日本の精神障害者数は長らく増加傾向にあり、中でもうつ病をはじめとする気分障害の患者が増えています。うつ病の増加は労働環境や業務上のストレスとも強い関連性があり、企業でもメンタルヘルスケアの重要性が増しています。自社の従業員がうつ病を発症した場合、企業ではどのような対応が必要なのでしょうか。
この記事では、うつ病に対するメンタルヘルスケアの基本や、企業が取るべき措置について、詳しく解説します。
このページの目次
うつ病で仕事を続けることは可能?
うつ病は、脳内の神経伝達物質がアンバランスになることで、抑うつ状態や意欲低下、食欲不振、不眠、動悸やめまいといった精神的・身体的な不調を引き起こす病気です。
「何も手につかない」「簡単な判断ができない」といった状態に陥るため、普段通り仕事を続けることは困難になるケースが多いです。また、うつ病の治療においては十分な休養を取ることが重要であるため、医療機関から診断書をもらい、休職することが推奨されます。
ただし、企業側に業務内容や業務量、勤務時間などを調整してもらえば、必ずしも休職しなければいけないわけではありません。就労継続の可否については、主治医や会社の産業医、カウンセラーなど専門家の判断が必要ですので、まずは医療機関に相談してみるといいでしょう。
うつ病のメンタルヘルスケアの基本
従業員のうつ病が発覚した場合、企業が行うべきメンタルヘルスケアは「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケ ア」「事業場外資源によるケア」の4つに分けられます。
セルフケア | ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付きストレスへの対処 上記のセルフケアが行えるよう、企業は労働者に対して、教育研修、情報提供といった支援を行うことが重要。管理監督者にとってもセルフケアは重要であるため、事業者はセルフケアの対象に管理監督者も含める。 |
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ラインによるケア | 職場環境等の把握と改善労働者からの相談対応職場復帰における支援、など |
事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案個人の健康情報の取扱い事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口職場復帰における支援、など 産業医や保健師など事業内に従事する保健スタッフは、セルフケアやラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者・管理監督者に対する支援を行う。 |
事業場外資源によるケア | 外部サービスの活用(情報提供や助言を受ける、など)ネットワークの形成職場復帰における支援、など |
この中でも、管理監督者の役割として特に重要なのが「ラインによるケア」です。次章から詳しく解説していきます。
うつ病の人へ職場が配慮したいこと
厚生労働省では「労働者の心の健康を保持推進するための指針」を定め、職場におけるメンタルヘルス対策を推進しています。ここでは、同指針をもとにうつ病を発症した従業員に対して企業がとるべき配慮を紹介します。
メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供
企業は、管理監督者も含む全ての従業員に対して、メンタルヘルスケアに関する情報提供や啓発を行います。具体的な内容としては、次のような例があげられます。
- メンタルヘルスケアやストレスに関する基礎知識
- セルフケアの重要性、心の健康に対する正しい態度
- ストレスへの気付き方、予防、対処方法
- 自発的な相談の重要性
- 事業内外の相談先
また、自社で教育・研修を実施するのが難しい場合は「産業保健総合支援センター」に相談するといいでしょう。
職場環境の把握・改善
業務内容や作業量、人間関係といった労働環境だけでなく、オフィスの空調や明るさ、広さ、レイアウトといった物理的環境もストレスの原因になります。従業員のストレスを軽減したい場合には、このような物理環境の改善から着手するのも一手です。
改善を実施する際は、現場で働く従業員の意見を汲み取りながら、産業保健スタッフを中心に人事担当者・管理監督者と連携して以下の5つのステップで改善の方向性を決めていきます。
社員の変化に気づく
職場のメンタルヘルス対策において最も重要なのが、部下の異変にいち早く気が付くことです。普段から部下に声をかけたり様子を観察したりして、次のような変化がないか注意しましょう。
- 体調不良による欠勤や遅刻、早退が増える
- 無断欠勤が増える
- 判断力や思考力が低下し、仕事の効率が悪くなっている
- 表情が暗く、いつもより元気がない
- ミスが極端に増える
- 身だしなみが整っていない
これらの変化を感じたら、産業医に相談するか、本人に産業医面談を受けるように促します。
うつ病の人が休業中の場合に配慮したいこと
うつ病と診断された社員が休職した場合、円滑に職場復帰できるよう配慮や支援が必要です。厚生労働省の資料「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引」では、職場復帰支援の流れを以下の5つのステップで説明しています。
引用元:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引」
ここでは、その中でも休業中のケアで重要な部分を解説します。
休業する方に必要な事務手続きや復帰支援の説明
従業員から主治医の診断書が提出されて休業が決定したら、管理監督者は人事部にその旨を連絡し、従業員に対しては休業に必要な事務手続きや復帰支援の手順を説明します。必要な情報がしっかり共有されていると、従業員は今後の復職や経済面に関する不安が減り、安心して療養に専念できるためです。
情報提供の具体的な項目は、次の通りです。
- 傷病手当金など経済的な保障について
- 不安や悩みを相談できるサービス
- 職場復帰を支援する民間・公的なサービス
- 休業の最長(保障)期間 など
定期的な連絡
休養中に職場から連絡があると「復職を焦らせてしまうのではないか」ということが懸念され、連絡を控えている担当者もいるかもしれません。しかし、適切なタイミングで支援するためにも、病状はこまめに把握しておいた方がいいでしょう。
もちろん、従業員が休養に専念できるよう配慮は必要です。直接コンタクトを取るのが難しい場合には、現在の病状や主治医の診断内容、復職への意欲、職場からのコンタクトの可否などを盛り込んだ「病状報告書」を定期的に提出してもらう方法があります。連絡が途絶えがちな場合には、主治医も交えた面談を設定するなどの取り組みも必要でしょう。
コンタクトをとる際は、会社が従業員の回復をじっくり待っており、復職支援の準備がある旨を繰り返し伝え、焦燥感や不安を感じさせないように配慮することが大切です。
うつ病の人が復帰する際に配慮したいこと
従業員の病状が回復し、復職することになった際には、復帰の可否を慎重に見極め、従業員が無理せず働ける環境を整備しなくてはなりません。前章と同様に、厚生労働省の資料「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引」をもとに、うつ病の従業員が復職する際に企業がとるべき措置を解説します。
主治医の診断書を提出してもらう
うつ病の従業員が復職する際には、職場復帰が可能かどうか主治医の判断を記した診断書の提出が必要です。従業員は「早く働かなくては」という焦りから無理に復職の意志を示している可能性があり、医師による慎重な判断が求められます。
ただし、主治医は基本的に日常生活における病状の回復度合いを判断しており、職場で業務を遂行するために必要な能力が回復しているかどうかまで判断しているとは限りません。そこで、事前に職場で求められる業務遂行能力や社内の勤務制度について主治医に共有しておき、その上で復職の可否を判断してもらうとスムーズです。
また、診断書の内容については企業に所属する産業医等が内容を精査し、職場復帰に向けて企業が取るべき対応やサポートについて意見を述べます。
復帰後のフォローアップを行う
職場復帰の際は産業医等と連携しながら「職場復帰支援プラン」を作成し、本人の状態に合わせて徐々に仕事に慣れてもらいます。しかし、プラン通りに復帰が進まないケースは少なくありません。経過観察やプランの見直し・改善を進めながら、主治医と連携して病気の再発・防止に努めることが重要です。
また、従業員の状態によっては、産業医から以下のような業務負担軽減措置が指示される場合があります。
- 業務時間は平常勤務内のミニマムなレベルにする
- 出張や土日出勤、シフト勤務を避ける
- できるだけマルチタスクをせず、1つのことを確実にこなす
- 現状の力量や病状に即して、難易度を徐々に調整する
- 上司や人事が同席のもと、定期的な産業医面談を実施する
これらの措置を当面3ヶ月間は実施し、職場への再適応をサポートします。
参考元:職場におけるメンタルヘルスケア -事業者・上司の方へ- | うつ病 | すまいるナビゲーター | 大塚製薬
まとめ
従業員がうつ病を発症した場合、基本的には十分な休養が必要です。企業は従業員が安心して療養できるよう、情報提供や職場環境の整備といった措置を進めなければなりません。
この際、主治医や産業医と連携を取ることが重要です。本人に必要な配慮やサポートを整えるには、病状を正確に理解する姿勢が求められます。企業が独断で措置の内容を決定するのではなく、本人の意向を確認して、保健スタッフとも相談しながら支援体制を整えていきましょう。
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■監修者コメント
うつ病の社員へのサポートは、理解と配慮が大切。職場が医療機関と連携する態度を示すことは、患者さんや周りの人からの信頼感を増すことができますので、本人の同意を得られたなら、診察に同行するのもおすすめです。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
メール: rep@kaien-lab.com / 電話番号 : 050-2018-1066 / 問い合わせフォーム:こちら
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