非定型うつ病はうつ病の一種ですが、従来のうつ病と異なる症状が見られます。非定型うつ病には「好きなことは元気に取り組めるのに、嫌なことにはやる気を失う」などの特徴があるため、周囲からは「単なるわがまま」に見えてしまうケースもあります。
従業員が非定型うつ病を発症した場合、非定型うつ病の特徴をきちんと理解して適切に接することが、企業側には求められるのです。今回は企業担当者の方に向けて、非定型うつ病の原因や診断基準、職場での接し方などを詳しく解説します。
このページの目次
非定型うつ病とは
非定型うつ病とは、従来の典型的なうつ病とは異なる症状の出るタイプのうつ病のことです。治療法や周囲の接し方などのさまざまな点で、従来のうつ病との違いが見られます。
非定型うつ病に関する知識は、世間一般には十分には知られていません。自分が非定型うつ病だと気づいていない、あるいは周囲に「単なる甘えやわがまま」と認識されてしまうケースも多く見られます。また、医療機関を受診しても「異常なし」などと誤診される場合もあります。
非定型うつ病は、従来のうつ病に比べて若い人が発症することが多く見られます。
うつ病との違い
うつ病には「従来のうつ病(メランコリー型うつ病)」「非定型うつ病」「季節型うつ病」などいくつかの種類があり、従来のうつ病と非定型うつ病には以下の違いが見られます。
<うつ病と非定型うつ病の違い>
うつ病の種類 | うつ病(メランコリー型) | 非定型うつ病 |
---|---|---|
特徴 | ・いつも落ち込んでいる ・何に対してもやる気、興味が湧かない ・自責感が強い | ・自殺未遂が多い ・鉛のように体が重い ・不安障害など合併症が多い |
食欲・睡眠など | ・食欲減退 ・体重減少 ・性欲減退 | ・過食・体重増加 ・甘いものを大量に食べたくなる ・性欲亢進する場合もある |
周囲から見た様子 | 明らかな不調が出ている | ただの甘えに見えることも |
気分障害は、うつ状態だけが続く「大うつ病」と、躁(そう)状態・うつ状態をくり返す「双極性障害」の2種類に分類されます。非定型うつ病は「大うつ病」の一種ですが、「双極性障害」に含まれるとする考え方もあります。
適応障害との違い
適応障害とは、なんらかのストレスがきっかけになって心身に不調をきたし、社会生活に支障が出る状態のことです。典型的なうつ病には明確な発症原因が不明なケースも多いのですが、適応障害の発症には明確なストレスが関わっているのが特徴です。
<うつ病と適応障害の違い>
うつ病 | 適応障害 | |
---|---|---|
発症のきっかけ | 明らかでないことが多い | 明らかなきっかけがある |
おもな症状 | ・長期的にストレスを受け続けたあとで発症することが多い ・ストレスから離れても不調が軽快しにくい | ストレスから離れるとすぐ軽快する |
食欲不振・不眠の程度 | 重い | 比較的軽い |
好きなことへの反応 | 興味がわかなくなる | 楽しめる |
基本的な対処法 | 医療機関での治療 | ストレスを取り除く、環境を変える |
非定型うつ病の原因
非定型うつ病の原因は、まだ十分には解明されていません。しかし、非定型うつ病の発症には、性格的な要因がある程度関与していると考えられています。
たとえば、不安を感じやすい性格や相手への気遣いをしすぎる、相手からの評価を気にしすぎるなどの傾向があると非定型うつ病を発症しやすいといわれています。
物事に対する考え方に偏りが強い場合も、周囲とのコミュニケーションが難しくなってメンタル的に不安定になり、非定型うつ病につながる可能性があるとされています。
遺伝が非定型うつ病に関与するという報告がありますが、まだはっきりとは分かっていません。また、本人を取り囲む養育環境や生活環境などの背景が、非定型うつ病に影響を与えている可能性があります。
非定型うつ病の診断基準
非定型うつ病の診断には、米国精神医学会のDSM-Vという診断基準が用いられます。DSM-Vではまずはうつ病の診断基準に該当するか診断し、該当する際にはさらに非定型うつ病の特徴にあてはまるか調べて、該当する場合には非定型うつ病と診断します。
<DSM-Vにおけるうつ病の診断基準>
以下の症状のうち、少なくとも1つある。1.抑うつ気分
引用:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引
2.興味または喜びの喪失
さらに、以下の症状を併せて、合計で5つ以上が認められる。
3.食欲の減退あるいは増加、体重の減少あるいは増加
4.不眠あるいは睡眠過多
5.精神運動性の焦燥または制止(沈滞)
6.易疲労感または気力の減退
7.無価値感または過剰(不適切)な罪責感
8.思考力や集中力の減退または決断困難
9.死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図
上記症状がほとんど1日中、ほとんど毎日あり2週間にわたっている症状のために著しい苦痛または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能障害を引き起こしている。これらの症状は一般身体疾患や物質依存(薬物またはアルコールなど)では説明できない。
上記基準でうつ病に該当する場合、次に非定型うつ病の診断基準を満たすか診断します。
<DSM-Vにおける非定型うつ病の診断基準>
引用:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引
A:気分の反応性(現実に起きている、または起きる可能性のある楽しい出来事に反応して気分が明るくなる)
B:次の特徴のうち2つ(またはそれ以上)
(1)明らかな体重増加または食欲の増加
(2)過眠
(3)鉛様の麻痺(すなわち、手や足の重い、身体が鉛のように重い感覚)
(4)長期間にわたる、対人関係の拒絶に敏感であるという様式(気分障害のエピソードの間だけに限定されるものではない)で、著しい社会的または職業的障害を引き起こしている。
C:同一エピソード(うつ病である期間)の間にメランコリー型の特徴を伴うもの、また、緊張病性の特徴を伴うものの基準を満たさない。
これら2つの基準を満たす場合には、非定型うつ病と診断されます。
非定型うつ病の特徴
非定型うつ病の患者には、以下の特徴が見られます。
- 肯定的な出来事に反応して気分が良くなる
- いくら寝ても眠く、1日に何時間でも眠れてしまう
- 食欲が亢進し、体重が増える
- 甘いものをたくさん食べたくなる
- 手足に鉛がつまったように体が重たくなる
- 立ち上がるのもつらいほど疲れている
- 他人の言動に過敏に反応し、自分がどう思われているか気にする
- ささいなことにキレたりイライラしたりする
- 体調や気分の変化が激しい
- 夕方~夜になると、わけもなく悲しくなったり泣いたりする
- 過去のことを思い出して、感情のコントロールができなくなる
非定型うつ病の人への接し方
職場における非定型うつ病の人への具体的な接し方を解説します。従来のうつ病と比較すると、次のような違いに注意が必要です。
<うつ病と非定型うつ病における周囲の接し方>
接し方のポイント | うつ病 | 非定型うつ病 |
---|---|---|
励まし | 励ましてはいけない | 多少の励ましはOK |
がんばり | がんばってはいけない | 少しがんばる場面も必要 |
気配りの程度 | あくまで優しく寄り添う | 優しい言葉遣いをすれば、行動を促すための働きかけはOK |
夜勤やシフト制で働かせるのを極力避ける
非定型うつ病の人に、夜勤や夜遅くまでの勤務があるシフト制労働を課すのはやめましょう。夕方から夜にかけて不安を抱いてしまう人も多く、心身に不調をきたす場合が多いためです。
また、非定型うつ病の改善には一定の生活リズムを保つことが重要です。夜間の勤務で生活リズムが乱れると非定型うつ病の倦怠感や気分の落ち込みが悪化しやすくなるため、日中の勤務にするといった配慮が必要となります。
通院に配慮する
従業員が非定型うつ病を罹患している場合には、通院への配慮も大切です。非定型うつ病のフォローには定期的な通院が欠かせません。受診日に休みを取りやすいように労働環境を整える必要があります。
非定型うつ病の従業員が安定的な生活リズムを作るうえでも、企業側も受診日への配慮を示すとよいでしょう。
多少の励ましであれば問題ない
非定型うつ病の場合は従来のうつ病とは異なり、軽く励ましてあげるほうが本人のためになります。本人が自発的な行動を起こそうと思えるように、優しい声かけをして背中を押してあげましょう。
言葉づかいや態度が厳しくならないように「優しさ」を意識しつつ、やるべき仕事を本人が達成できるよう、ある種の「厳しさ」を心のなかに持って接すると、本人の気力を奮い立たせることへとつながります。
まとめ
非定型うつ病患者は気分や体調にムラが大きく、周囲からは怠けているように見える場合があります。しかし、実際には本人が場面に応じて態度を変えているわけではないため、怠慢などと決めつけないで接することが重要です。
従業員に非定型うつ病が疑われる場合は本人とのコミュニケーションを取りながら、必要に応じて診療を促すとよいでしょう。
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参考:貝谷 久宣「非定型うつ病のことがよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)」,講談社,2008/9
■ 監修者コメント
上司から声をかける際、本人が安心して話ができる場所を用意することも重要です。上司の人はついアドバイスをしたくなる気持ちを抑え、共感や傾聴に徹しましょう。直接アドバイスをするのではなく、質問などを駆使して、自分で気付いたり、発言できるように会話の流れをもっていけると、本人も発見や学びが多いと思います。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
メール: rep@kaien-lab.com / 電話番号 : 050-2018-1066 / 問い合わせフォーム:こちら
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