軽度知的障害者を採用する際には、知的障害に関する基礎的な知識や、障害者の特性に合わせた対応・配慮が重要になります。そのためには、軽度知的障害者の特徴を理解し、適切な業務の切り出しや職場環境の改善をしなければなりません。
本記事では、障害者雇用における軽度知的障害者の概要や特徴、就労までの流れや向いている仕事などを解説します。軽度知的障害者の特徴の理解や、障害者雇用の推進にぜひお役立てください。
このページの目次
軽度知的障害とは?
軽度知的障害とは、発達の遅れの程度が軽い知的障害のことです。そもそも知的障害とは、単に知能の発達が遅れているという意味ではなく、生活に関わる能力が制限されていることを指します。基準として挙げられるのは、知的能力や適応能力の低さと、18歳までの発達期に発症しているということです。
知的障害にはいくつかの機関が独自に診断基準を出してはいるものの、国際的に統一された定義はありません。しかし、どの基準も知的能力の低さに加え、社会生活での不自由さを重視している点は共通しています。
また、知的障害の重症度は4段階に分けられており、IQ(知能指数)を1つの判断材料にしています。軽度知的障害者は、IQの基準値を100として、IQ50〜69の範囲を指します。言葉や抽象的な概念の理解が難しいものの、生活する上で必要なことは1人ですることができて、高度な技術を要するものでなければさまざまな仕事を行うことが可能です。言葉を覚えることが難しい最重度の知的障害者に比べると、社会生活における選択肢は広いといえるでしょう。
最重度 | 重度 | 中等度 | 軽度 |
---|---|---|---|
・多くの場合、言葉を覚えることはほとんどできない ・常時保護が必要だが適切な訓練によって改善がみられることもある | ・幼児期ではほとんど会話をすることはできない ・学童期には会話や食事など、基本的な生活習慣や自己管理能力を身につけることが多い | ・幼児期に言葉の遅れはあるが徐々にコミュニケーション能力を獲得する ・環境しだいでは、仕事もできるようになる | ・言葉や抽象的な内容の理解に遅れがみられるが、身のまわりのことはほとんど一人でできるようになる ・高度な技術が必要なければ様々な仕事ができるようになる |
IQ20未満 | IQ20~34 | IQ35~49 | IQ50~69 |
障害者手帳(療育手帳)の区分について
障害者手帳(療育手帳)とは、知的障害のある方が申請できる手帳のことです。18歳までに知的障害の特徴が認められると、障害者手帳が交付されます。障害者手帳を取得することで、さまざまなサービスを受けることができ、生活や就職の負担を軽減できます。
例えば、障害者求人への応募が可能になることや助成金制度、税金の軽減制度の利用などです。受けられるサービスの内容は、障害者手帳の等級によって異なります。大きく分けると重度である「A判定」と、比較的軽度の「B判定」に区分されており、厚生労働省の「障害者の範囲」が示す基準に従って判定されます。
A判定(重度)の判定基準は以下のとおりです。
- IQ(知能指数)が概ね35以下で次に該当する方
・食事、着脱衣、排便及び洗面等日常生活の介助が必要
・食べ物以外を口に入れる、興奮が抑えられないなどの問題行動をする - IQ(知能指数)が概ね50以下で目が見えない、耳が聞こえない、肢体不自由などがある
B判定(軽度)の基準については「重度(A)のもの以外」とされていますが、都道府県によっては「B1」「B2」などに細分化されているケースもあります。
職場における軽度知的障害の特徴
軽度知的障害を持つ従業員は、繰り返しの作業を丁寧にしてくれるのが特徴です。例えば、工場での検品や包装作業、オフィスでの書類整理など、企業にとって重要な業務をきちんと行ってくれます。
一方で、複雑で専門性を求められる業務には不向きな場合が多いことも事実です。企業側としては、従業員の特性を理解し、適切な業務を任せることが重要です。
また、軽度知的障害の従業員の定着率は比較的高いことが知られています。厚生労働省が平成29年に公表した「障害者雇用の現状等」では、知的障害者の1年後の定着率は「75.1%(障害者求人)」となっており、身体障害や精神障害を持っている方に比べて高い結果が出ています。企業としては、雇用の安定につながり、コストの削減や業務の円滑化が期待できるでしょう。
知的障害者の雇用状況
厚生労働省の「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」を見てみると、障害者の雇用率は上がっていることが分かります。知的障害者・身体障害者・精神障害者の前年比の増減は以下のとおりです。
知的障害者 | 146,426.0人(前年比4.1%増) |
---|---|
身体障害者 | 357,767.5人(前年比0.4%減) |
精神障害者 | 109,764.5人(前年比11.9%増) |
知的障害者と精神障害者が前年より増加し、特に精神障害者の伸び率が大きい結果となりました。また、民間企業の雇用障害者数は全体で61万3,958人(前年比2.7%増)となっており、軽度の障害者は一般就労へ、重度の場合は福祉的就労となるケースが多いようです。
知的障害者が就労開始するまでの流れ
一般的に、軽度知的障害者は、特別支援学校(高等部)を経て就労するケースが多くあります。
特別支援学校とは、心身に障害がある子どもが通う学校のことを指し、社会参加に向けた指導や支援を行っています。具体的には、日常生活に必要なコミュニケーションのとり方や、基本的な数学の理解、生活や働くことに関することなどを学習する施設です。
多くの特別支援学校高等部の卒業生の約3割が一般企業などに就職します。職場実習を春、秋に行っており、実習先で相性が良かった企業へと就職するケースが多いようです。
採用を前提とした職場実習を行いたいときには、早めに進路担当の教員と連絡をとるとよいでしょう。一般的には高等部2年生から実習が行われていることが多く、採用予定の1年前、できれば2年位前から特別支援学校の進路指導担当の教員とコンタクトを取っておくことをおすすめいたします。
知的障害者の就労先
知的障害者の就労形態の選択肢は、以下の4つに分けられます。
- 一般枠:障害のない方と同じ条件で就労するため、配慮を得ることが難しい
- 一般企業等での障害者雇用:配慮を得るためには自主的に配慮事項を申し出る必要がある
- 特例子会社での障害者雇用:上記2と比較して、より手厚い配慮を提供している場合が多い
- 福祉的就労(就労継続支援A型・B型):一般就労を目指す方が準備期間として利用したり、一般就労が難しい障害者が支援サービスを受けながら働く
特例子会社とは、障害者の雇用促進や安定を目的として設立された会社のことです。一般的な企業に比べると、障害者の特性に応じたサポート環境が整っている特徴があります。
軽度知的障害の方は、その障害の特性上、就労にあたっては専門の支援員を配置する必要とする場合が多いため、一般的には3の特例子会社に就職するケースが多いようです。
福祉的就労(就労継続支援A型・B型)とは、障害者総合支援法が定める就労支援サービスのことです。一般就労が難しい重度の障害者が多く、支援サービスを受けながら働くことができます。A型とB型があり、A型は事業所で雇われ、賃金という形で報酬が支払われます。一方B型は、雇用上の契約は結ばずに働き、工賃という形で報酬が支払われます。いずれも支援者にアドバイスをもらいながら、実践的な仕事ができることがメリットです。
軽度知的障害者が向いている仕事の事例
軽度知的障害の方は、以下のような業種で働いているケースが多く見られます。
- 工場などの「製造業・加工業」
- お店の裏方で、棚卸や在庫管理をする「卸売・小売業」
- 公共の場やオフィスビルを掃除する「清掃業」
軽度知的障害の方を多く雇用している企業の具体例に基づき、それぞれの仕事を解説します。
製造業・加工業|エフピコ様
食品トレー容器のナンバーワンメーカーであるエフピコ様は、積極的に障害者雇用へ取り組む企業です。民間の営利法人で初めての「就労継続支援A型事業所」の設立をはじめ、全国で拠点を整備し、現在ではグループ全体で約360名(内、知的障害者は約88%)の障害者を雇用しています。
エフピコ様で働く障害者の方は、主に「食品トレー容器の製造」や「リサイクル」の事業で活躍しています。具体的には、食品トレーの成形や組立加工、検品、包装や、使用済みトレーの選別業務などです。また、グループ内の一般工場や物流の現場での就労など、新たな業務へのチャレンジも行っています。
清掃業|伊藤忠ユニダス様
伊藤忠ユニダス様は、クリーニング業や印刷・コピー業、書類電子化業務など、さまざまな分野で障害者と健常者が支え合いながら社会に価値を提供している会社です。特例子会社認定を受けており、2022年4月時点で74名の障害者の方を雇用しています。
障害者も企業の戦力と考え、健常者と共に支え合い働くことを大切にしている企業です。障害者に配慮した仕事環境の構築や、健常者と同じ評価基準、給与体系を採用するなどの取り組みを行っています。
卸売・小売業|ビーアシスト様
ビーアシスト様は、ブックオフコーポレーション株式会社のグループ会社として設立された特例子会社です。障害者、健常者に関わらず、待遇面の充実に加え、「心の幸福」を重視して一人ひとりの個性を大切にしています。2022年6月時点で98人の障害者を雇用している企業です。
具体的な業務内容はリユース品の販売にかかわるCDや洋服、ホビー品の花王や、店舗内の商品補充などで活躍しています。
ビーアシスト様は、障害者雇用のプロを育成するための充実した研修カリキュラムを用意しています。障害者の疾病や法令の基礎知識、育成方法などについて、社内研修をすると共に、外部でのセミナーなどの活動も行っています。
軽度知的障害者を採用する際のポイント
軽度知的障害者を採用する際は、以下のポイントを押さえることが大切です。
- 面接の際には、質問を具体的に噛み砕いて行う
- 自身の意思で応募したかを必ず確認する
- とにかく業務をマニュアル化する
軽度知的障害者は、意志の伝達などのコミュニケーションが苦手な方が多くいます。また、抽象的な概念の理解が難しいことがあるので、質問は具体的に分かりやすくしなければ伝わりません。回答の範囲を広くせずに、少ない選択肢の中から答えられる質問が望ましいでしょう。
また、就職の意思を本人に確認することも重要になります。なぜなら、就職させたい一心で、保護者や特別支援学校の先生が応募しているケースがあるからです。本人の希望しない就職は採用後にトラブルの原因になるかもしれません。
最後に、業務を徹底してマニュアル化することも採用のポイントです。軽度知的障害者の方でもできるようにマニュアル化することで、業務に対するハードルが下がり、採用できる障害者の方の範囲が広がります。また、ミスも起こりづらくなるので、業務の効率化にも寄与するでしょう。
以上のポイントを押さえることで、お互いを理解し、社会に価値を生み出す障害者雇用を実現できます。
まとめ
軽度知的障害者の明確な定義はないものの、一般的には知的能力や適応能力に問題があるIQ50〜69程度の方が該当します。軽度知的障害者は、繰り返しの作業はできることが多いですが、専門性が求められる仕事は不向きな傾向にあるのが特徴です。採用を検討する際は、軽度知的障害者の特性を理解し、適した業務を任せることが重要になります。
とはいえ、自社が軽度知的障害者を採用できるのか、判断が難しかったりどのような準備をすればよいか分からなかったりする企業様も多いのではないでしょうか。そのような企業様は、就労移行支援を行うKaienにご相談ください。
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