高次脳機能障害における雇用のポイントは?障害の特徴も踏まえて解説

高次脳機能障害は脳の知的機能に障害が起きた状態を指します。自社で高次脳機能障害がある方を雇用する場合は、障害の特徴や雇用時のポイントを押さえておくことが大切です。

この記事では、高次脳機能障害の主な症状や障害のある方が受けられる就労支援、状況別の雇用時のポイントを解説します。最後まで読むことで高次脳機能障害の特徴が理解でき、障害者雇用についてのポイントを把握できた状態で、自社で活躍する人材を迎え入れることができるでしょう。

高次脳機能障害とはどんな障害?

高次脳機能障害とは、交通事故による頭部の外傷や脳の疾患が原因で、脳の一部を損傷して脳機能の一部に障害が起こる状態のことです。障害の内容や程度は個人差があります。高次脳機能障害が起こる主な知的機能は次のとおりです。

  • 記憶
  • 注意
  • 言語
  • 思考
  • 行為など

高次脳機能障害により状況に合わせた適切な行動を取れなくなり、生活に支障が出るケースも少なくありません。ですが外見からは分かりにくい障害であるために、周りの人から十分に理解を得ることが難しく誤解されてしまうことがあります。

高次脳機能障害の代表的な症状

高次脳機能障害には、代表的な症状として、「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」の4つがあります。

1つの症状だけ現れるケースもあれば、複数の症状が現れるケースも少なくありません。どのような障害が出るのかは、障害がある方の元来の性格や身を置く環境などの影響によって異なります。4つの症状を詳しく見ていきましょう。

記憶障害

記憶障害の特徴は、新しい情報を覚えていられないことです。自分で物を置いたとしても、どこに何を置いたのかを忘れてしまいます。物の置き場所を覚えられないため、どこの部屋に何が置かれているのかも記憶できません。また、自分で話した内容を忘れることもあり、同じ話や同じ質問を繰り返す特徴があります。

注意障害

注意障害の特徴は、周囲の物音や動きが気になり、目の前のことに集中できないことです。注意障害がある方は、集中すべき対象があっても周囲の音や動きに意識が奪われてしまうため、集中力が長く続きません。

集中力は周囲の状況に影響を受けやすく、ぼんやりすることが増えたりミスが多くなったりする場合があります。また、2つ以上の作業を同時進行できないため、マルチタスクをこなすような仕事は向いていません。

遂行機能障害

遂行機能障害の特徴は物事の優先順位がつけられず、率先して自分から動けないことです。自分で優先順位をつけられないため、ゴールがわかっていても自分で計画を立てたり、効率的に物事を進める工夫をしたりする行動を取れません。

やるべきことが明確であっても自分から動くことはないので、周囲の人による具体的な指示出しが必要です。また、時間から逆算して行動をするのが苦手なため、約束の時間に遅れたり早く来すぎたりする場合があります。

社会的行動障害

社会的行動障害は、自分の感情や欲求を上手に制御しづらくなる障害です。情緒をコントロールすることが難しく、感情を爆発させる場合があり、周囲の人の目からは自己中心的な人に映ってしまうこともあります。受障する以前は穏やかだった人が、まるが人柄が急変したように激しい正確に感じられてしまう、ということもしばしばあります。

一方で理由もなく、やる気が一切起きなくなることもあります。これらの症状は自己認識がしづらいと言われています。

高次脳機能障害のその他の症状

高次脳機能障害には、前述した4つの症状以外にも次に挙げる症状があります。

  • 脳疲労:脳に疲労が溜まりやすい、イライラしやすい、ミスが多い
  • 失語:頭に浮かぶことを言語化できない、見聞きした言葉の意味を理解できない
  • 失認:視力・聴力・感覚は正常に働いているものの、見聞きしたものや触れたものを正しく認識できない、見知っている人の顔も認識できない
  • 半側空間無視:視野には入っているが、視界に入る片側半分には注意が散漫になりやすい、見落としやすい、物にぶつかりやすい

特に、失語や失認の症状がある場合は意思疎通が取りにくくなるため、高次脳機能障害のある方を雇用する際は円滑なコミュニケーションを取るための対策が必要です。

高次脳機能障害の方が受けられる就労支援・復職支援

前述の通り、高次脳機能障害の症状は個人や状態により大きく異なります。安定雇用に向けては、ご自分の障害の状態を踏まえて、適性に合った仕事を選ぶことが重要です。求職活動を始める前に、職業適性を調べるプログラムなどを受けたうえで、自分の適性を確認し、ご自分にあった職場・業務内容を選んでいただけるとよいでしょう。

東京都にお住まいの方であれば、東京都心身障害者福祉センター 地域支援課が行う、「高次脳機能障害者のための就労準備支援プログラム」を利用することをおすすめします。職業評価、高次脳機能障害評価、作業課題(模擬的な職務課題)による評価、就労準備講習、グループワークなどを通じて、業務内容等の適性を確認すると共に、就労に向けた準備を行うことができる原則6か月間のプログラムです。

参考:高次脳機能障害者のための就労準備支援プログラム(東京都)

また、もし在職している社員が事故や病気などで高次脳機能障害を受障し、リハビリテーションを経て職場復帰する際の「復職支援」についても、東京障害者職業センターにて専門のプログラムが用意されています。アセスメント・情報の整理、復職に向けた職業準備支援、復職に向けたコーディネート、復職後のジョブコーチ支援をワンストップで受けることができる充実した公共サービスなので、該当のケースがあれば、ぜひ活用してください。

参考:高次脳機能障害がある方の職場復帰支援(東京障害者職業センター)

それぞれの地域ごとに管轄やサービスが異なる場合がありますが、東京都以外の方も公共の支援が受けられる制度があります。まずはハローワーク専門援助部門の窓口や、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどにご相談に行かれるとよいでしょう。

参考:高次脳機能障害のある方の就労支援について(国立障害者リハビリテーションセンター)

高次脳機能障害の方に対する雇用のポイント【面接時】

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の高次脳機能障害者に関する報告書によると、「自分自身の障害を自己理解することが難しい」というケースもあるとされています。

高次脳機能障害者にとっても、自分の症状や変化に気づき、理解し、受け入れることが困難であることが少なくありません。障害を自分では理解できず、対処策(補完手段)の習得や支援の必要性に気づきにくいことが課題となります。障害の見えにくさから、周囲から理解されず、性格や態度の問題とされたり、合理的な配慮を得にくいといった課題も生じます。

実践報告書No.40 高次脳機能障害者の復職におけるアセスメント(JEED)

詳細は後述しますが、雇用後においても一人ひとりことなる障害の現れ方を的確に捉え、その状態に合わせた業務のアサインや環境性が必要となります。状態を的確に捉えるために、高次脳機能障害がある方の面接を行う際は、応募者だけでなく、可能であれば就労支援機関のスタッフや応募者に普段接している支援者に同席していただくよう事前調整することをお勧めします。

高次脳機能障害の方に対する雇用のポイント【雇用後】

高次脳機能障害がある方を雇用した場合は適性に合った業務に配置したり、一緒に働く従業員に対して高次脳機能障害の特徴や症状、接し方などを理解してもらう必要があります。
人事担当者が雇用後に対応すべきポイントを解説します。

適性に合った仕事を任せる

高次脳機能障害がある方を雇用した場合は、適性に合った部署へ配置することが重要です。高次脳機能障害の症状や程度は人それぞれで異なるため、障害特性に合った仕事を任せられなければ適応できなくなる恐れがあります。

例えば、業務マニュアルがある軽作業や事務仕事などのように、やるべき内容と順番が決まっていて指示通りに行える単純作業が向いている傾向があります。一方で、常に臨機応変な対応が求められる業務やマルチタスクが必須の業務、社内外の人と密なコミュニケーションが必要な仕事は向いていないと考えられます。ただし、障害の特性には個人差があるため、前述した仕事に向いている場合もあります。

業務フローや業務量、環境を整える

高次脳機能障害がある方を雇用した場合は、働きやすい環境を整える必要があります。本人の適性に合った仕事を任せても業務量が多すぎたり、業務の優先順位が明確でなかったりすると頭を混乱させかねません。

例えば、集中力が長く続かない、疲れやすいなどの症状があるなら、こまめに休憩できるようにする、業務量を抑えるなどの対策が必要です。また、半側空間無視の症状があるなら、床に物を置かないようにする、作業場所のレイアウトを工夫するなどを対策すると良いでしょう。

障害の特徴や症状について他の従業員からの理解を得る

高次脳機能障害がある方に仕事を任せるには、他の従業員からの理解が不可欠です。特に、新しいことを覚えられない、指示した内容を忘れてしまう障害特性がある方を雇用する場合は、他の従業員が障害特性を理解していないと「仕事を覚える気がない」などと、従業員間で誤解を招く恐れがあります。

障害がある方のプライバシーには配慮しながらも、業務に関係する障害特性を事前に共有して、他の従業員からの理解を得ておきましょう。

ジョブコーチを活用する

高次脳機能障害がある方を雇用する場合は、職場適応援助者(ジョブコーチ)を活用するのも1つの方法です。ジョブコーチは、障害者が職場へ適応できるように、障害特性に合わせた専門的な支援を行うことを目的とした事業です。

ジョブコーチには、地域障害者職業センターに配置される「配置型」や、社会福祉法人に雇用される「訪問型」、企業に雇用される「企業在籍型」の3種類があります。ジョブコーチは障害者への支援だけでなく、事業主が従業員の障害特性に合った雇用管理ができるようにサポートしてくれます。

参考:ジョブコーチ(職場適応援助者)とはどんな制度?わかりやすく解説

業務の指示はわかりやすく行う

高次脳機能障害がある方に業務の指示を出す際は、わかりやすく伝えることが大切です。業務マニュアルがある場合でも文字ばかりで説明されていると業務内容を理解するのが難しくなるため、図を用いて視覚的に業務の手順や内容がわかるように工夫しましょう。

例えば、ノートやスケジュール帳などに業務上のポイントを記載しながら説明をすると理解してもらいやすくなります。記載内容を残しておけば、教育担当者と業務の進捗確認をする際にも便利です。

まとめ

高次脳機能障害とは、脳の一部を損傷し脳機能の一部に障害が起こる状態のことをいいます。

高次脳機能障害は、交通事故による頭部の外傷や脳の疾患などが原因であり、誰にでも起こりうる障害です。雇用の受入れにおいては、不慮の事故などで自分も同じような障害を得る可能性があることを念頭に置きながら、対象となる方に寄り添った雇用の検討や雇用環境の整備を行うことができるとよいでしょう。

高次脳機能障害がある方を雇用する際は障害特性に合った仕事を任せ、働きやすい環境を整える必要があります。万全な環境を整えても従業員間のコミュニケーションの課題や適性に合った仕事内容を見極めるのが難しいケースもあるため、必要に応じて専門家のサポートを受けることを検討しましょう。

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