アンコンシャス・バイアスとは?事例と取り組みをわかりやすく紹介

多様性が重視される現代において、無意識の偏見や思い込みを意味するアンコンシャス・バイアスは対策すべき課題です。ネガティブなアンコンシャス・バイアスを放置すると、安易に人の特性や能力を決めつけ、不利益を与えるケースが発生します。そのため、アンコンシャス・バイアスの具体的な内容を認識し、自覚をしたうえで対策することが大切です。

本記事では、アンコンシャス・バイアスの概要や具体例、職場における問題点などについて解説します。健全な職場環境や、多様性を認める社会を構築するために役立つ内容なので、ぜひお役立てください。

アンコンシャス・バイアスとは?

アンコンシャス・バイアスは、日常の中で無意識に持つ偏見や思い込みのことです。心理学における「認知バイアス」の1つで、「無意識バイアス」や「潜在的ステレオタイプ」とも呼ばれています。

アンコンシャス・バイアスが問題となるのは、それが人の判断や行動に影響を与えるからです。具体的には、無意識のうちに他者を不快にさせるような発言をしてしまったり、他者のキャリアを妨げるような判断をしてしまうことが考えられます。例えば、特定の性別や人種に対する固定的なイメージから、能力や適性を正確に評価できないなどです。

企業においても、製品開発や情報発信の際にアンコンシャス・バイアスを十分に意識することが必要です。無意識のうちに偏見のある製品の販売や情報の発信をすると、炎上の原因になるかもしれません。

アンコンシャス・バイアスは、無意識のうちに判断や行動に大きな影響を与えるため、それを意識し、偏見や思い込みを乗り越えることが求められます。

アンコンシャス・バイアスの具体例

アンコンシャス・バイアスは、日常のさまざまな場面で見られます。以下は、アンコンシャス・バイアスの具体例です。

  • 体力的にハードな仕事を女性に頼むのは可哀そうだと思う
  • お茶出しや受付対応、事務職、保育士というと、女性を思い浮かべる
  • 「親が単身赴任中」というと、父親を想像する(母親を想像しない)
  • DV(ドメスティック・バイオレンス)と聞くと、男性が暴力をはたらいていると想像する(女性を想像しない)
  • 年配(高齢者)の人は、頭が堅く、新しい方法に対する適応性が低いと考えがち
  • 外国人労働者を見ると、出稼ぎ目的の一時的な滞在者だと感じる
  • LGBTの人に対して、特定の職業に偏っているという先入観を持つ
  • 「多様性」と聞くと、全ての違いを何もかも受け入れなければならないと感じる

引用:気づこう、アンコンシャス・バイアス~真の多様性ある職場を~(身近なアンコンシャス・バイアスの例)|日本労働組合総連合会

監修:一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 代表理事 守屋 智敬

これらは、アンコンシャス・バイアスのほんの一部です。私たちが日常の中でどれだけ多くのバイアスに影響されているかを認識することは、真の多様性を受け入れ、より公平な社会を築く上で非常に重要といえます。

職場におけるアンコンシャス・バイアスの問題点

職場におけるアンコンシャス・バイアスの問題点は以下のとおりです。

  • 職場内の多様性が活かされない
  • 社員の能力が正当に評価されない
  • ハラスメント事案が増加する

それぞれを具体的に解説します。

職場内の多様性が活かされない

多様性の豊かな職場は、それぞれの個性やスキルを最大限に活かすことが可能です。しかし、アンコンシャス・バイアスが存在する企業では、無意識の偏見や思い込みにより、その多様性を十分に活かしきれない問題が発生しています。アンコンシャス・バイアスが影響することで、業務の幅が狭まることもあるのです。

日本労働組合総連合会(連合)が行った「5万人を超える回答 アンコンシャス・バイアス診断」によれば、「体力的にハードな仕事を女性に頼むのは可哀そうだと思う」と答えた人の割合は、男性が56.6%、女性が32.5%と、24.1ポイントの開きが確認されました。このような無意識のバイアスが存在すると、女性が体力的な仕事を適切に任される機会が減少する可能性があり、その結果、企業の多様性が十分に活かされないことになります。

出典:5万人を超える回答 アンコンシャス・バイアス診断|日本労働組合総連合会(連合)

社員の能力が正当に評価されない

一人ひとりの社員が持っている能力や実績を正当に評価することは、組織の成長のために重要な要素です。しかし、上司がアンコンシャス・バイアスを自覚しないままでいると、そのバイアスが評価に影響を及ぼすことがあり、社員の能力が正当に評価されない問題が生じます。

パーソル総合研究所の「マネジメントにおけるアンコンシャス・バイアス測定調査調査【Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ】 結果報告書」によると、人事評価に対する影響として、上司との「対話頻度」が40.2%、「年齢」が24.0%、「未既婚・子供有無」が14.8%という結果になっています。つまり、業務の実績や能力だけでなく、無意識の偏見や思い込みが人事評価に大きな影響を及ぼしているということです。

このような問題を解消するためにも、それぞれがアンコンシャス・バイアスを認識することが重要になります。
出典:マネジメントにおけるアンコンシャス・バイアス測定調査調査【Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ】 結果報告書|パーソル総合研究所

ハラスメント事案が増加する

アンコンシャス・バイアスのある職場は、セクハラやパワハラなどのハラスメント事案が増加するリスクが高まります。

例えば、高齢の従業員に対し、テクノロジーの使用や新しい方法を学ぶ能力が低いとのアンコンシャス・バイアスを持ち、差別的な言動を行うケースが挙げられます。また、新入社員に対し「昔はもっと厳しかった」という過去の経験から、過度な指導や無理な要求をすることも、アンコンシャス・バイアスの1つの例です。このような状況下では、従業員の心理的安全性は保たれず、モチベーションの低下や離職の原因となってしまいます。

アンコンシャス・バイアスによるハラスメントが横行する企業は、従業員の離職率が高まるだけでなく、不適切な発言や行動によるレピュテーションリスクを高める原因にもなるため注意が必要です。

障害者雇用におけるアンコンシャス・バイアスの事例

障害者雇用の場面においても、以下のようなアンコンシャス・バイアスによる弊害が存在します。

  • 差別的な発言
  • 不当な扱い
  • 機会の不平等

それぞれ、具体的な事例をご紹介します。

関連記事:【人事担当者向け】職場での障害者差別 | 事例と対処法

差別的な発言

障害のある従業員に対するアンコンシャス・バイアスが、差別的な発言につながるケースがあります。能力や実績は他の従業員と変わらないにも関わらず、障害の有無によって誤った前提や偏見をもとに評価された事例です。

ある聴覚障害者が上司から仕事の評価を受けた際、同僚から「聞こえないくせに生意気だ」という差別的な言葉を受けました。これは、聴覚障害があることが仕事の能力と直結しているとも受け取れる発言です。ここには、「耳が聞こえないから(障害があるから)優遇された」というアンコンシャス・バイアスが潜んでいます。
参考元:条例制定当時に寄せられた「障害者差別に当たると思われる事例」(労働) 

不当な扱い

障害を理由に不当な扱いを受けた障害者雇用の事例です。

従業員が向精神薬を飲んでいることを明かしたところ、それだけで退社を迫られる事態になりました。

その他には、教育能力自体に問題はないのに、目が見えないことを理由に教師を辞めさせようとされた事例もあります。これは教育能力を見ずに「目が見えない=適切な教育ができない」というアンコンシャス・バイアスにより起こった事例と捉えられます。

どちらも、個別の能力や適性を見ずに障害の特性で判断されてます。
参考元:条例制定当時に寄せられた「障害者差別に当たると思われる事例」(労働) 

機会の不平等

障害があることで、機会の不平等につながる事例もあります。

精神障害者が就職活動を行う際、障害者雇用の対象になっておらず、身体障害者と比較して差別的な扱いを受けた事例です。この背景には、「精神障害者は身体障害者よりも雇用の対象として扱いにくいのではないか?」というアンコンシャス・バイアスが存在していると考えられます。

また、責任のある仕事を任せられない、マネジメントへの昇進の道が示されないという機会の不平等も見受けられます。診断名だけでその人の能力や特性を一方的に判断することも問題です。例えば、発達障害と診断されたからといってコミュニケーションが苦手だと決めつけたり、聴視覚障害者にミーティングの参加を控えるよう勧めたり、知的障害があるとしてPCを使った作業を任せないといった事例が挙げられます。
参考元:条例制定当時に寄せられた「障害者差別に当たると思われる事例」(労働) 

障害者雇用におけるアンコンシャス・バイアス解消のために企業ができること

障害者雇用におけるアンコンシャス・バイアスを解消するためには、企業側の意識改革と取り組みが欠かせません。

まず、障害の区分や診断名だけでその人を判断しないことが重要です。障害の状況は一人ひとり異なって多様なものであり、診断名だけで安易にカテゴライズされるものではありません。例えば、視力に関する障害があっても、その範囲は弱視から全盲に至るまで多岐にわたります。

障害のある人に対しては、具体的な配慮や希望を直接たずね、対話を重ねることが大切です。当事者の「やりたいこと」や「必要なサポート」はそれぞれ異なるため、オープンなコミュニケーションを意識しましょう。

さらに、障害のある従業員の発信の場を社内に設けることも大切です。多様性に関する勉強会の開催や、障害を持つ人たちの経験談を聞く機会を設けることで、他の社員も障害に対する理解を深めることができます。

アンコンシャス・バイアス解消のための取り組みは、社会全体の理解と受容につながります。企業はこの課題を前向きに捉え、積極的に取り組むことで、全ての従業員が働きやすい職場環境の実現に貢献できるでしょう。

まとめ

アンコンシャス・バイアスとは、無意識のうちに持つ偏見や思い込みのことです。日常のさまざまなシーンに潜んでおり、人の判断や行動に影響を与えます。そして、アンコンシャス・バイアスにより不利益を与えることや、不快な思いをさせるケースもあるため注意が必要です。障害者雇用においてもアンコンシャス・バイアスは存在し、解消するには社内教育や障害のある人との対話による意識改革が有効になります。多様性を活かした職場環境の構築は、企業の成長にも重要な要素です。社内のアンコンシャス・バイアスを認識し、解消するための取り組みを行ってみるとよいでしょう。

この記事を書いた人

大野順平

株式会社Kaien 就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター

2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。

論文寄稿 :

月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)

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