障害者雇用を検討する際、接客のようなコミュニケーションを主体とした業務を任せることに、不安を感じる方もいるようです。しかし、障害のある方が接客業務で活躍している事例は多く存在します。本記事では、障害者に接客業務を任せる際の配慮や、実際に接客業務で活躍している企業の事例をご紹介します。自社で障害者雇用を促進する際に参考となる内容なので、ぜひお役立てください。
このページの目次
障害者が接客業は「不向き」と考えられている理由
障害のある方にとって、接客業務は不向きではないかという考え方をしている方が一定程度の割合でいるようです。その背景には、接客業という職種が人とのコミュニケーションを主体にしていることや、身体的・精神的な障害に対するイメージが関係しています。
例えば、聴覚障害の方に対しては、「耳が聞こえないから接客が難しいのでは?」と思われるかもしれません。また、発達障害のある方に関しては「適切なコミュニケーションが苦手なのでは?」と思われることもあるでしょう。しかし障害の内容や状態は個人によって異なるため、障害の有無、または障害の種類によって接客業が向いていないとは一概には言えません。また、接客業務と一口に言っても、その様態は職場環境により様々です。つまり、「障害がある=接客業に向いていない」という意見はアンコンシャスバイアス、つまり無意識の偏見といえます。
実際に、障害のある人も接客業で多く活躍しています。このことからも、接客業に向いているかどうかは、障害そのものではなく個々によって異なる障害の状況や必要な配慮と、職場環境との関係性によって判断することが大切です。
アンコンシャス・バイアスとは?事例と取り組みをわかりやすく紹介
障害者が接客業で活躍するためにできる配慮
障害のある方が接客業で活躍している成功事例は多く存在します。その要素の1つとして、障害のある方が働きやすいように職場環境を整備する「合理的配慮」が、適切になされている点が挙げられるでしょう。
ここでは、以下の高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の配慮事例などから、実際に障害のある方へ接客業務をお願いする際に行っている配慮を紹介します。
参考:発達障害者の販売補助業務における合理的配慮事例(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)
参考:小売業(食品スーパーマーケット)における発達障害者の合理的配慮事例(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)
マニュアル化をきちんと行う
接客業はさまざまなお客様の対応を求められます。その際、発達障害の特性によっては、臨機応変に対応することが困難なケースもあるでしょう。そのため、多様な場面に対応できるようにマニュアル化を行うことが必要だと考えられています。
具体的な配慮としては、「1日の業務の流れを予め書き出しておく」「業務指導の担当者を決めて一貫した指導を行う」「他のスタッフに障害の特性や必要な配慮を周知しておく」などが挙げられます。
全社共通のマニュアルを作ることに拘らず、店舗ごとの特色やニーズに合わせてカスタマイズすることが有効です。障害を持つ方の特性に合わせてその都度書き足していくことで、スタッフが安心して業務に取り組める環境を整えられます。
本人に配慮しながら特性についてお客さんにも理解してもらう
接客業で障害者が活躍するためには、障害の特性に対する理解と配慮が求められます。しかし、一般のお客様に発達障害の特性をすぐに理解してもらうのは難しいでしょう。お客様に特性を説明するにしても、障害を持つ方への配慮が必要になります。そこで、接客環境自体を変えることで、この課題を解決する企業も存在します。
例えば、会社の従業員向けの飲食店で接客を任せるなどです。お客様となる従業員は障害の特性を理解しているので、スタッフも無理なく、自分らしい接客ができるようになります。
このように、障害を持つ方が接客業で活躍するためには、お客様が障害の特性を理解している環境作りが有効といえるでしょう。
障害者が接客業務で活躍する事例
ここからは、障害者が実際に接客業務で活躍している事例を3つご紹介します。
スターバックス
「スターバックスコーヒー nonowa国立店」での取り組みは、聴覚に障害のあるパートナー(従業員)を中心に運営しているところです。この店舗では、主なコミュニケーション手段として手話が活用されており、聴覚障害のあるパートナーも快適に働ける環境を整えています。スターバックスのダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を具現化する取り組みであり、多様な人々が自分らしく過ごし、活躍できる居場所を提供している店舗です。
このようなコンセプトの「サイニングストア」は、既にマレーシアに2店舗、米国と中国にそれぞれ1店舗展開されています。そして、nonowa国立店ではこれらの経験を活かし、店内には手話を楽しみながら触れられる工夫が随所に施されているのが特徴です。例えば、商品受け取り場所にはデジタルサイネージが設置され、提供時には手話による案内と共に、レシートに印字された番号をデジタル表示するシステムを導入しています。
さらに、音声認識を活用した文字起こしや、指差しでの注文メニューシート、筆談具など、さまざまな方法での注文が可能です。必然的に手話や視覚情報が主要なコミュニケーション手段になるため、店内は静かな環境となっています。このような取り組みを通じて、スターバックスは障害者雇用が顧客体験の新しい意味を生むことを証明しています。
オリィ研究所
東京・日本橋には、オリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」というカフェがあります。障害を持つ方でもリモートで働ける仕組みが導入されており、「コミュニケーションテクノロジーで人類の孤独を解消する」という目標のもと運営されているカフェです。
店内での接客は、カメラ、マイク、スピーカーを備えた遠隔操作のロボット「OriHime(オリヒメ)」が行い、このロボットを操作するスタッフは「パイロット」と呼ばれています。パイロットの多くは障害を持つ方々です。中には身体をほとんど動かせない方もいるとのことですが、視線入力装置を使用してパソコンを操作し、接客業務を実現しています。
このカフェで勤務する1人の女性は、「いろんな人と話せて居場所ができた気持ち」と語っています。このように、テクノロジーを活用することで、働く場所や方法を変革し、それぞれの能力を発揮できることを示した事例です。
トーマツチャレンジド株式会社
トーマツチャレンジド株式会社は、2006年に有限責任監査法人トーマツの特例子会社として設立されました。その背景には、障害者の雇用を増やし、働く場を提供するという目的があります。障害を持つ方に配慮した作業指示書の作成や、一人ひとりに適したアドバイス、配慮を行っている企業です。
障害を持つ従業員がさまざまな業務をサポートしており、その一例としてカフェサービスが挙げられます。
オフィス内の休憩スペースにはコーヒーサーバーや給茶機を設置しています。コーヒー豆や給茶機の粉、水の補充などを実施しています。
社内向けのカフェで、接客、レジ打ち、コーヒーなどの商品提供、コーヒーのデリバリーなどを実施しています。
業務内容(トーマツチャレンジド株式会社)
このような業務は、社内の従業員たちが障害を持つ同僚の特性や能力を理解することにつながります。その結果、購入する側も販売する側も、互いに快適なコミュニケーションを取ることができるでしょう。
明治安田ビジネスプラス株式会社
明治安田生命の特例子会社である明治安田ビジネスプラスは、入社時のきめ細かな研修や、働くメンバーとの定期的な面談などの配慮を実施している会社です。また、障害者の社会参加を後押しする取り組みとして、障害を持つ方が働くコンビニを社内に設置しています。
社内物販業務
明治安田生命本社ビル内に設置した職員向けのコンビニエンスストアの運営を行なっています。具体的には、レジ等の接客、店舗内の清掃、商品の陳列・補充等を行なっています。
明治安田生命グループの福利厚生に関する業務
明治安田生命従業員の福利厚生として休憩時間等に気持ち良く利用してもらうよう、清潔な店舗、心地よい応対を日々心がけています。
この取り組みを通じ、社内間で発達障害者の特性が理解され、販売側と購入側の双方が快適に業務を行うことができています。
この取り組みは、発達障害者に完璧な仕事を求めるのではなく、環境を変える配慮を行うことで働きやすい職場を実現した事例です。発達障害者が働く場所を提供するだけでなく、能力や特性が理解される工夫を行うことで、より良い労働環境を提供することができます。
まとめ
「障害のある方は接客をするのに困難を感じるのではないか」と考える方も少なくありませんが、必ずしもそうではありません。接客業務の向き、不向きは、障害の有無ではなく一人ひとり異なる能力や障害の状況によって個別に判断することがあるべき姿でしょう。
接客業務に完璧を求める場合、障害の特性によっては難しいケースもあるかもしれません。しかし、お客さんとの関係性をアレンジしたり、職場環境を整えることで、障害のあるの方も安心・安全にサービスを提供することが実現可能です。また、障害者雇用を推進することは、多様性を実現するための姿勢を、自社の社員や顧客を含めたステークホルダー全員に伝えることにもつながるでしょう。
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