「うつ病などの精神疾患で休職した社員が、復職後に再休職してしまった……」ご本人はもちろんですが、企業の人事担当者にとっても深刻な問題です。
精神科デイケアの利用は、再休職を予防するための選択肢のひとつといえます。精神科デイケアとは、社会復帰や就労などを目的に、精神疾患の人が通うリハビリテーションのことです。
この記事では、精神科デイケアの効果や対象者、復職支援に特化した「リワークデイケア」などについて解説します。
このページの目次
精神科デイケアとは
精神科デイケアとは、精神障害を持つ人がさまざまなグループ活動を行なう、通所型リハビリテーションのことです。精神科デイケアでは創作活動やスポーツ、就労準備やソーシャルスキルトレーニングなど多様なプログラムを通して、利用者の社会復帰や復学・就労などを目指します。
利用者同士が交流したり、プログラムを実践したりすることで自己管理能力や集中力などを向上させるため、精神疾患の再発を防ぐうえでも有用です。精神科デイケアは外来治療のひとつと位置づけられており、健康保険の適用が認められています。
精神科デイケアを利用する目的
精神科デイケアのおもな目的は、通所を通じて社会生活機能を回復し、円滑な社会復帰を図ることです。さらに、利用者ひとりひとりが自分の状況に応じて具体的なプログラムを設定していくため、精神科デイケアに通う具体的な目的は、人それぞれといえます。
平成20年度に公表された厚生労働科学研究「精神障害者の生活機能と社会参加促進に関する研究」のデータによると、「生活する力を身につけること」を目的として精神科デイケアに通所していると回答した利用者が最多となっていました。
その他の回答としては、「周囲の人たちとうまくつき合うため」「症状のコントロールや症状悪化時の対処をできるため」「自分の生活を楽しむため」などがあり、利用者がそれぞれの目的達成を目指して精神科デイケアを利用していることが分かります。
精神科デイケアの効果
精神デイケアには、以下のような効果があることが知られています。
- 決まった時間に通所するため、生活リズムが整う
- プログラムへの参加で活動量が増え、体力がつきやすくなる
- プログラム受講を通して他人との交流に馴れ、対人スキルが身につく
- 自分の能力向上にともない、自尊心が回復する
- 自分の障害・病気への理解が深まる
- 自分と同じ障害や体験を持つ仲間と交流できる
- 自己管理能力が高まるため、症状の再発防止につながる
- 作業能力や集中力、コミュニケーション力などの向上により、就労能力が高まる
精神科デイケアを実施している施設
精神科デイケアは、以下の施設で提供されています。
- 精神科を有する病院(単科病院、総合病院)
- 精神科クリニック
- 保健所
- 精神保健福祉センター
公立・私立病院やクリニック、地域の保健所や精神保健センターなど、さまざまな施設で行なわれていますが、雰囲気や利用できるプログラムの内容などは施設ごとに異なります。
精神科デイケアを利用するにあたり、事前に施設見学やデイケアスタッフとの面談などが必要です。
精神科デイケアの対象者
原則的には、発達障害やうつ病、統合失調症などの精神疾患で精神科などへ通院している人のうち、症状が比較的安定している人が対象となります。
現時点での入院が不要であり、主治医から精神科デイケアの利用を得られている人には、精神科デイケアを利用するケースが多く見られます。
精神科デイケアの実施施設が利用対象者を定めている場合があるため、希望施設のホームページなどの確認が必要です。
精神科デイケアの利用時間
精神科の通所リハビリテーションには大きく4つの区分があり、それぞれ利用可能な時間帯が異なります。
区分 | 利用時間 |
---|---|
精神科デイケア | 1日6時間で、昼食の時間を挟む。9時または9時半に始まり、16時前後に終了する施設が多い。 |
精神科ナイトケア | 1日4時間で、16時以降に始まる。16時から20時までを利用時間とする施設が多く、就労などにより日中に通所できない人にも向いている。 |
精神科デイ・ナイトケア | 1日10時間で、昼食の時間を挟む。夕食を含む場合もある。 |
精神科ショートケア | 1日3時間で、午前または午後。長時間の通所リハビリテーションに不安を感じる人などにも適している。 |
精神科デイケアでの過ごし方
精神科デイケアでの1日の過ごし方は施設によりさまざまですが、以下のようなタイムスケジュールが一般的です。
時間帯 | スケジュール |
---|---|
9時~9時半 | 通所 |
9時半~10時 | 朝の会(1日のスケジュール確認や、朝の体操など) |
10時頃~ | 午前のプログラム(利用者の状況に合わせてプログラムを選択。複数のプログラムを組み合わせる場合も) |
12時~13時 | 昼食(昼食提供または本人の持参) |
13時頃~ | 午後のプログラム |
15時頃~ | 掃除、帰りの会 |
企業が知っておきたい精神科デイケアの「リワークデイケア」について
精神科デイケアを利用する目的のひとつに「就労スキルの向上」がありますが、精神科デイケアの中には「リワーク(復職のためのリハビリテーション)」に特化した「リワークデイケア」というものがあります。
企業側が知っておきたい、リワークデイケアについて詳しく解説します。
リワークデイケアとは?
リワークとは「return to work」の略語であり、職場復帰に向けたリハビリテーションを行なうデイケアのことを「リワークデイケア」と呼びます。仕事に復帰することを第一の目的としているのが、リワークデイケアの特徴です。
リワークデイケアでは、業務シーンに似せた内容のオフィスワークや、復職後の再発防止につながる認知行動療法、職場連携などに焦点を当てたプログラムを行ないます。
リワークデイケアのプログラムを受講してから復職すると、復職後の離職率が著しく低下し、就労継続者の割合が増加することが知られています。社員の再休職を予防するうえで、リワークデイケアは効果的な選択肢のひとつです。
リワークデイケアの目的
リワークデイケアでは、「導入期」「中期」「後期」の3つのステップに分けて目的を設定し、ひとつずつ目的を達成しながらステップアップしていきます。
実際にリワークデイケアを行っている「国立精神・神経医療研究センター病院」の情報をもとに、各ステップの具体的な目的について解説します。
ステップ | 概要 | 具体的な目的設定 |
---|---|---|
導入期 | 復職に備えて心身を整える | ・生活リズムの改善・運動で身体感覚を取り戻す・他者と交流し孤立感を和らげる |
中期 | 復職後の再発を予防する | ・認知行動療法を身につけ、自分を客観しする力を高める・ストレス対処能力の向上 |
後期 | 復職準備の最終段階 | ・復職に向けた職場との情報共有・復職までの具体的なスケジュール決定・キャリアデザインを学び、今後の働き方を再考する |
リワークデイケアの対象者
リワークデイケアの対象者は、精神科デイケアの対象者と基本的には同様です。うつ病などの診断を受けて外来通院している休職者であり、職場に復帰する意欲のある人が対象となります。
ただし、病院によっては、リワークデイケアの利用に際して企業の人事または産業保健スタッフの了承を得ていることが参加条件となる場合があります。
企業がリワークデイケアを利用するメリット
休職中の社員がリワークデイケアを利用すると、企業側には次の2つのメリットがあります。
専門家の復職評価が受けられる
リワークデイケアを利用すると、施設の専門スタッフが利用者の状態を客観的に評価し、定期的な個別面談を行なってフィードバックしてくれます。
休職者本人や人事担当者にとって、本人の症状がどの程度改善しているのかを評価するのは、なかなか難しいものです。また、病状が落ちついて通勤可能な程度にまで回復していても、休職の原因となった課題を克服するスキルが十分に身についていなければ、復職後に再発するリスクが高くなります。
職場への適応に向けた復職準備がどの程度整ってきているのかを客観的に評価するうえで、リワークデイケアからのフィードバックが有用です。
職場と連携が可能
復職後の再発を防ぐためには、企業側と医療スタッフとの連携が重要です。本人が「復職したい」という強い意志を持っていたとしても、周囲との調整がうまくいかないと、就労継続が困難になる場合もあるのです。
リワークデイケアでは、復職の見通しが立ったタイミングで企業側の人事担当者や、主治医、産業医などの見解をすり合わせて復職を成功へと導きます。
まとめ
精神科デイケアは、さまざまなプログラムを通して精神疾患患者のコミュニケーション能力や集中力などを向上させ、円滑な社会復帰を図るための通所型リハビリテーションです。
社会復帰や就労など、利用者それぞれが目的を設定して取り組むのが精神科デイケアの特徴ですが、「リワークデイケア」では復職支援に特化したプログラムを受講することができます。社員の再休職予防策のひとつとして、リワークデイケアを知っておくことが重要です。
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