障害者雇用において、合理的配慮の提供は法律で義務付けられています。しかし現場では、「どのような配慮が必要なのか」「どこまで対応すべきなのか」と悩む企業も少なくありません。
本記事では、場面別・障害別に具体的な配慮例をわかりやすく紹介するとともに、企業が合理的配慮を提供するためのステップも詳しく解説します。
障害のある社員も安心して活躍できる職場づくりのヒントとして、ぜひご活用ください。
このページの目次
合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害のある人が社会参加や働く場面で不利益を受けないよう、環境や制度に存在する障壁を取り除くための調整を行うことを指します。
英語では「reasonable accommodation」といい、「accommodation」には「調整」という意味があります。
日本語で「配慮」というと先回りの気遣いを想像しがちですが、合理的配慮は一方的な思いやりではありません。障害当事者と企業が対話をしながら、障害のある人が力を発揮できる環境を「調整」するのが合理的配慮です。
日本では障害者差別解消法により、行政機関だけでなく企業にも合理的配慮の提供が義務付けられ、障害者雇用において欠かせない概念となりました。
配慮内容は一律ではなく、障害の特性や職務内容によって異なります。双方の話し合いのもと、実現可能な方法を一緒に検討するプロセスが重要です。
以下の記事では、合理的配慮でよくある誤解や、誤解から生じる問題、具体的な解決策をわかりやすく解説しています。
■障害者雇用における「合理的配慮」は”わがまま”ではない!誤解を解き職場の課題を解決する3つの方法
合理的配慮の考え方が普及した背景
合理的配慮という概念自体は1970年代から存在していましたが、社会的に広く認知される契機となったのは、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」です。
この条約で「合理的配慮を否定すること自体が障害を理由とする差別行為にあたる」と明確に示されたことで、世界的に障害者の権利保障が前進しました。
日本は2007年に条約へ署名し、その後「障害者基本法」「障害者総合支援法」「障害者雇用促進法」「障害者差別解消法」などの制度改革が進みます。
なかでも障害者基本法第1条で、初めて「共生社会の実現」が明文化されたことで、障害者が働きやすい環境をつくる合理的配慮の重要性が社会的に認識されるようになりました。現在では、一般企業にも広く浸透しつつある考え方です。
合理的配慮について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
No.13「合理的配慮」(制作中)
【場面別】障害者雇用の合理的配慮例
障害者雇用では、募集・採用の段階から入社後まで、個々の障害特性に応じたさまざまな合理的配慮が求められます。ここでは、募集・採用から入社後までを以下の5つの場面に分類し、それぞれの具体的な配慮例を紹介します。
- 募集・採用
- 通勤・勤務時間
- 業務内容
- 職場環境
- 報連相・意思疎通
実際の取り組みを確認し、自社の障害者雇用に活かすヒントを得ましょう。
1.募集・採用
募集・採用の段階では、応募者が安心して選考に参加できる環境を整えることが重要です。求人票や募集要項には、配慮を希望する場合の申出窓口や方法を明示し、選考前に必要な情報を丁寧に伝えることが望まれます。
ほかにも、以下のような配慮例があります。
- 混雑する時間帯を避けて面接の時間を設定する
- 試験時間を延長する
- 面接や試験で必要に応じて支援者の同席を認める
- グループ面接を個別面接に変更する
- 事前に職場や仕事を体験できるようにする(トライアル雇用など)
採用後の業務についても、作業手順や業務内容を丁寧に説明することで、入社後の負担を軽減できます。
2.通勤・勤務時間
通勤や勤務時間に関する合理的配慮は、働きやすさの向上に役立ちます。障害のある社員の希望に合わせて勤務時間・雇用形態を調整するなど、通勤・勤務の負担を軽減し、安心して働ける環境を整えましょう。
たとえば、以下のような配慮例が代表的です。
- 在宅勤務やリモートワークで通勤の負担を軽減する
- 時差出勤を導入し、通勤ラッシュの時間帯を避ける
- 通院や体調に応じて、勤務時間や休暇を柔軟に調整する
休憩の取りやすさも、日々の働きやすさに大きく影響します。
3.業務内容
業務内容に関する合理的配慮では、単に業務量を減らすのではなく、仕事の本質を変えずに、障害の特性による苦手な部分を補う視点が必要です。
たとえば、以下のような配慮が考えられます。
- 業務を細分化し、優先順位を明確にする
- 指示をひとつずつ具体的かつ丁寧に伝える
- 写真やイラストで図解したマニュアルを作成する
- 得意分野を活かせる業務を割り振る
担当者を明確化して業務指導や相談窓口を一元化し、複数の人から異なる指示が出ることを防ぐのも合理的配慮の一例です。
4.職場環境
職場環境の合理的配慮には、物理的な設備の整備や人員配置、働き方のルールの工夫などが含まれます。
代表的な配慮例は以下のとおりです。
- 職場の安全や動線を整え、段差などの危険箇所を改善する
- 業務を行いやすい机や椅子を配置する
- 静かに休める休憩スペースを確保する
また、チーム内で役割分担や業務量を調整し、障害のある社員が安心して働ける環境づくりを進めましょう。バリアフリー化や安全確保のための設備投資を行う場合には、助成金制度を活用できる場合があります。
5.報連相・意思疎通
コミュニケーションに関する合理的配慮では、以下のような配慮を意識しましょう。
- 業務連絡や指示は口頭だけに頼らず、メールやチャットを活用する
- 定期的に面談を行い、状況を確認する
- 情報共有のための会議やミーティングを開催する
業務を割り当てる際には、マニュアルを視覚化して整備するとともに、報連相のタイミング・方法やレポートラインを明確にしておくことも推奨されます。
また、プライバシー情報と業務上必要な情報の境界を明確にすることも重要です。人事担当者は診断名などの機微情報を適切に管理し、本人の同意を得たうえで、業務遂行に必要な配慮事項のみを共有する運用を徹底しましょう。
【障害別】障害者雇用の合理的配慮例

ここでは、実際に行われている合理的配慮の具体例を障害の種類別に紹介します。
- 精神障害
- 発達障害
- 高次脳機能障害
- 視覚障害
- 聴覚・言語障害
- 肢体不自由
- 内部障害
- 知的障害
- 難病
自社に取り入れる際の参考として、障害ごとに配慮の特徴を確認しましょう。
1.精神障害
精神障害とは、統合失調症や気分障害(うつ病・双極性障害)などの精神疾患が原因となって生じる障害で、症状や特性は人によって異なります。
環境変化に敏感で心身が疲れやすい傾向があるため、本人の状態や希望を丁寧に確認しながら無理なく働ける環境を整えることが大切です。
具体的な配慮例は以下のとおりです。
- 最初は短めに勤務時間を設定し、段階的に時間を延ばす
- 休憩は静かな場所や少人数で過ごせるよう配慮する
- 業務指示や手順を文書化し、進捗管理ツールを併用して曖昧さをなくす
- 困った時にすぐに相談できるよう、窓口となる担当者やメンターを明確にする
精神障害のある社員への合理的配慮については、以下の記事も参考にしてください。
【障害者雇用】精神障害者を採用する際に知っておくべきポイントを解説
2.発達障害
発達障害(自閉症スペクトラム障害、ADHDなど)のある人は、抽象的な指示や突発的な変化に不安を感じやすく、音や光などの感覚刺激に過敏なケースが多く見られます。
業務を円滑に進めるためには、指示や業務手順を明確にし、作業環境を調整する配慮が必要です。具体的には以下のような対応が挙げられます。
- 5W1Hを用いて具体的に指示を伝える
- 静かな作業環境や少人数業務を提供する
- パーテーションを設置する
- 耳栓、サングラスの使用を認める
コミュニケーションにおいては、指導担当者を固定し、複数の人から異なる指示が出ないよう徹底することが重要です。適切な配慮を行うことで、混乱を防ぎ、本人の能力を最大限発揮できる職場環境を整えましょう。
発達障害の合理的配慮を検討する際は、以下の対応事例集をぜひご活用ください。
3.高次脳機能障害
高次脳機能障害とは、交通事故や脳の疾患などにより生じる、記憶・注意・遂行機能などの障害のことです。業務において計画的な行動や作業の継続が難しいことがありますが、外見からは判断しにくいため、周囲に十分に理解されず、誤解されることがあります。
高次脳機能障害における合理的配慮は「本人の特性を把握し、業務内容・環境・指示方法・支援体制などを個別に調整すること」が基本です。
- 面接中にメモを取ることを許可する
- 適性や能力に応じた業務に配置する
- チェックリストでタスクの進捗を可視化する
- ジョブコーチや支援機関と連携し、復職・業務遂行をサポートする
- 万が一に備えて緊急時対応リストを作成する
高次脳機能障害のある人を雇用する際のポイントについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
■高次脳機能障害における雇用のポイントは?障害の特徴も踏まえて解説
4.視覚障害
視覚障害者への合理的配慮は、主に「情報へのアクセス」と「職場内の安全な移動の確保」の2点が中心です。
具体的には以下のような対応が挙げられます。
- 点字や音声を用いて面接・試験を実施する
- 通路に障害物や段差がないよう、安全に歩ける動線を確保する
- 移動負担の少ない業務に配置する
- 拡大読書器・音声読み上げソフトを導入する
- 必要に応じて通勤支援(同行・送迎・経路確認)を行う
これらの配慮を実施することで、視覚障害者が安全に働き、業務に必要な情報へアクセスしやすい環境を整えることが可能です。
5.聴覚・言語障害
聴覚・言語に障害のある人には、口頭での説明だけでなく、文字や図などを用いて情報を伝える工夫が欠かせません。
具体的には以下のような配慮例があります。
- 面接に手話通訳者や支援者の同席を認める
- 指示や連絡事項を筆談・ホワイトボードなどで伝える
- 連絡手段(メール・SNS・FAXなど)を本人に合わせて選択する
- 障害理解や手話に関する研修を実施し、職場全体の理解を深める
- 採用後の働き方を見据え、ジョブコーチなどの支援制度を活用する
安全面では、パトライト・表示板による通知や、火災報知器・警報装置を光や振動で知らせる仕組みがあると安心です。
6.肢体不自由
肢体不自由とは、病気や怪我などにより、上肢・下肢・体幹の運動機能に障害がある状態をいいます。「歩く」「座る」「字を書く」「物を運ぶ」といった動作が難しいため、これらの負担を軽減する必要があります。
主な配慮例は以下のとおりです。
- スロープの設置や手すりの追加など、必要なバリアフリー改修を行う
- 机や作業台の高さを調整する
- 移動の少ないフロアや席に配置する
- 自力での通勤が難しい場合は、送迎などの柔軟な通勤方法を認める
- 必要に応じて通勤支援(駐車場確保・介護タクシー利用など)を行う
適切な配慮を取り入れることで、社員の働きやすさを確保しながら、企業としても効率的に業務を進められます。
7.内部障害
内部障害とは、心臓や腎臓、肝臓、呼吸器、免疫機能などの身体内部の機能に影響を及ぼす障害を指します。
外からは見えにくく、体調の変化や感染リスクが突発的に生じる場合があるため、柔軟な勤務調整や業務負荷の軽減を考慮する必要があります。
具体的な配慮例は以下のとおりです。
- 通院日や体調に合わせて、勤務時間やシフトを柔軟に調整する
- 心臓・呼吸器・透析などの状態に応じて業務量を調整する
- 身体負荷の少ない作業(座位中心・移動少なめなど)を中心に役割分担する
- 休憩をこまめに取れるよう、本人・周囲に声掛けを行う
- 緊急連絡先や主治医の情報を職場で管理する
これらの配慮を職場で体系的に実施することで、内部障害のある社員が安心して働ける環境を整えつつ、チーム全体の協力体制や業務効率の向上にもつながります。
8.知的障害
知的障害のある人は、業務手順の理解や複雑な状況への対応が難しい場合があります。そのため、業務指示や手順はわかりやすく、図解やイラストを用いたマニュアルで提示するのが効果的です。
担当者を固定し、業務や相談の窓口を明確にすることで混乱を防ぐことも可能です。そのほか、以下のような配慮例が挙げられます。
- 困難や不安に配慮し、無理強いせず段階的に業務をステップアップさせる
- 危険箇所や注意点を見える化して安全に配慮する
- ベテラン社員とペアで作業させ、随時サポートを行う
- 進捗・成果を可視化し、達成に応じて声掛けや励ましを行う
また、初期は短時間・少量の単純作業から始め、習熟度に応じて段階的に業務量を増やすのもおすすめです。フィードバックは具体的な点を明確に伝え、曖昧な表現を避けましょう。
9.難病
強直性筋ジストロフィー症や潰瘍性大腸炎などの難病に起因する障害では、症状や体調に波があるため、柔軟に働き方を調整できる仕組みを整えることが重要です。
具体的な配慮例には、以下のものがあります。
- 通院や体調に合わせて休暇や勤務時間を柔軟に設定する
- 在宅勤務や時短勤務を採用する
- 薬の服用時間に合わせて休憩時間を調整する
- 重量物や長時間の立ち作業など負担の大きい業務を免除する
- 少量ずつの分割食や飲み物タイプの食事を準備する
また、継続的な対話や専門家との連携も、難病に起因する障害のある社員の安定した就労につながります。
参考:
■高齢・障害・求職者雇用支援機構|障害者雇用事例リファレンスサービス
合理的配慮を提供する際の4つのステップ
障害者雇用における合理的配慮は、形式的な対応ではなく、働く本人が能力を発揮できる環境を整えることが目的です。次の4つのステップを意識し、段階的に取り組むことが重要です。
- 本人からの申し出を受ける
- 当事者と企業側で話し合う
- 計画を策定・実施する
- 定期的に評価・改善する
各ステップについて、詳しく見ていきましょう。
ステップ1:本人からの申し出を受ける
合理的配慮は「障害のある本人が必要とする配慮に応じて行うもの」であるため、まずは本人からの申し出を受けることが出発点です。
とはいえ、配慮を求めることに不安を抱え、自分から言い出しにくい場合もあります。そのため、企業が最初に取り組むべきは、安心して相談できる環境づくりです。
面接などで本人の希望を確認する時間を設けることや、丁寧に説明を行うことはとくに重要です。採用時に把握できなかった場合でも、入社後に申し出があった際は速やかに状況を確認し、具体的な要望を丁寧に聞き取る姿勢が求められます。
初期対応が適切であるほど、その後の話し合いを円滑に進めやすくなります。
ステップ2:当事者と企業側で話し合う
申し出を受けた後は、当事者と企業側で配慮内容について話し合います。ここでは、本人が必要としている配慮を正確に把握し、実現可能性を一緒に検討することが重要です。
場合によっては、本人が話し合いに不安を感じることもあるため、家族や支援機関の専門家など、本人の状況をよく知る立場の人から意見を聞くことも効果的です。外部の視点を適切に取り入れることで、より現実的で納得度の高い配慮を検討しやすくなります。
合理的配慮は、事業主に過重な負担がかからない範囲で行うとされており、話し合いの段階で「どの方法なら実現しやすいか」を一緒に探っていきます。また、配慮を実施するには配属先の上司や同僚の理解が欠かせませんが、障害に関する情報はプライバシーに関わるため、共有する範囲について本人の意向を確認しておくことも必要です。
こうしたやり取りを通じて配慮の方向性を整理できれば、次の実施ステップに進みやすくなります。
ステップ3:計画を策定・実施する
話し合いで合意した内容にもとづき、実際にどのような合理的配慮を行うか具体的に決定し、職場で実施していきます。
複数の方法が考えられる場合には、より実現しやすい方法を選択することで、無理のない形で合理的配慮を提供できます。企業の体制や設備面の理由から希望どおりの対応が難しい場合には、実施できない理由を明確にしたうえで、実施可能な範囲で代替案を提案しましょう。
また、配慮の内容は上司や関係者と共有し、職場でスムーズに運用できるようにしておくことが大切です。実施内容を明確にし、関係者間で認識を揃えることで、当事者が安心して働ける体制を構築できます。
ステップ4:定期的に評価・改善する
合理的配慮は、実施して終わりではなく、継続して見直すことが欠かせません。障害の状況や業務内容は時間とともに変化するため、現在の配慮が適切かどうかを確認する機会を定期的に設ける必要があります。
面談などを通じて「困りごとが生じていないか」「配慮が過不足になっていないか」を確認し、必要に応じて内容を調整します。実施した配慮が職場でうまく機能しているかどうかを確認するためには、上司や関係者との連携も重要です。
評価・改善のサイクルを継続することで、当事者の働きやすさを保ちつつ、組織としても合理的配慮を持続的に提供できる体制を整えることが可能です。
障害者雇用の配慮例を踏まえて、自社の合理的配慮を段階的に進めよう
障害者雇用における合理的配慮とは、障害のある人がその特性を活かし、安心して働けるよう環境や仕組みを調整することです。
実際の配慮例を参考に、本人との対話を重ね、できることから段階的に実践することが重要です。自社に合った取り組みを積み重ね、安心して働ける職場づくりを進めましょう。
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