社会不安障害とは、対人関係に強い緊張や恐怖を感じ、身体的な症状が出る精神疾患です。大勢の人がいる場所や人前に出た際に、過度な不安や緊張から呼吸困難や体調不良などを起こすリスクもあり、仕事に支障を来たす可能性もあります。
本記事では、社会不安障害(SAD)の主な症状や、職場で起こしやすい「社会不安障害あるある」や、社会不安障害の人に向いている業務や就労環境などについても解説します。社会不安障害について理解を深め、現場対応に活かすためにご覧ください。
このページの目次
社会不安障害とは?
「社会不安障害(SAD/Social Anxiety Disorder)」とは、人前で注目が集まるような状況や初対面の人とのやり取りにおいて、強い不安や恐怖を感じて、身体的な症状を引き起こす精神疾患です。
目上の人と初めて話すときや大勢の人の前で話すときに感じる不安や恐怖が、会話や行動に支障を来たすほど著しい場合、社会不安障害の可能性があります。また、症状により対人関係や人前に出ることを避け、社会生活そのものに影響が及ぶケースも見られます。
従来、対人恐怖症やあがり症、赤面恐怖症と呼ばれていたものも、現在は社会不安障害とみなされる傾向にあります。なお、「社交不安障害」との明確な違いはなく、同じ病気を指して使われています。
社会不安障害の診断基準
社交不安障害の診断には、WHO(世界保健機構)が作成した国際的な疾病の分類「ICD-10」、もしくはアメリカ精神医学会による精神疾患の診断基準・診断分類「DSM-5」による診断ガイドラインが用いられます。
「ICD-10」による確定診断には、以下3つの規準をすべて満たす必要があります。
- 心理的症状、行動的症状、あるいは自律神経症状は不安の一次的発現であり、妄想や強迫思考のような他の症状に対する二次的なものではない
- 不安は、特定の社会的状況に限定されるか、そこで優勢でなければならない
- 恐怖症的症状をできるだけ常に回避する
※参考文献:『ICD-10精神および行動の障害臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
「DSM-5」における社会不安障害の診断基準は多数あり、その一部を以下に示します。
- 他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安
- その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けること になると恐れている
- その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する
- その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる
- その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続く
※参考文献:『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
社会不安障害の症状
社会不安障害の症状は、環境や状況などの条件によりさまざまですが、代表例は以下の通りです。
症状 | 主な特徴 |
---|---|
赤面恐怖 | 大勢の人前に出ると過度に緊張してしまい、赤面や口が乾くなどの症状が出る。 |
発汗恐怖 | 緊張で大量に汗をかいてしまい、ハンカチがないと落ち着かない。 |
対人恐怖 | 周囲の視線が気になり、緊張して恐怖や手の震え、めまいなどの症状が出る。他人からの評価に強い不安を感じる。 |
書痙(しょけい) | 受付や窓口など人前で文字を書こうとすると、緊張と不安で手が震える。 |
自己臭恐怖 | 自分の体臭や口臭が人に不快感を与えているのではないか、という強い不安がある。 |
社会不安障害の原因
社交不安障害の原因は、まだはっきりとは解明されていません。ただ、最近の研究では、脳内の神経伝達物質であるセロトニン神経系やドーパミン神経系の機能障害が、発症の原因ではないかと考えられています。
また、さまざまな刺激に対する脳の扁桃体の過剰反応に起因する、という説も出ています。扁桃体が興奮して交感神経に影響することで、心拍数や呼吸数の増加や発汗などの症状を引き起こすとされます。
他にも、過去に人前で恥ずかしい思いをした体験的要因や性格的要因、環境的要因に由来するという見方もあります。ごく少数ではありますが、遺伝的要因と思われる症例も存在しており、世界中の研究者が原因解明に取り組んでいます。
職場における社会不安障害の人の特徴的な行動
社会不安障害の人は、職場や仕事に関してさまざまな悩みを抱えやすい傾向にあります。社会不安障害の人の特徴的な「あるある」には、以下が挙げられます。
- 人前で話す際に緊張しすぎる
- 人の視線が気になって集中できない
- 窓口応対や電話でうまく話せない
- 会議・宴会など視線を向けられると声や手足が震える
- 電車・バスなどに乗ることが怖い
- 異動や転勤で慣れない人と話すのが怖い
上記はあくまでも一例ですが、社会不安障害の人が「苦手」「怖い」と感じる業務や作業は大きなストレスとなり、仕事を長く続けられないリスクも出てきます。
社会不安障害の人へ職場ができること
社会不安障害を持つ人は、症状について相談すること自体に抵抗を感じる人も多いですが、職場の周囲の人が理解し、適切な配慮をすることで、働きやすい状況を確立できる可能性があります。ここでは、社会不安障害の人に対して、職場の上司や同僚ができることを紹介します。
業務量や職場環境を調整する
社会不安障害の症状により業務が困難だと判断した場合には、業務量や職場環境を調整しましょう。業務量が多いと体力的、精神的にすり減ってしまい、症状が出やすい傾向にあります。
異動や出張など緊張や恐怖が強まりやすい状況を調整すると良いでしょう。また、満員電車での通勤はストレスとなり、不安や緊張が強まる可能性があるため、通勤の負担がない在宅勤務やリモートワークに切り替えられると理想的です。
向いている仕事を任せる
社会不安障害の人に向いている仕事を任せることで、過度な緊張や不安を感じることなく、働きやすい環境を提供できるでしょう。社会不安障害の人が比較的取り組みやすい仕事とは、次のようなものです。
- 対人接触が少ない仕事
- 在宅勤務が可能な仕事
- イレギュラーな会話ややり取りが発生しづらい定型的な仕事
- マイペースにできる仕事
症状によって現在の業務を担うことが困難な場合には、上記のような仕事のある部署への異動も検討してみましょう。
まとめ
社会不安障害の症状により、人前でうまく話ができない、満員電車での通勤が困難、など仕事に支障が出る可能性があります。社会不安障害を持つ人が長期的に仕事を続けるためには、職場の人が症状について理解し、業務内容や就労環境に関して適切な配慮やサポートの提供を検討することも大切です。
■ 監修者コメント
社交不安障害は失敗や恥を極端に恐れてしまう疾患です。そのため、上司の人は本人に対して「理解と受け入れのメッセージを会話の中に織り交ぜること」「不必要なプレッシャーがかかる場面を減らし、失敗を許容できる感情を作ること」「批判的なフィードバックを避け、配慮した指導を行うこと」などが重要です。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックリンク 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
メール: rep@kaien-lab.com / 電話番号 : 050-2018-1066 / 問い合わせフォーム:こちら
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