うつ病は決して珍しい病気ではありません。厚生労働省の「令和2年(2020)患者調査」によると、年間で約120万人がうつ病を含む気分障害にかかるそうです。また別の調査によると、日本では生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるともいわれています。
本記事は企業などで管理職に従事する方に向けて、部下がうつ病となり休職を願い出た際に、上司としてとるべき対応や、知っておきたい知識をお伝えします。
➀まずは本人の話をきく
本人から心の健康状態に関する相談があった際には、まずはじっくりと本人の話を聞きましょう。話を聞く際には、本人が話しやすい環境を整えることが大事です。必ず個室に移ってください。
安易な叱咤激励は「自分の話を理解してもらえない」という印象を与え、逆効果になることが多いので注意しましょう。話を聞く際には相手の言うことを否定せず、じっくりということに耳を傾けてください。相手の状況によってはなかなか言葉が出づらいことがあるかもしれませんが、粘り強く相手の言葉を待ちましょう。時計を見るなど時間を気にする様子を出してしまうことは極力控えてください。
本人が一通り話しを終えたら、まずは相談してくれたことへの感謝と、本人が話したことを理解し受け止めたうえで、心配している気持ちを伝えるとよいでしょう。そして状況を良くするために出来る限りの協力をする気持ちをお伝えしてください。
食欲の減退や、睡眠の不調、認知機能の低下など、健康状態への影響が見られているのに、未だ医療機関を受診していない場合には、早めに産業医や心療内科の診察を受けるよう促してください。自己判断せず、専門家の意見を聞きながら、必要に応じて適切な医療を受けることが快方に向かう第一歩となります。
➁休職の申し出があった場合には速やかに手続きを行う
本人から休職したい旨の申し出があった場合には、主治医からの診断書を提出するように伝え、その内容を確認して下さい。
診断書に休職をとらせるべき旨の記載があれば、原則的な対応としては、速やかに休職に入ることができるよう、手続きを進めることをおすすめします。様々な業務の事情によっては「そう簡単に休ませるわけにもいかない」ということもあるかもしれませんが、心の状態は本人と、それを診断した医師しかわからないことなので、業務の事情を優先して休息をとることを妨げることは、危険を招く場合があることを考慮してください。
ただし、休職の制度は法律による定めはなく、企業それぞれが就業規則などで規定する任意の制度です。会社によって休職をとることができる従業員の範囲や、期間などは企業により異なります。規定に関する理解に不安がある場合には、その場で休職の可否を即答することは避け、まずは人事労務の担当者に相談するようにしましょう。
人事労務とも連携を行い、関係者間で休職に入る旨を確認の確認ができたならば、可能な限り早期に休職に入ることが出来るよう、業務の調整や引継ぎの段取りを進めていってください。
本人への休職に向けた事務手続きを案内する際には、休職期間中の経済的な不安を感じている場合も多いため「傷病手当金」に関する情報提供も合わせて伝えてあげるとよいでしょう。
■ 傷病手当金とは
傷病手当金は、休職中に健康保険から給付される手当です。標準報酬月額の2/3相当の額が支給されます。期間の上限は1年半です。一般的には「会社経由」で申請します。申請には以下の4つの条件を満たす必要があります。
<傷病手当金の申請条件>
- 業務外の事由による病気や怪我による療養のための休職であること
- 医師から就労が不可であると診断されていること
- 連続する3日を含む4日以上の就労が不可能であると認められること
- 休職期間中に会社から給与が支払われないこと
➂休職期間中も定期的に連絡をとる
休職期間は、会社側と本人とで定期的に連絡を取り合うことをおすすめします。休職に入る際に月1回程度を目安に難からの形でコミュニケーションをとることをご本人と約束しておけるとよいでしょう。連絡を取り合う相手は本人との信頼関係を構築出来ている相手であれば、上司であっても人事部門の担当でも、どちらでもよいでしょう。企業によっては休職中の対応についての運用マニュアルが用意されている場合がありますので、そのあたりも人事労務の担当とよく話して確認をとることができるとよいでしょう。
療養している期間中は先々に向けた不安や孤独感を感じるものです。本人が親近感を感じることができるよう何気ない雑談でコミュニケーションが取れるとよいと思います。その中で、職場のことは気にせずゆっくり休息をとってほしいと思っていること、体調が回復しだい戻る場所があることをお伝えし安心してもらえるようメッセージを伝えてください。また、その際にコンディションの変化や日中の様子について確認し、関係者と情報連携を行ってください。
休職中にプレッシャーを感じさせてしまっては本末転倒です。必要最低限を除いては、業務上の具体的な話題は出来る限り避けたほうが良いでしょう。
➃リワークに関する情報提供をする
休職の期間は医師による診断書や、会社の制度によって決まるので場合により異なりますが、一般的にうつ病による休職の場合は、3ヶ月から1年程度の休職期間が一般的です。一定期間が経過し、状態としても復職に向けた見通しが立つタイミングで「リワーク」の制度について情報提供を行うとよいでしょう。
リワークとはうつ病・気分障害などの精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムです。
■リワークとは
うつ病などにより休職している者を対象に、医療機関や公的機関、その他民間の事業所で行われる復職支援プログラム。
実施している内容:ストレスコントロールなどのプログラム、グループディスカッション、パソコンなどの軽作業を通して、復職してからも無理なく働き続けるスキルを身につけるとともに、日中活動に向けた生活リズムや体調を整える。
実施している機関:
- 医療機関:精神科や心療内科で実施しているリワーク。一般的に臨床心理士や精神保健福祉士など専門職が、セルフケアのスキルを身に着けるためのプログラムを行います。一部、個人負担の医療費が発生します。
- 障害者職業センター:都道府県ごとに設置されている「障碍者職業センター」で実施されています。職業訓練を中心のプログラムを実施しています。復職時には担当者が復帰に向けた受入環境の整備に向けたアドバイスも行ってくれます。費用は無料です。
- 就労移行支援事業所:一般的には障害のある方が企業就労に向けて通所する福祉サービスですが、うつ病などの方の復職に向けたリワークとしてプログラムを受講することが認められています。事業所によってはリワークに特化したプログラムを実施してる事業所もあります。
うつ病休職を経て職場復帰した方々を対象にしたある調査によると、復職から1,000日後の就労継続の割合が、リワークを受けた人は7割弱、受けていない人が2割と、5割以上もの顕著な差があることが報告されています。上記のように、無料で受けることができる公的なプログラムもあるので、ぜひ近隣のリワーク機関を調べて、復職に向けた有効なステップとして情報提供することができるとよいでしょう。
ここまで、うつ病にかかった社員からの休職の申し出があったタイミングと、復職期間中に上司が対応すべきことについてまとめました。
繰り返しとなりますが、うつ病などの気分障害はだれにでも起こりうることです。部下から相談があった際には、直属上司は一時的に不調になっている本人にとっての「援助者」という位置づけで、本記事の内容を参考に、回復・復職に向けた手助けになっていただけますと幸いです。
次回は、「復職」のタイミングをテーマに、上司・マネージャーの対応方法について取り上げます。
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