近年、うつ病を発症する患者数が増加しています。障害者雇用が重要視されるなかで、うつの人がとる行動を把握し対応策を講じることが必要です。本記事では、うつ病になりやすい人の特徴、行動パターンを紹介したうえで、うつ病発症を未然に防ぐための職場での取り組みについて解説します。
対象となる社員の性格や職場環境の変化などうつ病発症の原因となり得る要素を知ることで、うつ病発症のリスクを軽減し、働きやすい環境を構築することが可能です。
このページの目次
うつ病とは?
うつ病とは、気分障害のひとつです。
何をしても楽しめず、一日中気分が落ち込んでいる、イライラするといった症状のほか、眠れない、食欲がないなど、精神・身体・行動面において様々な症状が現れます。そのような症状が長期的に続く場合は、うつ病である可能性があります。
うつ病の発症原因はわかっておらず、背景として精神的・身体的なストレスが起因しているといわれています。日本では、100人に約6人がうつ病を経験しており、中でも女性が男性より1.6倍ほど多いという調査結果があります。
引用元:厚生労働省:政策レポート(自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて)
厚生労働省が全国の医療機関を対象として実施している「患者調査」によると、うつ病患者数は、平成8年には20.7万人だったのに対して、平成20年には70.4万人と年々増えているのが実情です。
うつ病になりやすい人の特徴
うつ病は、その人の性格的な特徴と、うつ病発症のきっかけとなる経験やストレスなどのさまざまな事柄とが複合的に重なり合うときに発症しやすくなります。
一般的に、真面目で何事にも責任感を持ち、完璧主義な人がうつ病になりやすいといわれます。また、自分に厳しく、凝り性な側面があることから、仕事などにより自身の生活が不規則になりがちです。
仕事でのうつ病のきっかけは、仕事の失敗や人間関係の悩み、業務量の多さや疲労などの要素のほか、昇進や降格などの環境面の変化が挙げられます。
うつ病の初期症状
前述したとおり、うつ病の初期症状は身体・精神・行動面から現れます。うつ病の早期発見につなげるためにも、初期症状について把握しておくことが大切です。気分が落ち込んでいたり、逆に気分が高揚していたり、普段との変化を見極めることが大切です。
ここでは、身体・精神・行動面の3つにわけて、うつ病の初期症状を紹介します。以下のような症状が1~2週間続く場合は、精神科や心療内科の受診をすすめましょう。
身体面の症状
身体面に現れるうつ病の症状は以下のとおりです。
眠れない | 寝つきが悪い、朝早く意図しない時間帯に目が覚めてしまう場合など、不眠の状態が長期間続くケースです。一方、うつの種類によっては過眠になるケースもあります。 |
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食欲・体重の変化 | 不調時は食欲がなく体重が減ることが多いですが、逆にストレスにより食欲が増え体重が増加する場合もあります。 |
疲れがとれない | 疲労が取れにくく感じる傾向があります。朝、起床時に疲れがまったくとれていない、身体が重いと感じる状態が続く場合は注意が必要です。 |
上記以外 | 頭や首、肩まわりが重いと感じたり、だるさを感じたりする可能性があります。そのほか、下痢や便秘の状態が長期間続くケースもあります。 |
精神面の症状
精神面に現れるうつ病の症状は以下のとおりです。
憂うつな気持ちになる | 気持ちが落ち込むことが多くなります。楽しく、明るい気持ちになれず、常に否定的で悲観的な気分になります。 |
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落ち着かない、不安になる | 常に感情が不安定な状態が続きます。そのため、同じ行動を繰り返したり、周辺をうろうろと動き回ったりする傾向があります。そのほか、飲酒や飲食、喫煙、運動、趣味など、不安な気持ちを紛らわせるための行動を取ることが多くなります。 |
行動面の変化
行動面に現れるうつ病の症状は以下のとおりです。
家に籠りがちになる | 人と会話をとることや交流することがストレスに感じやすくなります。そのため、家に籠りがちになり、一人で過ごすことが多くなります。人と接触することなどによるストレスで、職場や学校を休んだり、遅刻したりすることが増える傾向があります。 |
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動きや話し方がゆっくりになる | ストレスや不眠に陥り疲れやすくなることから、注意力や集中力が欠けやすく、細部に目を向けられなくなることが多いです。さらに、会話や受け答えがうまくできなくなり、動作や話し方がゆっくりになる場合があります。また、頻繁な電話やメッセージにストレスを感じやすくなります。 |
仕事中にみられるうつの行動パターン
うつ病の症状を理解したところで、ここからは、うつ病を発症したときに見られる仕事中の行動パターンをご紹介します。
なお、ここで紹介するすべての症状が出るわけではありません。また、人によって症状は異なる点、留意が必要です。普段との変化を把握する際の参考としてください。
身だしなみに気を遣わなくなる
うつ病を発症すると、無気力となり判断力が低下しがちです。そのため、普段は気を使えている方でも、身だしなみがだらしなくなる場合があります。
例えば、以下のようなケースが挙げられます。普段の仕事中の様子と変化があり、長期間続くような場合は注意が必要です。
- 髪の毛を長いこと散髪していない
- 化粧をしなくなった
- 服装などがだらしなくなった
また、身だしなみだけでなく、周囲の環境に対しても気を配れなくなるケースがあります。普段はできていた方でも、デスクの整理整頓が行き届かなくなり、汚れていても掃除が出来ない状態が続く場合は、注意しましょう。
集中力低下でミスが増える
うつ病になると、集中力が低下し、注意力が散漫になりがちです。そのため、普段はしないような小さなミスを繰り返すようになります。他人から見ても明らかに仕事上のパフォーマンスが落ちたと感じられることもあるでしょう。
そのほか、書類やメールなどの誤字脱字や納期の認識ミス、忘れ物が増える、仕事のプロセスを忘れるなど、ケアレスミスが増える場合もあります。仕事以外の場面でも、大切なスケジュールを忘れる、家事がうまくできないなど、日常生活に支障をきたすこともあるでしょう。
遅刻や当日欠勤が増える
うつ病を発症すると、不眠や過眠、気持ちの落ち込みなど、身体・精神面の症状が継続的に出やすくなります。そのため、出勤の時間になっても動くことができないといったケースも少なくありません。遅刻や当日欠勤をすることが増える傾向があります。
また、うつ病が進行すると、遅刻や欠勤のために会社への事前の申請や連絡を取ることすら億劫となるケースがあります。無断欠勤が続くような場合には、十分に注意が必要です。
会話が減る、あるいは増える
周囲とのコミュニケーションや接触の機会を避けるようになります。これまでは明るく社交的で、積極的に人との交流を図っていた方が、同僚との会話を避けるようになります。
そのほかにも、同僚との食事や飲み会などの機会を避けたり、休憩中の雑談や会議中の発言に参加しなくなったりすることがあります。社交的なタイプの方が、以前と異なり暗く物静かな印象へと変化し、社内の人との関わりに対して消極的になった場合は、注意が必要です。
イライラしている
うつ病を発症すると、怒りっぽくなり、ネガティブな感情をコントロールすることが難しくなる傾向があります。仕事上においても、普段の様子と異なり、感情が安定せず、イライラしていることが続く場合には注意が必要です。
場合によっては、上司や同僚に対して反抗的な態度を取ったり、周囲が引いてしまうくらい声を荒げたりするケースも少なくありません。
【状況別】うつ病かもしれない部下への対応方法
うつ病の症状や行動パターンがわかったところで、実際にうつ病の可能性がある自身の部下に対して、どのような対応を取ればよいのでしょうか。
ここからは、正しい対応方法を把握できるように、段階別に詳しくご紹介します。
状況1 うつ病に当てはまる不調に気がついた時の対応
自身の部下の行動がうつの行動パターンに該当するなど不調に気づいた場合は、早期に対応策を講じることが必要です。うつの症状を早期に発見することは、早い段階での回復を見込むことにもつながります。
具体的な対応策として、おもに以下の3点が挙げられます。
- 面接の希望の有無を確認し、今の困りごとを確認する(人間関係の悩み、業務の偏り、負担増などないか?)
- 社内システムの見直し、および改善
- 精神科の受診を勧める
うつ病を予防するには、ストレスの度合いを一定以上のレベルからあふれさせないようにすることが大切です。日常生活におけるストレスや、各人によって異なるストレス耐性、さらに、職場でのストレスがかかる局面などを考慮し、部下のストレスが一定以上を超えていないかどうかを判断しましょう。
状況2 うつ病と本人から申し出があった時の対応
場合によっては、うつ病の可能性があるなどと本人から申し出があることも想定されます。
本人から申し出があった場合のおもな対処方法は以下のとおりです。
- 本人と相談する
- 休職の手続きを行う
- 休職期間中も連絡をとる
- リワークについて説明する
本人の話をしっかり聞き、症状が出ている場合は、自身で判断せず医療機関の受診を促しましょう。本人から休職の申し出がある場合は、会社の規定や業務の状況に応じて休職の手続きを進めます。
なお、休職の手続きを進める際、休職中に健康保険から給付される傷病手当について説明しましょう。傷病手当は、一定条件を満たすことで、標準月額報酬の2/3相当額が支給されるものです。
休職中に社員が孤独や不安からストレスを感じてしまっては意味がありません。休職中に社員が不安を感じることのないよう、休職期間中も連絡を取りましょう。
そして、休職してから一定期間が経過し、症状が回復してきたら復職に向けて「リワーク」に関する情報を共有しましょう。リワークとは、民間企業や公的機関などが実施している復職支援プログラムのことです。
本人から申し出があった場合の対応方法など、詳しくは以下の記事に掲載されています。
うつ病を未然に防ぐための取り組み
うつ病の症状に該当するかどうかを早期発見することはもとより、未然に防ぐことが肝要です。ここでは、うつ病発症の可能性がある社員を見逃さないために、未然にできる取り組みをご紹介します。
声かけや定期面談を行う
まず、声かけや面談などを実施することで、社員のメンタル不調を早期に発見することが期待できます。
具体的には、以下の点を実施しましょう。
- 定期面談
- 朝の声かけ
- 業務パフォーマンスが下がったら要注意
- 見守る視点の数を増やす
面談については、1回30分程度で、毎月定期的に実施しましょう。また、面談では傾聴を中心とし、アドバイスは控えましょう。そして、毎朝、面と向かって声をかけ、様子を確認します。リモートワークの場合は、オンラインで5分程度コミュニケーションの時間を取りましょう。
業務パフォーマンスが下がっている場合は、注意が必要です。メンター制度により、直属の上司ではない相談相手をつけて社員を見守る視点を増やしましょう。
相談しやすい関係を構築する
うつ病発症を未然に防ぐためには、社員が悩みやストレスなどを相談しやすい関係を築く必要があります。
具体的には以下の点を踏まえることが大切です。
- コミュニケーション手段に柔軟性を持たせる
- ポジティブフィードバック8割、ネガティブフィードバック2割
- 部下に関心を持つ
相談をする際のコミュニケーションの手段は、人によって異なります。そのため、社員に合わせた方法でコミュニケーションを取れるように、入社時や異動時にヒアリングをしておくとよいでしょう。
そのほか、社員にフィードバックをする際は、前向きな内容を主として、社員の心理的安全性を確保するように心がけましょう。部下への関心を絶やさず、部下との間で信頼関係を築き、相談しやすい関係を構築することが肝要です。
体調やメンタル状態を見える化する
ストレスの感じ方は人によって異なります。そのため、社員の体調や精神状態を数値に現し、可視化して評価することが大切です。
具体的な評価内容として、おもに以下の点が挙げられます。
- コンディションの自己評価(変化が少ないタイプこそ要注意)
- 業務の量、負荷の程度の自己評価、プライベートの変化(ストレス量の確認)
- 睡眠時間、食欲(うつの身体症状の有無)
なお、簡易ストレスチェックを実施するほか、日報や面談などを通して評価しましょう。
まとめ
気分障害のひとつであるうつ病の患者数は年々増えています。うつ病を発症すると、食欲不信や不眠のほか、体重の変化など、さまざまな症状が現れます。仕事上でも、無気力になり遅刻や無断欠勤をすることが増える傾向があります。
うつ病発症のリスクを軽減するためにも、うつになる人に見られる行動パターンを把握し、うつ病を早期に発見することが必要です。もし、社員がうつになった場合は、早急に対応策を講じることで早期の復帰を見込める可能性があります。
また、社員のうつ病発症を未然に防ぐために、日頃から社員への声かけや定期面談の実施など、社員の様子を把握する機会を持つことが大切です。社員との信頼関係を構築し、一定以上のストレスを抱えこまないような職場環境を築きましょう。
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■ 監修者コメント
上司から声をかける際、本人が安心して話ができる場所を用意することも重要です。上司の人はついアドバイスをしたくなる気持ちを抑え、共感や傾聴に徹しましょう。直接アドバイスをするのではなく、質問などを駆使して、自分で気付いたり、発言できるように会話の流れをもっていけると、本人も発見や学びが多いと思います。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
メール: rep@kaien-lab.com / 電話番号 : 050-2018-1066 / 問い合わせフォーム:こちら
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