PTSD(心的外傷後ストレス障害)のある人は、ちょっとしたことがきっかけで強いストレスとなり、身体的、精神的な不調やトラブルを引き起こす場合があります。PTSDを持っていても安定的に働くために、職場で周囲の人ができる対応について理解、周知することも大切です。
本記事では、PTSDの診断基準や主な症状、職場におけるPTSDを持つ人への配慮や対処について解説します。PTSDの基本知識を理解し、本人と周囲の人が快適に働ける職場環境を確立するために、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは
米国精神医学会診断統計マニュアル第5版(DSM-5)の基準によると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは「実際にまたは危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる、特徴的なストレス症状群のこと」とされています。
一般的に、PTSDを誘発する可能性の高い出来事は、恐怖や無力感、戦慄の感情を引き起こすものが中心です。例としては、災害、暴力、深刻な性被害、重度事故、戦闘、虐待などが挙げられます。本人が直接体験することだけでなく、間接的に経験することでも起こる場合があります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状について
PTSDの症状は、出来事の種類や個人によりさまざまですが、主に「再体験」「回避・まひ」「過覚醒」の3つに分類されます。ここでは、それぞれの特徴について詳しく解説します。
参考書籍:「PTSDとトラウマのすべてがわかる本(健康ライブラリーイラスト版)」
再体験
「再体験」とは、トラウマとなってしまった出来事を思い出し、辛かった気持ちを再び感じてしまう状態です。
トラウマ体験と似た様な状況に置かれたときに、不快で苦痛な記憶がフラッシュバックして蘇る、気持ちが動揺するなどの反応が起こります。また、動悸や発汗などの生理的な反応が出る場合もあります。
回避・まひ
「回避」は、トラウマ体験を思わせるものや人、場所、状況などを極力避けようとすることです。対象となる出来事を考えることや話すことを避け、記憶を思い出さないよう努めます。
「まひ」は、興味や関心が乏しくなり、周囲との疎隔感や孤立感が強まることや、自然な感情が麻痺したように感じられることです。トラウマ体験で感じた苦痛を感じることを避けるあまり、他の感情まで感じないようになっている状態を指します。
過覚醒
「過覚醒」は、小さなことが気になり始め、何でもないことでひどく驚く、怒るといった反応が見られる状態です。例えば、ちょっとしたことが気になって眠れなくなる、集中が持続しないといったものが挙げられます。
また、警戒心が過剰になり、物音などの刺激にビクッと反応することもあります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の方が仕事する上で配慮をしたいこと
PTSDの人がいる職場において、周囲が配慮すべきポイントとして以下のような点が挙げられます。
- まずは本人の話をよく聴く
- 休職の申し出があった場合には速やかに対応する
- 休職期間中も定期的に連絡をとる
- 職場復帰(リワーク)に関する情報提供をする
なお、PTSDの人への接し方は「心理的応急処置(PFA;Psychological First Aid)」も推奨されています。PFAとは、困難な状況にある人々が気持ちを落ち着かせて、乗り越えることを支援する手法です。
PFAには、物質的支援だけでなく、情緒的な手助けや必要な情報やサービス、社会的支援を得るためのサポートも含まれます。また、PFAは専門家のカウンセリングや治療とは異なり、あくまでも「見る」「聴く」「つなぐ」の3つを原則とし、すべきことに取り組むことが大切です。
PFAにおける「すべきこと」は、情緒的・実際的な支援の提供や傾聴、守秘義務の厳守などがあります。例えば、本人が抱える業務の悩みを個別面談で相談された場合、先入観や偏見を持つことなく話を聞きます。
また、本人が自分自身で問題を解決できるよう、何らかの助けが必要になった場合に自立を手助けすることを明確に伝えるなど、基本的なニーズにつなげていくことも大切です。
するべきこと | するべきではないこと |
---|---|
プライバシーを守り、聴いた話について秘密を守ること | 十分な理由があったとしても、守秘のルールを破ること |
情緒的、実際的な支援をおこなうこと | 深く探ること |
人々の文化、年齢、ジェンダーを考慮して適切に行動すること | 無礼な態度や、救援者としての関係を不当に利用すること |
傾聴すること | 相手が重要なことを話している間に、気もそぞろで、他のことを考えていること |
自分の偏見や先入観に気づき、とらわれないようにすること | 相手の行動や気持ちを決めつけること |
自分自身で問題を解決できるよう、人々の自己決定の権利を尊重し、自立を手助けすること | 何をすべきか、どのように問題を解決すればよいか教えること |
正直であり、信頼できること | 不誠実な約束をすること、もしくは誤った情報を与えること |
基本的ニーズにつなげること | 相手を助ける対価として、お金や利益を求めること |
自分が対処できないときに気づくこと | 自分のスキルを過大評価すること |
今、助けを必要としなくても、今後も支援を受けられることを人々にはっきりと示すこと | 相手が助けを求めていないのに、無理強いを続けること |
敬意をもった安心できる方法で、支援を終わらせること | 今後の支援の情報を与えることなしに会話を打ち切り、 突然支援を終わらせること |
参考:日本赤十字社「PFA(Psychological First Aid:心理的応急処置)リーフレット」
まとめ
PTSDは、過去に強い精神的衝撃を受けたトラウマ体験によるストレスから、フラッシュバックやまひといったさまざまな症状を引き起こすものです。
PTSDのある人の職場では、適切な理解と配慮が求められますが、本人が自立して困難を解決できるようサポートする姿勢も重要視されています。PFAなどの手法も参考に、本人が情緒的な安定を確保し、安心して働けるような環境づくりに取り組むことが大切といえます。
監修者コメント
トラウマの概念は最近、臨床現場で度々見直されています。社会的な注目も集まっており、幼少期の虐待や性的な加害など、ニュースでも目にすることは多いのではないでしょうか? これまで話す勇気を持てなかった人は主治医に打ち明けてみて、トラウマのケアを今の治療に組み込むことをお勧めします。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
メール: rep@kaien-lab.com / 電話番号 : 050-2018-1066 / 問い合わせフォーム:こちら
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