障害者雇用は、障害者雇用率制度によって義務化されています。法定雇用率を未達成のままにしておくとハローワークから行政指導が入るため、対応に苦慮する人事担当者もいるでしょう。
この記事では、押さえておきたい障害者雇用義務化のポイントと、障害者を採用する方法を具体的に解説しています。また法定雇用率未達成企業に科されるペナルティや、障害者雇用に関する助成金、相談先についても触れるので参考にしてください。
このページの目次
障害者雇用の義務化4つのポイント
まず障害者雇用の義務化に関して押さえておきたい、4つのポイントをチェックしましょう。
ポイントは以下の4つです。
- 一定以上の割合で障害者を雇用する
- 差別禁止と合理的配慮を提供する義務
- 障害者職業生活相談員を選任する
- 障害者雇用に関する届出を行う
障害者雇用の義務化は、障害者雇用促進法に基づいて定められています。障害者雇用促進法について詳しくは下記の記事を参照してください。
一定以上の割合で障害者を雇用する
従業員数が43.5名以上という条件にあてはまるすべての企業が、全従業員に対して一定以上の割合で障害者を雇用する義務を課されています。従業員数が満たない企業はこの限りではありません。
法定雇用率は法整備当初から徐々に引き上げられており、2023年2月現在、民間企業では全従業員数に対して2.3%が障害者でなければならないと定められています。なお国や地方公共団体の法定雇用率は2.6%、都道府県等の教育委員会であれば2.5%です。
障害者雇用率は、令和6年に2.5%、令和8年からは2.7%へと引き上げられる予定となっています。障害者雇用の市場はますます拡大し、受け入れ先として障害者を雇用する企業も増えると考えて良いでしょう。
障害者雇用率の計算方法について詳細は後述するので、あわせて参照してください。
差別禁止と合理的配慮を提供する義務
障害者雇用を行う企業には、「障害者に対する差別の禁止」が義務付けられています。
差別の禁止とは、募集や採用・賃金・教育などの機会・待遇において不当な差別をせず、健常者と均等でなければならないことを指します。
加えて、社会的障壁をなくすために個別の対応や支援を行うことも必要です。採用の際、障害者本人から、障害の特性に応じて必要な配慮を求められた場合、施設整備、援助者の配置などの措置を講じるよう定められています。こうした配慮は合理的配慮と呼ばれ、障害者差別解消法において義務付けられています。
障害者職業生活相談員を選任する
5人以上の障害のある労働者を雇用する事業所では、障害者職業生活相談員の選任と配置が求められます。
障害者職業生活相談員は、企業で従業員に取得させることのできる認定資格です。従業員が独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構によって行われている資格認定講習を受講し、ハローワークに選任報告書を提出することで、法規に沿って選任が行われていると認められます。
障害者職業生活相談員となった従業員は、障害のある従業員の生活に関する相談・指導を行う、社内での担当者です。職務内容・作業環境の整備・労働条件や職場の人間関係について、また余暇活動についてなど、障害者が企業でスムーズに勤務を続けられるようさまざまな相談に応じます。
障害者雇用に関する届け出を行う
障害者雇用に関して、従業員数43.5名以上の事業所はハローワークに雇用の状況を提出しなければならないと定められています。報告するのは毎年6月1日時点の雇用状況で、報告の期日は毎年7月15日です。この報告は通称「ロクイチ報告」と呼ばれています。
報告の時期が訪れると、毎年ハローワークから報告用紙が届きます。書式に従って用紙に記入し、ハローワークへ届け出ましょう。また用紙での届出ではなく、電子申請による届出も可能です。
さらに障害者を解雇した場合も、ハローワークに届け出なければならないことが定められています。週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の、いわゆる短時間労働者に該当する障害者を解雇する場合も、例外ではありません。
解雇のときは6月の報告時期を待つのではなく、解雇後速やかな届出が必要です。
障害者雇用義務化の対象となる障害者
障害者雇用義務化の対象となる障害者は、一般的には以下の4つの区分の方々を指します。
障害者雇用には、各自治体から交付される障害者手帳が必要です。障害者雇用率制度の上では、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としています(短時間労働者は原則0.5人カウント)。
ただし障害者雇用に関する助成金については、手帳を持たない統合失調症、そううつ病(そう病、うつ病を含む)、てんかんの方も対象となります。またハローワークや地域障害者職業センターなどによる支援においては、「心身の障害があるために長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な方」が対象となります。
身体障害 | 視覚障害、聴覚障害、肢体不自由など、身体のいずれかの機能になんらかの障害がある人 |
---|---|
知的障害 | 一般的に知的能力(IQ)が70未満で、日常生活における困難が発達期(18歳以下)に認められる人 |
精神障害 | 精神疾患のため精神機能の障害が生じ、日常生活や社会参加に困難をきたしている状態にある人 |
発達障害 | 自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如多動症(ADHD)・限局性学習症(LD)に該当する人 |
障害者雇用率の計算方法
障害者雇用率の計算は、「対象障害者である常用労働者の数+失業している対象障害者の数」を「常用労働者数+失業者数」で割ることで、計算できます。
ただし、雇用している従業員1名あたり、単純に1カウントで計算ができないため、注意が必要です。週の所定労働時間が20時間以上30時間未満に該当する短時間労働者に関しては、実質1人の従業員を0.5人としてカウントしなければなりません。反対に、重度身体障害者の方と重度知的障害者の方は、短時間であれば1人、それ以上であれば2人としてカウントします。
詳細については関連記事を参照してください。また下記資料「毎年のロクイチ報告に欠かせない、自社の実雇用率を集計するExcelシートのテンプレート」をダウンロードし、障害者雇用率の計算にぜひ役立ててください。
法定雇用率の未達成企業のペナルティについて
法定雇用率が未達成の企業は、以下のようなペナルティが発生します。
- 納付金が発生する
- 行政指導が入る
- 企業名が公表される
それぞれについて解説します。
納付金が発生する
労働者数が100人を超える企業で、障害者雇用を行わなかった場合、「障害者雇用納付金制度」が適用されます。この場合、被雇用者が1人不足する度に月額5万円を支払わなければなりません。
障害者雇用納付金制度は、障害者雇用に対応する企業とそうでない企業の間の不平等を解消することを目的とした制度です。該当する企業が支払った納付金は、障害者雇用調整金や報奨金、その他の給付金および助成金に充当されます。
納付金を納めなければならない企業は、各都道府県の窓口へ期日までに申請書を提出し、さらに振込をおこないます。電子申請も可能です。納付金の納付期限は例年5月ですが、金額が100万円を超える場合は延納が可能です。
行政指導が入る
法定雇用率が未達成の企業のうち、達成度がいちじるしく低いと判断された場合は、ハローワークから雇用計画書の作成を命じられることがあります。法定雇用率についてはロクイチ報告で必ずハローワークへ報告しなければならないため、対象企業はすぐに判断されると考えて良いでしょう。
雇用計画書は2年分に及び、作成後は内容を実践できるかどうかが観察されます。そのうえで実行できなかったと判断された場合、追加で行われる勧告が「雇入れ計画の適正実施勧告」です。
この勧告でも是正が不可能だった場合は、ハローワークからの行政指導が入ってしまいます。社名公表を前提とした特別指導は9か月間です。
雇用計画書を作成する段階から行政指導に至るまで、企業ではそれぞれに細やかな対応が求められるため、本来の業務外の雑務が増え、担当者には多大なストレスもかかります。できるだけ行政指導に至るのは避けるべきでしょう。
企業名が公表される
9か月間にわたる前述の行政指導の結果、企業で障害者雇用の状況が改善しない場合は、厚生労働省のホームページで企業名の公表が行われます。
企業名の公表は、ただ名前が出るだけではなく大きなリスクを伴うものです。単に障害者雇用の割合を達成できなかったというだけではなく、2年間の是正計画、その後の9か月間の指導のすべてを経ても改善できなかったことがわかってしまうため、企業としては大きく信頼を損ねることになります。
さらに、その後障害者雇用の状況が改善したとしても、厚生労働省のホームページに掲載された企業名を消してもらうことはできません。半永久的に不名誉な情報が残ってしまうため、避けたいと考える企業が多いでしょう。なお、近年では令和2年に1社、令和3年に6社が企業名公表の処分を受けています。
障害者を採用する具体的な方法3つ
障害者を採用するためには、以下のような方法があります。
- ハローワークに求人を出す
- 障害者職業能力開発校へ求人票を出す
- 障害者雇用支援サービスを利用する
それぞれについて解説します。
ハローワークに求人を出す
ハローワークには、「専門援助部門」(地域により別な名称の場合があります)と呼ばれる、障害者雇用の求人を取り扱う専用の相談窓口があります。ハローワークでは障害に詳しい支援員が求職を手伝っていることもあり、こうしたサポートを目的に利用者が増えやすいのが特徴です。
障害者職業能力開発校へ求人票を出す
特別支援学校以外に、障害者職業能力開発校へも求人票を出せます。
障害者職業能力開発校とは、障害のある方が自身の特性や違いを把握し、仕事に活かしていけるように調整をしながら職業訓練を行う学校です。したがって障害者職業能力開発校とのコネクションができると、職業訓練を経た学生の就職先として紹介してもらえることが多く、良い人材と巡り会える可能性も高まります。
近隣に障害者職業能力開発校がある場合は、ぜひ検討したい方法です。
障害者雇用支援サービスを利用する
上記のような方法を行なって採用がうまくいかなかった場合は、障害者雇用支援サービスを利用するのがオススメです。
障害者雇用支援サービスを利用すると、求職中の障害者の雇用、さらに雇用後の定着を支援してもらえます。企業側にとっては、障害者の受け入れ準備などを支援してもらえるためメリットが大きいです。
企業が障害者雇用によって受けられる助成金一覧
障害者雇用を行うと、企業は助成金を受けられます。以下に、企業が受け取ることのできる助成金の一例を、一覧でご紹介します。
トライアル雇用助成金 | ハローワークや障害者雇用支援サービスの利用、一定期間の障害者雇用で受けられる助成金 |
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特定求職者雇用開発助成金 | ハローワークや障害者雇用支援サービスを利用し、障害者を雇用保険一般被保険者として継続して雇用した場合に受け取れる助成金 |
キャリアアップ助成金 | 被雇用者の正社員化や、雇用改善を実施した事業主が受け取れる助成金 |
在宅就業障害者特例調整金 | 在宅で仕事をする障害者に仕事を発注する企業の事業主が受け取れる助成金 |
場合によっては、複数の助成金が受け取れる可能性もあるため、チェックしてみましょう。詳細は公式サイトや、以下の記事でご確認ください。
企業が障害者雇用によって受けられる支援制度一覧
企業が障害者雇用によって受けられる支援には、以下の2つがあります。
ジョブコーチの派遣 | 障害者職業カウンセラーが現場に出向き、職業支援を行う制度 |
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障害者雇用支援人材ネットワーク事業 | 障害者雇用管理サポーターと呼ばれる専門家を企業に派遣し、設備改修、健康管理など、障害者雇用に関わるサポートを行う制度 |
いずれの場合も、専門の人材からさまざまな種類のサポートを受けられます。障害者自身を支援してくれるのはもちろん、障害者を雇用する雇用主や事業所、同じ事業所で働くメンバーなどに対しても、障害者雇用関連の支援を行ってくれます。
詳細は公式サイトや、以下の関連記事で確認してください。
障害者雇用に関する相談先一覧
企業が障害者雇用に関して困っている場合は、以下のような相談先が設けられています。
相談できること | |
地域障害者職業センター | 雇用管理に関する相談や援助、助言の依頼 |
ハローワーク | 助成金の案内、雇い入れ、雇用管理に関する相談 |
障害者就業・生活支援センター | 障害者の就業面・生活面における支援 |
いずれの施設も全国各地に複数設置されています。内容に応じて、地域の相談施設に相談してみましょう。
施設や相談内容の詳細については公式サイトを参照してください。
まとめ
障害者雇用は、企業が一定の割合で障害者を雇用しなければならないと定められた義務です。法定雇用率を割り込む企業については納付金が発生するほか、是正されない場合は行政指導、さらに企業名の公表が行われるため、法定雇用率を守るよう注意しなければなりません。
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