障害者雇用は企業に求められる社会的な取り組みのひとつであり、多くの企業が積極的に施策を講じています。とはいえ、障害者雇用に関して社内にノウハウが少なく、どのように採用活動を進めればいいのか不安を感じている人事担当者も少なくないでしょう。
今回は、障害者雇用における基本的な選考の流れや書類選考におけるポイントを解説します。
このページの目次
障害者雇用の書類選考をする上で知っておきたい”心構え”
一般枠雇用の新卒採用や、キャリア採用では書類選考の経験があるけれども、障害者雇用の書類選考の経験がなく、どのような点に注意が必要なのか、わからないという方もいらっしゃるでしょう。
障害者雇用の採用において、一般枠雇用とどのような部分が同じで、どのような部分で留意が必要かについて解説します。
弱みやリスクではなく、「どのように活躍できそうか」という期待をもって選考する
障害者雇用の採用選考といっても、選考の基準自体が大きく異なるわけではありません。
採用活動における選考とは、応募者の適性や能力に基づいて、職務を適正に遂行できるかどうかを判断するためのものです。障害者雇用においても一般枠採用と同様に、応募者の適性や能力を基準として、保有スキルやポテンシャルを自社でどのように活かせるか、職務におけるミッションを達成し会社に貢献できるかなどを公正に判断します。
障害者雇用の経験が浅い企業の場合、「雇用後のトラブルがあるのではないか」、「急に会社に来れなくなってしまうのではないか」というリスクの面を過度に心配してしまい、雇用後の活躍という視点が抜け落ちてしまうケースが多々見受けられます。
障害の有無に関わらず、一般的に多くの人がせっかく働くのであれば、活躍したい、会社に貢献したいと考えています。「障害によって何ができないか」など懸念点を探し出すのではなく、「自社でどのような活躍が可能か」といったポジティブな視点で選考を進めることが大切です。
意欲や能力をテキストに言語化することが苦手な障害特性を持っている人もいることを理解する
一般的に書類選考では、応募書類を通じて求職者の「意欲」や「能力」を読み取り、希望する人物像とあてはまるか、という観点で選定します。しかしここで注意しておきたいことは、障害の種別や特性によっては、意欲や能力を文章で表現することが苦手な障害特性を持っている人もいる、という点です。
一例をあげると、自閉スペクトラム症の特性のひとつに、答えが人や場面によって異なるような抽象的な概念を文章などに言語化することが苦手、という場合があります。就職活動においては、ぜひともPRすべきような強みや、秀逸なエピソードを応募書類に記載していないケースも多くあります。
いわゆる「盛って伝える」という行為からほど遠い、謙虚で誠実な人物ほど、高いスキルや強みを見落とされているのかもしれません。企業側にとっても戦力となりうる人材を取りこぼしてしまうことにつながります。応募書類の中で作文力が問われる、「志望動機」や「自己PR」の内容が多少薄いように感じたとしても、それだけで判断せずに職務経歴の内容や資格など、「ファクト」に注目して総合的に判断することをおすすめします。
診断名や障害者手帳の等級などで単純にスクリーニングしない
これは障害者雇用の経験がない企業というより、むしろ過去に多少の障害者雇用の経験がある企業に特によく見られる落とし穴です。過去の障害者雇用の経験がミスマッチがあり、痛手を負ったことがトラウマとなってしまい、「○○障害の方は難しい」と決めつけてしまうケースがしばしばあります。仮に障害種別や、診断名が同じだったとしても、状況や症状の現れ方は人により多種多様です。診断名だけで判断できるような単純なものではありません。
また、障害者手帳の等級によって判断する企業も見受けられます。身体障害者手帳のなかには、上下肢障害や視覚障害など、検査結果の数値や残存する機能の状態によって比較的明確に区分されるものもありますが、精神障害者保健福祉手帳はそれほど明確に区分けできるような判断基準はありません。手帳の等級によって、一様に判断できることでありません。
参考:障害者手帳の等級|人事が知っておくべき等級による違いについて解説
つまり、診断名や手帳の区分などは、ひとつの情報ではありますが、それだけで何かが判断できる材料にならないということです。ついわかりやすい判断基準を作りたくなりますが、単純な「ラベル」で振り分けようとせずに、一人ひとりの違いを「個人」として理解しようとする姿勢が大切、ということです。
障害者雇用の選考プロセスと書類選考の位置づけ
障害者雇用における書類選考から内定までの平均的な選考期間は約1ヶ月程度です。基本的な進め方は、一般的な採用プロセスと大きな違いはありません。
<採用プロセスの例>
- 会社説明会
- 書類選考
- 1次面接
- 結果連絡
- 実習と最終面接
- 内定
前述した通り、障害特性によっては書類で自分の強みをPRすることが苦手なタイプの方もいます。テキストで得られる情報は限られているので、少しでも可能性が感じられるのであれば、できる限り面接や実習などを通じて、その方が持っている能力を見つけ出していく姿勢があるとよいでしょう。
参考:障害者雇用における面接のキホンをレクチャー「精神・発達障害者の採用面接 初心者講習」
一方で、採用にかけることができる時間や人的リソースも有限です。面接や実習は一人当たりの時間的なコストが大きいため、一定数まで絞り込んだうえで、一人当たりにかけられる時間を多く設けて丁寧に選考を行う、という視点も重要です。テキストで判断することができるであろう以下のような項目を中心に、書類上でのスクリーニングを行えるとよいでしょう。
応募書類で判断しうる事項 | 面接や実習も含めて判断したい事項 |
---|---|
・通勤面:自宅から職場までの距離は許容しうる範囲か? ・支援機関や医療:医療や社会資源との適切なつながりを持てているか? ・PCスキル:職務で必要なPCスキルを持っているか? ・職務経歴:短期間での離職が続いていないか? ・障害の自己理解:必要な配慮事項を自分で整理し伝えることができそうか? | ・生活リズムの安定:規則正しい生活リズムを維持できているか? ・職務遂行能力:依頼する予定の業務を遂行できるスキルや経験があるか? ・パーソナリティ面:一緒に働いていけそうな人物か? ・コミュニケーション力:業務遂行する上でのやり取りに支障はないか? ・意欲:就労を継続するために必要な「働く動機付け」を持っているか? |
障害者雇用の書類選考で確認したい3つのポイント
書類選考を行う上で、これまで勤務した会社や、学歴、資格などが立派で華々しいと、つい目が向きがちではあります。もちろん期待することは良いことですが、ここにも注意が必要です。
障害者雇用では、スキルのミスマッチや能力不足が原因で早期退職に至ることはあまり多くなく、どちらかというと健康管理や、障害に対する相互理解の不足が遠因となって退職に至るケースが比較的多いように見受けられます。厚生労働省の統計調査によると、「今後仕事ができない・続けられないと思う理由」の第一位は「体力的に厳しいため」、第二位は「職場環境や業務体制が整備されていないため」となっています。
いくらスキルが高くとも、体調が安定しなかったり、職場とのミスマッチが発生してしまい、早期離職してしまえば元も子もないです。書類選考でもこれらの点に注目しながら選考を進めることが重要です。具体的には、次の3つのポイントを意識しましょう。
日々の業務に耐えうる体力や健康状態が整っているか
最も重要なポイントは、障害の状態や健康状態が、自社が想定している働き方や業務内容に耐えうるかを見極めることです。中には自己判断で就職活動を行ってしまう人もいるため、安定就労が可能な状態かどうか、書類から見極める視点が求められます。
具体的には、通院頻度や主治医からの就労許可、就労支援員の見解など、客観的な情報が記載されているかを確認しましょう。本人の意欲に関係なく、第三者視点で就労準備が整っているという裏付けがあると、安定就労の可能性が高まります。
医療や社会資源との適切なつながりを持てているか
就労を安定的に継続するためには、家族や医療機関、地域支援機関等の援助を適切に受けることができているかどうかは、重要な観点となります。
雇用後に職場の上司が、健康状態を管理することや、医療面も含めてサポートすることは多くの場合、不可能です。長く勤めている中で、コンディション不調や、思いもしないことで体調不良になることもあります。そのような状況になったときに、助けを借りることができる外部の支援があり、必要に応じて連携をすることができると、何買ったときの対処が取りやすくなります。
応募・選考のタイミングで、障害福祉サービスの一つである就労移行支援事業所に通所しているようであれば、ぜひ選考プロセスの段階で積極的に連携を行いましょう。障害特性に関する専門的なアセスメントを得ら得ることもありますので、書類上で職歴が不明な場合は書類選考の段階でご本人に問い合わせたり、面接で確認するとよいでしょう。
なお、Kaienが運営する求人サイト「マイナーリーグ」には、支援機関の推薦文という機能があり、本人が連携している支援機関の担当支援者から、就労準備や障害に対して必要な配慮事項などの記載があり、書類選考をする上で有用な情報が得やすいサイト仕様になっています。
障害に対する配慮事項は雇用後に受け入れることができる内容か
就労において必要な配慮事項が具体的に書かれているということは、自身の障害を理解・受容できているということであり、安定就労に必要な準備が整っている可能性が高いです。配慮事項の記載がたくさん記載されているのを見たときに「対応すべきことが多く、大変そう」と感じるかもしれませんが、安定雇用と本人の活躍につながるヒントであると考え、ポジティブに捉えていただくことをおすすめします。逆に「配慮事項はありません」などと書かれている場合は障害への自己理解が不足していたり、障害の受容ができていない可能性があります。安定就労が可能な状態か、慎重な判断が必要です。
障害に対する合理的配慮は、希望があればすべて受け入れなければならない、というものではありません。雇用側にとって過度な要望であったり、現実的には準備が整っていない恐れがある場合には、雇用後のミスマッチにつながります。記載内容をよく確認し、雇用後のイメージを膨らませ、配慮の要望が、実際に受け入れることが現実的な内容かをシミュレーションをすることが重要です。
まとめ
障害者雇用の選考といっても、基本的に一般枠の採用と大きな違いはありません。就労における懸念を払拭しようと粗探しをするのではなく、応募者本人の適性や能力を基準に「自社でどのような活躍が可能か」といったポジティブな視点を持つことが大切です。
そのためにも、書類選考では障害に対して自己受容できており、就労準備が整っているかどうかをよく確認しましょう。選考全体を通して本人と認識をすり合わせ、双方が具体的な就労イメージを膨らませられるよう心がけてください。
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この記事を書いた人
株式会社Kaien|就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター 大野順平
2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。
論文寄稿:月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)
取材対応:朝日新聞「発達障害は「わがまま」? 働く場の合理的配慮?特集。NHK クローズアップ現代+「企業が注目!発達障害 能力引き出す職場改革」 他多数