【成功事例から学ぶ】精神・発達障害のある方の早期離職を防ぐ「定着支援」の活用ポイント

「せっかく採用したのに、数ヶ月で辞めてしまった」
「受け入れ部署から『どう対応すればいいかわからない』と不満の声が上がっている」

障害者雇用の採用担当者・現場担当者として、このような課題に直面していませんか?
特に精神・発達障害のある方の雇用では、周囲の理解不足や配属ミスマッチなど、さまざまな要因から早期離職が起きやすいのが実情です。

しかし、これらの課題は、「連携」を強化することで解決できる可能性があります。
採用プロセスから入社後のフォローアップまで、社内外の関係者が密に連携することで、障害のある方が能力を最大限に発揮できる職場環境を築くことができます。

この記事では、障害者雇用の定着を成功させるために不可欠な、職場内外での連携の重要性と具体的な方法、事例を解説します。
【定着支援の秘訣】人事と現場、支援機関が障害者雇用でどう連携するか?と合わせて最後までお読みいただくことで、定着率向上に向けた具体的な対応が見えてくるかもしれません。

このページの目次
障害者雇用の現場でよくある課題と背景
1,早期離職の連鎖と配属ミスマッチ
2,受け入れ体制不足と現場の戸惑い
3,支援機関との連携不足による機会損失

障害者雇用の「連携」を強化!定着支援を成功させる3つのポイント
ポイント1:配属先と「採用段階から」連携する
ポイント2:社内の「定着支援」体制を整備する
ポイント3:社外の専門機関と「協働」する

連携と定着支援で成功した企業の事例紹介
【事例①】発達障害のある方の定着に成功したA社
【事例②】精神障害のある方の定着に成功したB社
まとめ|連携を強化して定着率の高い障害者雇用を目指しましょう


障害者雇用の現場でよくある課題と背景

なぜ、障害者雇用がうまくいかないと感じてしまうのでしょうか。その背景には、いくつかの共通した課題が存在します。

1. 早期離職の連鎖と配属ミスマッチ

採用活動を成功させても、入社後すぐに退職してしまうケースは少なくありません。

特に精神・発達障害のある方の場合、業務内容や職場の雰囲気が本人の特性と合わなかったり、必要な配慮が十分に伝わらなかったりすることで、「こんなはずじゃなかった」とギャップを感じ、早期離職につながることがあります。

この背景には、採用担当者と配属部署の間で情報共有が不十分であることが挙げられます。
採用段階で把握した本人の希望や配慮事項が、現場に正確に伝わっていなければ、ミスマッチは当然発生してしまいます。

2. 受け入れ体制不足と現場の戸惑い

「受け入れ準備が整わないまま、突然配属者が決まった」「何をどうサポートすれば良いか分からない」といった現場の声をよく耳にします。

人事担当者が障害者雇用について知識を持っていても、現場の社員がその知識を共有していなければ、円滑なコミュニケーションは生まれません。
特に、精神・発達障害の特性は人それぞれ異なるため、マニュアル通りの対応が難しいこともあります。

このような受け入れ体制の不足は、現場に大きな負担をかけ、結果として本人の孤立や離職につながる可能性があります。

3. 支援機関との連携不足による機会損失

就労移行支援事業所などの外部の専門機関は、障害のある方の特性や強み、働く上での課題などを深く理解しています。

しかし、企業がこれらの外部機関と十分に連携できていないと、以下のような機会を失ってしまいます。

  • 採用段階でのミスマッチ防止:入社前に本人の情報を詳細に把握し、適切な配属を検討する機会を逃す。
  • 入社後のスムーズな移行支援:入社後に発生する課題に対して、専門的な視点からのアドバイスやサポートを得る機会を逃す。

これらの課題を解決するためには、企業内外の垣根を越えた「連携」が鍵となります。


障害者雇用の「連携」を強化!定着支援を成功させる3つのポイント

障害者雇用の定着支援を成功させるには、採用プロセスから入社後までの一貫した「連携」が鍵となります。ここでは、具体的な3つのポイントをご紹介します。

ポイント1:配属先と「採用段階から」連携する

採用活動と配属部署の連携が不十分だと、入社後のミスマッチが起きやすくなります。

  • 職場実習の活用:応募者に実際の職場を見てもらうだけでなく、短期間の職場実習を実施することで、本人と配属先双方に業務内容や職場環境を体験してもらう機会を設けます。これにより、入社後のギャップを最小限に抑えられます。
  • 配属部署との丁寧なすり合わせ:採用時に把握した配慮事項(例:休憩の頻度、業務指示の方法など)を、配属部署の上司やメンバーと事前に共有し、受け入れ体制を整えておくことが重要です。

ポイント2:社内の「定着支援」体制を整備する

入社後の定着支援には、現場の担当者だけでなく、さまざまな社内関係者との連携が欠かせません。

  • 定期的な面談の実施:本人・上司・人事担当者で定期的に面談を実施し、業務の進捗や困りごとがないかを確認します。これにより、小さな課題が深刻化する前に対応できます。
  • 障害に関する社内研修:全社員向けに、障害の特性や適切なコミュニケーション方法を学ぶ研修を実施することで、職場全体の理解を深めます。特に、配属部署の社員には、より実践的な内容の研修が効果的です。

ポイント3:社外の専門機関と「協働」する

自社だけでは対応が難しい課題も、外部の専門機関と連携することで解決できます。

  • 就労移行支援事業所:入社前に就労移行支援事業所と連携し、応募者の特性や強み、必要な配慮事項などを共有してもらうことで、採用時のミスマッチを防ぎます。
  • 定着支援サービス:入社後の定着を専門的に支援するサービスを活用することで、専門家から客観的なアドバイスやフォローアップを受けられます。本人・上司・人事担当者への定期的な面談を通じて、早期離職の防止が期待できます。
    参考資料:障害者雇用で「困った」時に頼れる!外部の専門機関と相談のコツ
  • 常駐支援サービス:支援体制が整うまでの数か月間、弊社の常駐支援サービスを利用することで、障害者雇用の構造化を行い、安定就労や障害者の戦力化が期待できます。

厚生労働省の「就労移行支援・就労定着支援 事例集」にも、多くの成功事例が掲載されています。公的機関の事例からも、外部連携の重要性が伺えます。


連携と定着支援で成功した企業の事例紹介

ここでは、実際に「連携」を強化することで定着に成功した企業の事例をご紹介します。

【事例①】発達障害のある方の定着に成功したA社

A社様では、発達障害(自閉スペクトラム症)のある方を採用したものの、「メンバーとのコミュニケーションがうまくいかない」という課題が発生。

そこで、就労移行支援の定着担当者が入り、以下のサポートを実施しました。

  • 本人・上司・定着担当の三者面談:ご本人から困りごとを丁寧にヒアリング。
  • ご本人へのアプローチ:1on1を実施し、なぜ困っているのか、その背景にある自身の特性を理解してもらい、職場でどのように対応するかを一緒に整理しました。
  • 上司へのアプローチ:チーム内で「自己紹介セッション」を実施することを提案。互いの特性を理解する場を設けたことで、職場全体の理解が深まりました。

その結果、ご本人の気持ちの変化や周囲とのコミュニケーションの仕方について徐々に理解が深まり、チーム全体が安定し始めました。ご本人の業務への集中力も向上し、上司からも「穏やかになったように見える」と嬉しい声が聞かれました。

このように、外部の専門家が客観的な視点からサポートすることで、円滑な連携とスムーズな課題解決が可能になります。

【事例②】精神障害のある方の定着に成功したB社

B社様では、精神障害(社交不安症)のある方を採用したものの、入社してから「極度に緊張するので責任の重い仕事は避けたい」「誰かと仕事をすることは不安なのでペアを組む仕事は避けたい」「周りからの評価が気になって眠れない」「昼休みは一人で過ごしたい」などの希望が明らかになり、業務の割り振りに課題が発生。

そこで、弊社の常駐支援員が定着支援に入り、以下のサポートを実施しました。

  • 定期的な1on1の実施:週1回、30分の面談を通じて信頼関係を築き、ご本人から不安に思っていることをヒアリングし、解決策を相談する機会を設けました。
  • 業務アサインの配慮:ご本人の希望に近い仕事をアサインし、安心できるメンバーとのペアから業務を開始。
  • 上司へのアドバイス:業務遂行のために職場でできる必要な配慮を説明し、パーテーション設置など環境整備を提案しました。

その結果、ご本人は不安とうまく付き合うことができるようになり、パフォーマンスも安定。上司からも「適切な業務分担ができ、チームの一員として頼もしい存在になった」と喜びの声が聞かれました。

この事例のように、外部の専門家が専門的な知識とノウハウを提供することで、企業と障害のある方の双方にとって最適な連携の形を築くことができます。


まとめ|連携を強化して定着率の高い障害者雇用を目指しましょう

障害者雇用の定着率向上には、採用前の準備から入社後のフォローアップまで、社内外の関係者が密に連携することが不可欠です。

職場実習によるミスマッチ防止、社内研修による理解促進、そして外部機関との連携による専門的なサポート。これらの取り組みは、短期的な離職を防ぐだけでなく、長期的に障害のある方が活躍できる職場環境を築き、企業価値を高めることにもつながります。

貴社でも、この記事でご紹介した「連携」のポイントをぜひ実践してみてください。


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この記事を書いた人

宮田 裕美子

株式会社Kaien 就労支援事業部 法人向けサービス担当
ブリッジコンサルタント

約23年間、人材業界で企業の求める人材を紹介する業務に携わる中で芽生えた「働く意欲のある、すべての求職者に働く喜びを伝えたい」という強い思いを実現すべく、2018年に株式会社Kaienへ。

入社後は、障害のある方の就労支援を経て、現在は企業内常駐支援者として、障害者雇用の最前線に立つ。これまでに約300名の当事者と約30名の上司の架け橋となり、業務の仕組み化や運営、日々のコミュニケーションまで幅広くサポート。一人ひとりの安定就労はもちろん、企業全体の組織力向上に貢献することを目指している。