DEIとは、多様性を尊重し、誰もが能力を発揮できる環境を作るための考え方です。企業が成長するための基盤として、注目されています。
しかし、DEIを推進すべきではあるものの、自社における方針が定まらず、その対応に頭を悩ませている人も少なくないでしょう。
本記事では、DEIの定義や必要性、導入のメリット、取り組み事例などを網羅的に解説します。
DEIとは?

DEIは「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包摂・包含性)」の略語です。はじめに各言葉の意味を解説します。
Diversity(ダイバーシティー:多様性)
Diversityは人材の国籍や年齢、障害の有無、経験や考え方、価値観といった多様性を指します。
ビジネスの世界は常に変化し続けています。そのなかで企業が競争力を維持するためには、均質な人材ではなく、異なる視点をもった多様な人材が必要です。
ただし多様な人材を採用するだけでは、組織に混乱を招くおそれがあります。
Diversityは表層的な多様性のことであり、それが機能するためには、後述するEquityやInclusionのプロセスが必要になるのです。
Equity(エクイティ:公平性)
Equityは多様な人材が能力を発揮することを阻害する要因を是正し、適切な機会を公平に提供し、支援することを指します。
EquityはしばしばEqualityと混同されます。Equalityの意味は「平等」であり、たとえるならば全員に同じサイズのランニングシューズを履かせることです。しかし足のサイズは一人ひとり異なるため、この状態では快適に走れないことはいうまでありません。
対するEquityの意味は「公平」です。ビジネスの現場では以下の例が挙げられます。
- 障害のある従業員に対し、業務の遂行に必要なツールを提供する
- 育児中の従業員が可能な範囲で働き続けられるように、柔軟な勤務体系を整える
この対応は「優遇」や「えこひいき」などではありません。Equityが目指すのは、構造的な障壁や不利益を取り除き、一人ひとりが能力を十分に発揮できる機会を公平に提供することです。
Equityについては、こちらの記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。
■エクイティ(Equity)とは?ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)との関係を解説
Inclusion(インクルージョン:包含性)
Inclusionは、心理的安全性が確保されているなかで、一人ひとりが本来の能力を最大限に発揮できる状態を指します。
多様な人材を採用し(Diversity)、公平な機会を提供しても(Equity)、組織の一員として自分の存在価値が認められていることを実感できなければ、パフォーマンスの向上は図れないからです。
Inclusionが実現されている職場では、たとえば障害のある従業員が萎縮することなく、会議で発言できたり、異なる視点からの意見が歓迎されたりする文化が根付いています。
Inclusionは可視化しにくい概念ですが、従業員サーベイなどで心理的安全性が確保できているかを確認し、改善することが可能です。
なお、近年では「自分らしくいられる場所がある」という感覚が、従業員のエンゲージメントを高めることから、Belonging(帰属意識)を追加した「DEIB」という考え方も主流になりつつあります。
D&Iとの違い
DEIと似た言葉にD&Iがありますが、主な違いはEquityの概念が中心に据えられているかどうかです。
D&Iでは多様な人材を採用し(Diversity)、彼らを受け入れる(Inclusion)ことに注力する一方で、既存の評価制度や労働環境に残っている「見えない障壁」が見過ごされがちでした。
たとえば女性活躍を推進しているのに、昇進基準の前提が長時間労働である場合、育児などに対応できず、結果として離職してしまう可能性があります。これは構造的な不平等を是正する、Equityの視点が不足していることに起因します。
このような状況を解消するため、D&IからDEIへのアップデートが進んでいるのです。
構造から変えることではじめてDiversityとInclusionが機能し、企業の持続的な成長や競争優位性をもたらす土壌が整うでしょう。
D&Iについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
内部リンク:No.15_【D&I 推進】(作成中)
企業にDEI推進が求められる理由

企業にDEI推進が求められるのは、主に以下の理由が挙げられます。
- 従来の社会構造を是正し、多様な人材が活躍できるようにするため
- 「労働供給制約社会」を見据え、人材を確保するため
- 投資家からのネガティブな評価を回避するため
従来の社会構造を是正し、多様な人材が活躍できるようにするため
DEI推進が求められる第一の理由は、従来の社会構造によって生じている格差を是正し、これまで埋もれていた人材のポテンシャルを解放するためです。
かつての日本企業では、無意識的に「長時間労働や転勤が可能な男性」を標準モデルとし、働き方を設計したり、評価をしたりしてきました。
これを放置することは、能力があるにもかかわらず、育児や介護などにより働き方に制約を受ける従業員や障害のある従業員などが、活躍の機会を阻害され続けることを意味します。
とくにアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)によって、障害のある従業員への配慮が不足し、物理的・環境的な障壁が生じて働けなくなったりするケースが散見されます。
DEI推進におけるEquityは、慣習によって不利な立場にある人々に対し、本来の能力を発揮できる公平な機会を提供するための措置です。
特定の従業員を不当に優遇するわけではなく、全体的なパフォーマンスを最大化するために必要不可欠な環境整備であることを理解しましょう。
「労働供給制約社会」を見据え、人材を確保するため
第二の理由は、急速な少子高齢化による「労働供給制約社会」の到来を見据えて、人材を確保するためです。
人材の確保を新卒一括採用のみに頼るモデルは、限界を迎えつつあります。今後は女性、シニア、外国人、障害者などの多様な人材をターゲットにし、彼らから選ばれる企業を目指さなければ、採用難による事業の縮小は避けられないでしょう。
DEI推進は、もはや企業の生存戦略のひとつともいえます。
子育てのしやすい企業に認定される「くるみん」や、女性が活躍しやすい企業に認定される「えるぼし」を取得している企業の求人は、働きやすさを重要視する人材からの応募が集まりやすくなります。
投資家からのネガティブな評価を回避するため
第三の理由は、機関投資家からのネガティブな評価を回避するためです。
機関投資家は企業の持続可能性を測る指標として、人的資本の開示状況を重視しているため、これらへの取り組みが遅れている場合は、企業価値を毀損するおそれがあります。
たとえば「女性管理職比率」が低い、「障害者雇用率」を達成していない、あるいは「男女の賃金の差異」が生じており、改善の兆しが見られない企業は、多様な視点が欠如しているとみなされるかもしれません。リスクへの対応力が低いと考えられ、投資対象から外されるおそれもあるでしょう。
海外の機関投資家を中心に、取締役会の多様性が確保されていない企業の代表取締役選任議案に対し、反対票を投じる動きが加速しているともいわれています。
DEI推進は投資家の信頼を獲得し、資金調達にかかるコストを適正化する一助となるでしょう。
DEIを推進するメリット
DEIを推進するメリットは、以下の4点です。
- イノベーションが生まれる
- 企業価値の向上につながる
- 優秀な人材が確保しやすくなる
- 職場の心理的安全性が高まる
メリットを理解しておくことで、社内でのDEI推進を円滑に進められるようになるでしょう。
イノベーションが生まれる
第一のメリットは、組織内にイノベーションが生まれやすくなることです。似たようなバックグラウンドや考え方、価値観をもつ人材だけで構成された同質な組織は、意思決定がスムーズに進む反面、同調圧力が生じやすく、常識を疑うことが難しくなります。
一方で多様な視点をもつ人材が率直に意見を交わせる組織では、異なる経験の掛けあわせによる化学反応が起き、新たなビジネスチャンスが見つかったり、解決策が発見されやすくなったりします。
たとえば障害のある従業員の視点を商品開発に採用することで、これまで気づかなかった顧客の不便さを解消し、ユニバーサルデザインにもとづいた新商品が誕生するかもしれません。グローバルな視点をもつ人材が加わることで、海外展開をする際のリスクについて早めに気づくことも可能です。
DEI推進によって多様な「知」を結合させることで、変化の激しい時代において競争優位を生み出せるでしょう。
企業価値の向上につながる
第二のメリットは、企業価値の向上につながることです。DEI推進は株価などの財務的価値だけでなく、ブランドや社会的信用といった非財務的価値の両方を向上させられるでしょう。
現代における企業の評価は売上や利益だけでなく、ESG(環境、社会、ガバナンス)への取り組みが重視されています。
とくに機関投資家は「女性管理職比率」や「男女の賃金の差異」、「障害者雇用率の達成度」などの指標を、投資の判断材料として厳しくチェックするようになっています。
DEIを推進し、その成果を開示することは、投資家からの信頼獲得につながり、株価の安定にも寄与するでしょう。
優秀な人材が確保しやすくなる
第三のメリットは、優秀な人材が確保しやすくなることです。少子高齢化が進み、労働人口が減少するなかで、DEI推進は「優秀な人材の確保する」という課題に対する強力なソリューションになり得ます。
Z世代をはじめとする若手やキャリア志向の求職者は、就職先を選ぶ際、その企業の「働きやすさ」を重要な判断基準としています。「くるみん」や「えるぼし」の取得、男性従業員の育休取得率、障害者雇用への取り組み姿勢などを対外的にアピールすることは、採用ブランディングの強化につながるでしょう。その結果、従来はアプローチできていなかった多様な人材からの応募を増やせるはずです。
また、DEI推進によって従来の働き方が見直されれば、今いる従業員の離職防止にもつながります。育児や介護といったライフイベントに直面した優秀な従業員が、キャリアを諦めずに働き続けられる環境を提供することは、社内に蓄積されたノウハウの流出を防ぐという意味で、極めて高い効果を生み出します。
DEI推進は採用難を打破し、企業の持続力を高めるための必須条件といえるでしょう。
職場の心理的安全性が高まる
第四のメリットは、職場の心理的安全性が高まることです。職場に異質な意見を排除する空気が漂っていれば、たとえば障害のある従業員は沈黙し、本来の能力を発揮できません。
DEI推進によって「違い」が尊重され、誰もが自分らしくいられる雰囲気が醸成されると、従業員は会議で萎縮せずに発言したり、失敗をおそれずに新しい挑戦をしたりできるようになります。
心理的安全性が高い職場では、ミスやトラブルなども早めに報告されるようになります。その結果、重大な事故を未然に防げたり、業務プロセスの改善スピードが加速したりするでしょう。
DEIを推進すること自体が、健全な意見の対立を許容しながら成果に向かう、強い組織風土を作るための手段となるのです。
DEI推進のための具体的なアクション
DEI推進のための具体的なアクションは以下のとおりです。
- 方針を策定し、制度を整備する
- 経営陣からマネージャーや従業員などに周知する
- 成果を確認し、改善を続ける
何から始めればよいかわからない場合の指針として、参考にしてください。
方針を策定し、制度を整備する
まずは自社におけるDEIの方針を明確に策定しましょう。DEI推進が頓挫しやすいのは、自社におけるDEIの定義が曖昧なまま施策に走ってしまうことに起因するからです。
自社におけるDEIの定義を策定できたら、続いて経営陣が責任をもって、その方針を実行するための体制を整備します。同時に多様な「知」「経験」をもつ従業員が活躍できるよう、業務プロセスの見直しを行いましょう。
経営陣からマネージャーや従業員などに周知する
DEIの方針や制度を組織全体に浸透させることも大切です。そのためには、経営陣が主導して「DEIは福利厚生ではない」「生存戦略のひとつである」というメッセージを、繰り返し発信する必要があります。
さらに、DEIの方針や制度を組織全体に浸透させる際のキーポイントとなるのがマネージャー(中間管理職)です。ただし、マネージャーに対し、「DEIを推進しなさい」というだけでは「業務が増える」「逆差別にならないか」などの反発や不安を招きかねません。マインドセットを促し、スキルアップするサポートを提供しましょう。
たとえば以下のようなサポートが考えられます。
- アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)についての研修を受ける
- 部下から育休を取得したいという相談を受けた際、どのように対応すべきかを学ぶ
また、現場で頻出する「なぜ特定の従業員を支援するのか」という疑問に対し、Equityの概念を用いて回答するための想定問答集やマニュアルを整備することも一例です。
経営陣からの一方的な通達ではなく、現場で起こっている困りごとに寄り添い、具体的な行動指針を示しましょう。
成果を確認し、改善を続ける
DEI推進の成果を労働市場や資本市場に向けて発信し、対話を行い、継続的な改善を行います。その際「方針を策定し、制度を作った」「マネージャーに対し、研修を実施した」という実績だけでは、効果が見えにくいため、求職者や投資家からの評価を得ることは難しいでしょう。
たとえば、女性管理職比率、障害者雇用率、男女の賃金の差異、離職率、男性従業員の育休取得率、心理的安全性の評価などをウェブサイトや有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書などに掲載し、社外に開示しましょう。
これらの数値が目標に届かなかった場合は、その原因を振り返り、次の施策に反映させます。客観的な分析にもとづいて軌道修正を繰り返していくことが、DEI推進を成功に導きます。
DEIを推進する際の注意点
DEIを推進する際は、以下の点に注意しましょう。
- 「多様性」の意味を多角的に考える
- 一人ひとりが能力を発揮できる組織風土を構築する
- 自社にとって最適な「多様性」の度合いを吟味する
形だけのDEI推進におちいらないよう、正確に理解しておきましょう。
「多様性」の意味を多角的に考える
「多様性」の意味を、女性や外国人といった目に見える属性に限定し、捉えることはNGです。多様性には年齢や性別だけでなく、信仰している宗教、考え方、価値観、スキルなどの内面的な相違点も含まれるからです。
以上の点を考慮せずに、たとえば女性管理職比率の数値だけを目的にした場合、現場からは「属性が優先されている」という誤解を招きかねません。「逆差別だ」という強い反発を引き起こすおそれもあります。
多様性には、内面的な属性が内包されていることを理解しましょう。
一人ひとりが能力を発揮できる組織風土を構築する
DEI推進のよくある失敗例に、以下の例が挙げられます。
- 本人の意思に反し、育児中の従業員を補助的な業務を割り当てる
- 障害者を採用したが、マニュアルやツールが整備されておらず、放置してしまう
これらはEquityの欠如です。多様な人材が心理的安全性を感じながら、能力を発揮することが不可能な組織には、分断と混乱が生まれてしまいます。DEI推進の制度を整えて終わりにするのではなく、一人ひとりが十分に能力を発揮できる組織風土を構築しましょう。
自社にとって最適な「多様性」の度合いを吟味する
DEI推進には「すべての会社に共通する正解」は存在しません。他社の成功事例を模倣したり、流行りの施策を無作為に採用したりせず、自社の戦略にあわせたDEIの優先順位を検討しましょう。
たとえば創業間もないスタートアップ企業の場合は、意思決定のスピードを最優先するために、均質な人材が機能する場合もありますし、グローバル展開を目指す企業の場合は、外国人材が重宝されるでしょう。また、地域密着型の企業では、シニア人材の活用が考えられます。
いずれも重要なことは、今の自社にとって必要な多様性や公平性を、戦略的に定義することです。自社の競争力を高めるために最適な多様性のバランスを、吟味し続ける姿勢が求められます。
障害者雇用の観点から見るDEI推進の取り組み事例
ここからは、障害者雇用の観点から見るDEI推進の取り組み事例を紹介します。
EY Japan株式会社
EY Japan株式会社は、会計監査・税務・コンサルティングなどのプロフェッショナルサービスをグローバルに展開するEYのメンバーファームです。EY Japan株式会社は2022年6月より、新たな障害者雇用チーム「Diverse Abilities Center(DAC)」を立ち上げました。
DACのコンセプトは、発達障害・精神障害のある方が専門性を磨いて、社内でのキャリアアップを目指すことです。DACにはRPA技術を用いてデータの照合作業を自動化した方をはじめ、高度なスキルをもっている発達障害・精神障害のある方が在籍しており、社内でも依頼が殺到しているそうです。
こちらの記事では、EY Japan株式会社の事例についてEY Japan LTV(Long-term value)ビジョンプロジェクト PMOリーダー 加藤喜久さんのインタビューをご覧いただけます。
■「能力が発揮される環境を作る」ことで、会社の戦力となる専門家集団を形成
三井住友信託銀行
国内最大級の信託銀行であり、「銀行」「信託」「不動産」の機能を融合させたソリューションを提供している三井住友信託銀行は、「誰もが『私』らしく能力を発揮できる環境の実現」を目指し、障害者雇用に積極的に取り組んでいます。
2022年度からは、知的障害・精神障害・発達障害のある方の雇用拡大に向けた「DE&Iラボ」プロジェクトを推進しています。2024年12月からは、本店エリア(丸の内の本社ビルや都内の各拠点ビル)において、精神障害・発達障害のある方を中心に、銀行本部の事務ポジションで採用しているそうです。さらに2030年までに、すべての部署に障害のある社員がいることが当たり前となることを目指しています。
こちらの記事では、三井住友信託銀行の事例について人事・採用担当者の笹さん、附田さんのインタビューをご覧いただけます。
■誰もが「私」らしく能力を発揮できる職場へ ~三井住友信託銀行が歩む、障害者雇用の新たな未来~
DEIを推進し、人材の確保や企業価値の創造、競争力の強化に努めよう
DEI推進は変化し続ける資本市場において、企業が生き残るために欠かせない戦略のひとつです。
Diversityだけでなく、構造的な格差を是正するEquity、心理的安全性を担保するInclusionをセットで実現することで、多様な人材の獲得やイノベーション創出といった成果につながります。
DEI推進を成功に導くポイントは、他社の事例を模倣するのではなく、自社の現在地にあわせたロードマップを描くことです。なお、ロードマップの描き方に迷った際は、ぜひ株式会社Kaienの障害者雇用支援サービスの利用をご検討ください。
Kaienでは、障害者支援のプロが採用選考から受け入れ支援、定着までを一貫してサポートしています。以下のフォームよりお気軽にご質問・ご相談ください。
ご相談は無料です、まずは気軽にご連絡ください