企業様が障害者雇用に取り組むうえで、自社にマッチした人材を採用することが重要です。特にこれから新たに障害者雇用をすすめる担当者様においては、身体障害・知的障害・精神障害・発達障害*の4障害区分のうち、採用の対象としてどの障害区分に特に力を入れて雇用をすすめるべきなのかについて、お考えになられることかと存じます。
本記事では、主に障害者雇用のご担当者様の視点で、発達障害人材を雇用するメリットとデメリット、そして「発達障害の方を上手に雇用するためのポイント」について解説します。
発達障害者を雇う際の企業側のメリット
発達障害の方を採用した際に期待できる「メリット」についてまとめました。ただしこれらのメリットは、障害者雇用における発達障害人材の特徴の記事でもあるように、人によって特徴が千差万別なので当てはまらないケースも多々あります。以下に挙げるメリットを候補者に期待する場合は、面接などでこれらに該当する人材なのかを確認する必要がありますのでご注意ください。
障害特性を業務に活かすことで、一般社員以上の成果を出すこともある
発達障害の方は「障害特性」と呼ばれる多様な特徴をもっています。それらの特徴は、脳機能的な特性であるためコントロールが難しいため生きづらさ、働きづらさにつながっていることがあります。
しかしそれらの特徴を、単なる弱点としてとらえるのではなく、業務で活かすことで「障害特性」を強みに変えることができます。例えば、ASD(自閉スペクトラム症)の方の中には、細部へのこだわりが強く、通常では気付くことが難しい細かなエラーを検知することができる方がいます。この特性を活かして、プログラムやアプリケーションのテスターとして活躍している事例が報告されています。また、作業工程が決まっているルーチン作業を、長時間、高い集中力で持続できる方も多くいるため、データ入力作業などで活躍する事例が多くあります。
勤怠が安定していて、長期勤務を期待できるので仕事を任せやすい
発達障害のある方は、前述のように比較的1社で長く勤務する傾向があるため、経年による成長が期待できます。人によって成長のスピードはまちまちですが、どのようなタイプの型であっても、数年単位で業務を経験すれば十分に習熟し、チームの戦力となってくれることに疑念を持つ方は少ないでしょう。仮に要領が良く仕事を覚えるのが早いタイプであっても、すぐに退職してしまっては意味がありません。長期勤務を期待できることは、発達障害の方を雇入れる上での何より大きなメリットといえるでしょう。
また、職場定着だけではなく、日々の勤怠が安定している方が多いことも大きな強みです。決まった時間に決まった場所に行く、ルーティンの生活リズムを好む方が多いので、学生時代に皆勤賞だったという方も多く見られます。欠勤や遅刻が少ないので日々の業務を任せやすいと、感じている直属上司が多くいらっしゃるようです。
高い専門性を持った人材を障害者枠で採用できる可能性がある
発達障害のなかには、関心を持った分野に対して高い探求心と集中力をもって学習する方々が多くいます。知的障害の伴わない発達障害の方の多くは高等教育を履修しており、大学院で専門分野を学んだ方も珍しくはありません。
システムエンジニアやプログラマーなどのIT領域、各種の研究開発、語学、会計などの専門的な分野などで活躍している発達障害人材は多く見られます。その中には障害特性に困難を感じ、障害者手帳を取得して、周囲に理解を得ながら働きたいと考え、転職活動をしている方が一定程度の割合でいらっしゃいます。そのようなハイスキルの人材を、障害者雇用枠で採用できる可能性があることは、企業が発達障害の方を採用するうえで、特有の大きなメリットといえるでしょう。
発達障害者を雇う際の企業側のデメリット
発達障害に限らず、人材に活躍してもらうためには一定程度の個別ケアが必要不可欠です。以下に発達障害の方を雇入れるうえで、特に必要となる会社側のケアを記載しますが、あまり「デメリット」とは捉えずに、多様な人材に活躍してもらうために必要不可欠な企業としての「投資」のひとつだと考えていただけると良いと思います。
コミュニケーション機会をより多くとる必要がある
発達障害の特性として「暗黙の了解を理解するのが苦手」ということが例としてよく挙げられます。周囲の配慮の観点に置き換えると、暗黙の了解を、言葉にして伝える必要がある、ということになります。また、人によっては業務の工程をマニュアル化するよう必要があったり、より作業工程を大まかに分け各項目を細分化して手順を明確にする必要があったり、毎日の業務指示の優先順位を理由とともに伝える必要がある方もいるでしょう。
このように、発達障害の方は、特に慣れるまでの期間は一般社員に比べて教えるための時間を長くとる必要があったり、業務指示を細かい頻度で行う必要とする方が比較的多くいます。上司や先輩社員が面倒くさがらずに、「わかるまで何度でも聞いていいよ」と声をかけるなど、質問しやすい関係性を保てるかどうかが、安定雇用と活躍の大きなポイントとなっているようです。
多様な障害特性に合わせて個別、柔軟に配慮をする必要がある
前述のように、発達障害の障害特性や、必要とする配慮の人によって千差万別です。個別の障害特性を理解・配慮するための対話の機会が欠かせません。業務の現場を離れた1on1ミーティングのような形で話を聞く機会を、月に1度か2度はもてるとよいでしょう。
1on1面談を実施する際のポイント
- 「対人関係」や「業務」など、事前にトピックを明確にすること。また、できればご本人に事前に伝えたいことを書き留めてもらうよう事前にお伝えする
- 相手の話をまずはよく聴き、共感する。そのうえで伝えたいことがあれば、考え方の相違点を筋道立てて丁寧に説明し理解を得ることに努める
受け入れ部署の上司・同僚に一定の障害に関する知識や理解が必要となる
本人が希望する個別具体的な配慮は、その内容によっては周囲から「特別扱い」と見られてしまう可能性があります。例えば、障害特性の一つである「聴覚過敏」によって周囲の会話や雑音が気になってしまい、業務が集中できないのでやむを得ずノイズキャンセリングのイヤホンを使っている方がいたとします。その様子を見た同僚が、仕事中に音楽を聴いていると勘違いして一方的に注意してしまい、人間関係に支障が出た、というケースがあります。
発達障害の特性は、当事者でなければわかりづらいこともたくさんあるため、誤解が生じてしまうケースがたくさんあります。直属の上司に限らず、ある程度職場の広い範囲で、発達障害に関する正しい知識や、ご本人が希望している配慮に関して知っておく必要があります。発達障害の方をはじめて受け入れる企業様向けに様々な公的な支援制度がありますので、そのような制度も活用することもご検討ください。
精神・発達障害者を雇入れする企業が利用できる公的支援の一例
支援の名称 | 概要 | 問い合わせ先 |
精神・発達障害者しごとサポーター養成講座 | 精神・発達障害についての基礎知識や、一緒に働くために必要な配慮などを、短時間で学ぶことができます。事業所への出前講座もあり。 | 各都道府県の労働局 |
ジョブコーチによる支援 | 障害に関する知識が豊富なジョブコーチを派遣し、障害者との関わり方や、効率の良い作業の進め方などのアドバイスをします。 | 地域障害者職業センター |
発達障害の方を上手に雇用するためのポイントとは
発達障害の方を上手に雇用するためのポイントは以下の2点です。
- メリットとデメリットは表裏一体です。単純な損得の二元論で考えないようにしましょう。個性・特徴と捉えることでデメリットと感じることもメリットに転換することができます。
- 対話の機会を十分にもって、相手の立場に立ち個々の多様性と向き合い理解する姿勢が重要です。安易に診断名や手帳などのラベルで人を捉えないようにしましょう。
本記事では、主に障害者雇用の担当者の視点で、メリット・デメリットをまとめました。発達障害の方を雇うことは、多様な人材が活躍する組織を育てる、ダイバーシティ推進のきっかけにもなりえます。ぜひ、機会があれば発達障害の方を雇入れ、強みを活かして自社の戦力として活用してください。
関連リンク
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
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