管理や職場環境、人事評価制度を構築できる
  • 職場定着率や生産性が向上する

それぞれ、詳しく解説していきましょう。

業務の効率化を図ることができる

障害者にも安心して能力を発揮してもらうためには、職場のバリアフリー化や指導員の配置、多様な働き方に対応した雇用管理など、ハード・ソフト面での社内整備が必要不可欠です。グループ各社がそれぞれ対応すると、施設改修費等のコストや管理の手間がかかります。

特例子会社に障害者雇用を集中させると、これらのコストを1社に集中できるため、グループ全体の業務効率化につながります。

多様な障害にあわせた職場環境の構築ができる

障害者と一口にいっても、障害の種類や必要な配慮は人によって様々です。労働時間や業務量の調整、給与体系など、各従業員が働きやすい環境を構築しなければ、多様な障害者をサポートすることはできません。

グループ各社の就労規定を一から手直しするよりも、障害者雇用に特化した特例子会社を設立したほうが、障害者にとって働きやすい制度設計が可能です。障害者雇用を前提とした人事評価制度の構築もできるため、適正評価やスキルアップにもつなげやすいでしょう。

職場定着率や生産性の向上が期待できる

一般企業における障害者雇用では、障害者が安心して働ける環境が整っていなかったり、孤立してしまったりなどの理由から、早期離職率の高さが課題となることがあります。

特例子会社では、障害を前提とした雇用制度が整えられており、障害のある仲間と一緒に働けることから、孤立しにくい環境があります。それぞれの特性に応じた目標設定や評価も可能であり、モチベーションも高く待ちやすい点もメリットです。

知っておきたい特例子会社の実態・現状

障害者雇用を推進する企業にとってメリットの多い特例子会社制度ですが、実際にはどのくらいの企業が制度を活用しているのでしょうか。ここでは、特例子会社に関するデータを紹介します。

特例子会社の数

厚生労働省の発表した「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、令和4年6月の時点で特例子会社の認定を受けている企業は579社であり、前年より17社の増加となっています。

また、特例子会社で雇用されている従業員数は43,857人で、前年より2,138.5人の増加です。そのうち、身体障害者が11,835.5人、知的障害者が22,941.0人、精神障害者は9,080.5人となっています(短時間雇用は0.5人としてカウント)。

特例子会社一覧

厚生労働省では、特例子会社の一覧を公開しています。特例子会社は全国各地の都道府県で設立されていますが、最も多いのは東京都の184社、続いて大阪府の50社です。

一例として、東京都に所在する特例子会社の一部を紹介します。

<東京都の特例子会社例>

  • 菱信データ(三菱UFJ信託銀行)
  • 三井物産ビジネスパートナーズ(三井物産)
  • あおばウオッチサービス(セイコーホールディングス)
  • TDS(国際航業)
  • 日立ハイテクサポート(日立ハイテク)
  • リクルートオフィスサポート(リクルートホールディングス)
  • 長谷工システムズ(長谷工コーポレーション)
  • JTBデータサービス(JTB)
  • 東京都チャレンジドプラストッパン(凸版印刷)
  • ANA・ウィング・フェローズ・ヴィ王子(ANAホールディングス)

※()内は親会社名

引用元:特例子会社一覧|厚生労働省

特例子会社の給与平均

野村総合研究所が2018年に行なった「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査」では、特例子会社で働く障害者の平均給与が調べられています。

結果を見ると「151~200万円」との回答が33.8%と最も多く、次いで「201~250万円」が26.3%、「101~150万円」が19.7%と続いています。

特例子会社設立の流れ

特例子会社設立の流れ

特例子会社を設立し、特例子会社の認定を受けるまでの具体的なステップを解説します。

特例子会社認定の要件を確認する

特例子会社の認定要件を満たしていなければ、せっかく子会社を設立しても親会社やグループ会社と法定雇用率を合算することができません。まずは、前述で説明した認定要件が自社に当てはまっているか確認しましょう。

申請書類を準備する

認定を受けるには、子会社特例認定申請書や親事業主および子会社の概要、添付書類などを公共職業安定所長に提出します。必要な書類を確認し、準備を進めます。

会社設立・登記申請

会社を設立し、登記申請を進めます。登記申請は、出資金の支払いから2週間以内に必要書類を登記所に提出する必要がありますので、行政書士や司法書士のサポートを受けながら進めましょう。

官庁への諸手続き

税務署や市町村役場などに、必要な手続き書類を提出します。書類によって提出先や期限が異なりますので、間違いのないようによく確認してください。

採用選考活動

会社の設立が完了したら、採用活動を進めます。ハローワークの障害者雇用サポートなどを活用するとスムーズです。

参考:事業者向け支援|ハローワーク

特例子会社認定申請

障害者従業員を5人雇用できたら、必要な書類をそろえてハローワークで特例子会社の認定申請をします。必要な書類については、こちらの資料で確認できます。a

参考:障害者雇用率制度における雇用率算定特例|愛知労働局・ハローワーク

特例子会社の事例

実際に特例子会社制度を活用している企業の中には、障害者が活き活きと働ける職場の整備に成功した事例が多くあります。

ある地方銀行では、特例子会社において伝統工芸品の製作や販売を行う工房を開設し、知的障害者を中心に雇用しています。従業員はデザインから自分たちで考えて、地域の伝統的な織物を活かした雑貨を製作しているそうです。単に作業を任せるだけでなく、クオリティの高い物づくりに社員が自立して関わっていることから、やりがいと誇りを持てる職場環境を実現できています。

まとめ

特例子会社制度を活用すると、障害者雇用に必要な設備投資や社内制度の再構築といったコストを1社に集約でき、障害者雇用を推進しやすくなります。

また、従業員それぞれの特性に合わせた柔軟な雇用形態も実現しやすく、障害者も疎外感を感じずにモチベーションを保ちながら業務に臨めるようになります。本当の共生という意味では課題が残るものの、企業と障害者双方にとってメリットの多い制度といえるでしょう。

特例子会社制度の活用を含めて、障害者雇用にお悩みの場合は、障害者雇用を専門に支援するKaienにご相談ください。企業ごとの状況や課題、予算に合わせて、総合コンサルティングや常駐支援など、ニーズに即したサービスを提供しています。

また、人事担当者の方には障害者雇用の基礎を網羅的に学べる「基礎知識ハンドブック」もオススメです。無料でダウンロードできますので、ぜひ併せてご確認ください。

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