【企業向け】精神障害者への対応の仕方をパターン別に解説

精神障害者を採用して継続的な雇用につなげるには、精神障害についての基礎知識や就労後に配慮すべきことをおさえる必要があります。
そこで本記事では、精神障害の概要や精神障害者の雇用継続に必要なメンタルヘルス対策などを解説します。

この記事を読めば、精神障害者の対応について理解でき、継続的な雇用につなげやすくなります。

精神障害とは?

精神障害とは心身にあらゆる影響が生じる疾患のことです。代表的な疾患に、うつ病や双極性障害(躁うつ病)、統合失調症があります。

精神障害の要因は脳内の神経伝達物質の乱れだといわれており、精神障害になると気分の落ち込みや幻覚・妄想などの症状があらわれます。
これらの症状は「精神疾患」とも呼ばれていますが、精神障害と精神疾患は表記が違うだけで意味はほとんど同じです。

なお、厚生労働省の調査によれば、平成29年度は日本国内に精神疾患のある人が約420万人、日本国民の30人に一人の割合で存在することがわかりました。また、約5人に一人の割合で、生涯を通して精神疾患にかかるといわれています。このことから、精神疾患は珍しい病気ではなく、誰しもかかる可能性がある病気であることがわかるでしょう。

精神障害の種類

精神障害には、以下のような種類に分けられます。

うつ病(大うつ病性障害)気分が落ち込む、興味や喜びの感情を失う、体がだるいなどの精神や身体に影響が生じる疾患のこと。原因は解明されていないが、主な原因はストレスだといわれている。
双極性障害(躁うつ病)抑うつ状態(気分の落ち込みなど)と躁状態(気分が高まり意欲が湧き、精力的に行動する)を繰り返す疾患のこと。原因は解明されていないが、抑うつ状態はストレスが元となり、躁状態は大きなきっかけがないことが多い。
統合失調症陽性症状(幻覚や妄想などがあらわれる状態)と陰性症状(感情の揺れが少なくなったり意欲の低下があらわれる状態)がある疾患のこと。思春期から青年期にかけて、約120人に1人の割合で発症するとされる。
発達障害物事の捉え方や言動などに特徴があり、周囲の環境とのミスマッチから困難が生じること。要因は、生まれつき脳内の神経伝達物質の異常によるとされている。
適応障害環境の変化によってストレスを抱え、抑うつや不安感などの症状がストレスとなった原因から3ヶ月以内にあらわれ、日常生活に支障が出ている状態のこと。環境が大きく変わることになじめず、ストレスを感じることが原因だといわれている。
精神障害の種類一覧

精神障害者への配慮の例

精神障害者の方には、たとえば次のような配慮が求められます。それぞれに詳しく解説していきます。

  • 面接で就労支援機関の職員の同席を認める
  • 短時間勤務を認める
  • 業務指導担当者を決める
  • 通院・服薬の管理する
  • 休暇を取得しやすくする
  • 能力が発揮できる仕事へ配置する

面接で就労支援機関の職員の同席を認める

精神障害があるなかで就労支援機関などに通っている方は、面接時に支援機関スタッフの同席を認めるようにすると良いでしょう。
また、対応するスタッフに障がいの特性を周知し、面接時に本人に過度な負担がかからないように配慮することも大切です。緊張しやすい方の場合、面接時に実力を発揮できないことがあるからです。

企業によっては、職場見学などを実施することもあります。
そうすれば、精神障害を持つ方に仕事内容や職場の雰囲気を知ってもらい、自分に合った職場かどうか判断してもらいやすくなるからです。

短時間勤務を認める

精神障害の症状には、過剰な集中をしてしまう特性がある方がいます。その場合は、ほかの従業員より疲れやすい、8時間勤務を連日続けることが難しい可能性もあります。
そのような場合は、短時間勤務も検討しましょう。

慣れない環境でとくに大きな負担を感じやすい就業初期に、短時間勤務を認めている企業もあります。
環境に慣れるまでは短時間勤務を認め、その後に勤務時間を徐々に延ばしていくのも一つの方法です。

業務指導担当者を決める

精神障害がある方は、全力で頑張りすぎる・バランスの取れた働き方がわからないなどが原因で、本人が気づかないうちにストレスや疲労を溜めてしまいがちです。

そうならないように、業務について質問や相談ができる指導担当者を決めておくといいでしょう。
そうすれば、当事者は指導担当者とコミュニケーションしやすくなり、働く上での課題を認識合わせしやすくなるはずです。その結果、事業者は必要な対応を取りやすくなるため、スムーズな業務遂行へとつながります。

通院・服薬の管理する

精神障害がある方は、通院が毎週必要であったり、定期的な服薬が必要な方がいます。
勤務時の休憩時間などが固定されることで必要なタイミングでの通院や服薬が難しく、体調が悪化してしまう可能性があります。

そうならないように、当事者に事前確認した上で、必要な配慮を行うようにしましょう。
たとえば、適切な時間に服薬できるような休憩の取り方を設定することができます。また、通院回数に応じて休暇を増やすことも必要です。

休暇を取得しやすくする

精神状態や体調が優れないにもかかわらず、無理に働こうとする方がいるかもしれません。
無理な働き方を続けていると、症状が悪化して休職せざるを得ない状況に追い込まれてしまう可能性があります。

そうならないように、自身の健康状態に合わせて、当事者が休暇を取りやすくなるような仕組みを整えることが必要です。
通院が必要であれば、1時間単位で有給休暇を取得できるようにするなど工夫するとよいでしょう。

能力が発揮できる仕事へ配置する

精神障害がある場合、症状にあわない働き方をすることで、配属先とミスマッチを起こす可能性があります。
その場合、特性・能力を発揮しやすい仕事への配置を検討しましょう。

たとえば、当事者が業務面で適性が合わないと感じているようであれば、適正な業務の切り出しを行ったり、配置転換したりするのも手です。
そうすれば、成果を発揮しやすくなるかもしれません。

また、センシティブで難しいコミュニケーションに対応しきれず、職場での対人関係で大きなストレスを抱えてしまう方もいます。
人間関係のトラブルが起きたときには、当事者のストレスが減るように適切な部署へ配置することも必要です。

精神障害者への対応パターン事例

中央経済出版社「ケースでわかる【実践型】職場のメンタルヘルス対応マニュアル」をもとに、3パターンの事例について、解説します。

  • 病院に行かない人のケース
  • 休職中海外旅行に行った人のケース
  • 主治医から業務軽減要求があったケース

病院に行かない人のケース

【問題点】

体調が優れないにもかかわらず、なかなか病院に行かない中途入社の従業員がいるケースです。数ヶ月前から集中力がなく、昼食後は眠気やミスが目立つ従業員がいました。
体調不良による連日の欠勤などもあったため、上司はメンタルヘルスの不調を心配して本人に声をかけました。しかし、本人は謝るばかりで理由を話さず、通院を勧めても病院に行く気配がありません。

【産業医のアドバイス】

本人の気持ちに理解を示した上で、今の状態が続いた場合のケースを説明し、「私は心配なんだ」と伝えるようにするといいでしょう。
そうすると、本人が受診を拒む理由を話すことがあり、対処方法が見つかることがあります。

また、どうしても受診してもらえない場合は、「次に遅刻したら、病気が原因ではないか確認のために受診することを約束してほしい」と、将来について約束するのも手です。

なお、社内に産業医などの専門スタッフがいる場合、面談の機会を設けて、必要な医療機関はどこかを判断してもらう方法が最良です。

休職中海外旅行に行った人のケース

【問題点】

うつ病で休職中の従業員が海外旅行に行ったケースです。休職中に従業員が海外旅行をして、現地で結婚式を挙げていることが本人のSNSでわかりました。
社内で「服務規律違反なのではないか」と問題となり、上司は本人に確認しました。すると、「主治医から好きなことをしていいと言われたから」と悪びれることなく報告されました。対処の仕方に困っています。

【弁護士のアドバイス】

主治医が海外旅行を許可していたのかどうか、実際に会って確かめてみるといいでしょう。裁判所は、主治医の見解に従うケースがよくあるためです。
主治医が「たまには海外旅行をしてもいい」と言っていれば、休職中の海外旅行は服務規律違反に問えません。

また、本人とコミュニケーションを取ることも重要です。本人が仕事への情熱を失っている場合、話し合いで退職することもあります。

主治医から業務軽減要求があったケース

【問題点】

店長職の従業員が欠勤後、休職しました。主治医による診断書によると「抑うつ状態」で、しばらく休養が必要だと判断されました。
その後、「職場復帰可能」と診断され、診断書には「段階的な復帰が必要」と記載されていました。

しかし、段階的な復帰では、体調が回復したとはいえないと感じます。
また、慢性的な人手不足状態で、店長職には他の従業員が就いている状態で、段階的な復帰を認める余地がありません。休職期間満了で自然退社にしてもいいのでしょうか。

【産業医のアドバイス】

どのようにして「段階的な復帰」を果たしていく予定なのか、まず従業員にヒアリングしてみるといいでしょう。
それでも判断できない場合、主治医と話し合うのがおすすめです。ヒアリング時は、次のポイントをおさえます。​​その上で、従業員の考えが会社として許容できるかどうか判断していけばいいでしょう。

  • どの程度、復帰直後の業務負担(量、質)を軽減してほしいか
  • どの程度、労働時間を軽減してほしいか
  • どのくらいの期間で、通常求められるパフォーマンスを発揮できそうか。もしくは、永続的な業務軽減を期待しているのか

加えて、従業員に「条件付きの復職許可の診断書」が出た経緯を確認して、現状を正確に把握するのがおすすめです。
このようにヒアリングするなかで、従業員と会社とのあいだで折り合いがつくかどうか検討していきます。

まとめ

精神障害の概要や精神障害者の雇用継続に必要なメンタルヘルス対策などについて、人事担当者が知っておきたいことも踏まえてご紹介しました。

精神障害者の雇用数は年々増加しているにもかかわらず、定着率が低いことに悩む企業は少なくありません。
今回ご紹介した職場での配慮の仕方や対応パターンの事例を参考にすれば、雇用の定着につなげやすくなるでしょう。

「Kaien」では、障害者雇用に適した業務を選定するためのヒアリングシートを配布しています。

精神障害者の雇用の際に業務切り出しに迷った経験がある方は、ぜひ参考にしてください。

■監修者コメント

精神障害の社員へのサポートは理解と配慮が必要ですが、休職中の海外旅行のケースのように、常識的に受け入れ難いものもあると思います。医療機関と連携をとりつつも、会社の文化やルールを冷静に伝えていくことも重要です。

監修 : 益田 裕介 (医師)

防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属

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