障害者を対象として、一般雇用とは異なった手続きや取り扱いが必要となる「障害者雇用枠」。雇用数の拡大に伴い、障害者雇用に新たに取り組む必要が出た企業様の中には、一般雇用枠と具体的にはどのように扱いが異なるのか、正確に把握していない採用担当者もいらっしゃるかもしれません。
今回は、障害者雇用枠の基礎知識に始まり、関連法や制度の詳しい概要、採用活動における注意点などを解説します。
障害者雇用枠とは
障害者雇用枠とは、特に障害のある人を対象に、別途で雇用枠を設けることです。
障害のある人が就労する場合には、雇用主や職場に一定の配慮を必要とする場合があります。その際に健常者と比べて不利が発生し、就労機会が損なわれるケースが考えられます。が。そこで、障害者が自身の特性に合わせて職場に配慮を求め、就労機会を得やすくすることを目的に「障害者雇用促進法」が制定されました。
同法では、企業に対して一定の割合で障害者の雇用を義務付ける「障害者雇用率制度」を採用しており、さらに障害者雇用における合理的配慮の提供や不当な差別の禁止についても規定しています。
採用活動における障害者雇用枠と一般枠との違い
障害者雇用枠と一般雇用枠の主な違いは、以下の通りです。
障害者雇用枠 | 一般雇用枠 | |
---|---|---|
内容 | 障害のある求職者を特化して採用活動をする | 障害の有無を問わず採用活動をする |
受けられる配慮 | 障害者雇用に向けて環境整備が行われる場合もあり、一般枠に比べてより配慮を得やすいケースが多い | 合理的配慮義務に基づき、その都度協議の上、配慮事項を決定する |
職務内容 | 障害の程度や特性を考慮し、遂行可能な職務内容をその都度調整することが多い | 一般的に企業側の必要に応じて業務をアサインする |
雇用対象者 | 原則、障害者手帳を所持している方 | 障害者手帳の有無は問わない |
大前提として、障害者手帳をお持ちの方も一般雇用枠に応募することができます。いわば、障害者手帳を持たない方と比べて、より広い選択肢を持っている、ということです。障害者手帳を持っている方が一般雇用枠に応募した際に、本人の意思に反して企業側が障害者枠に無理に誘導することは、障害者差別となる場合があるので注意が必要です。
また、障害を理由として障害者雇用枠と一般雇用枠との間に待遇の差を付けたり、平等な機会を与えたかったりすることは禁止されています。そのため、障害者雇用でも選考基準や採用の進め方に大きな違いはありません。
ただし、障害者へ必要な配慮を提供するために別で雇用枠を設けたり、障害の内容や特性にあわせて業務内容を調整したりすることは、不利な状況を積極的に改善するための措置である「アファーマティブアクション」として認められています。
障害者枠で採用を行う際に知っておきたい基礎知識
障害者雇用は法律で規定されている制度であり、採用には一定のルールがあります。ここでは、企業が障害者雇用枠を設けて採用活動を行う際に、知っておくべき基礎知識を紹介します。
障害者雇用促進法について
前述でも触れた通り、障害者が就労に必要な配慮や措置を受け、平等に就労機会を得るために制定された法律が「障害者雇用促進法」です。同法では、事業者に対して一定の割合で障害者を雇用する義務のほか、就労における合理的配慮の提供、不当な差別の禁止、障害者の自立を促す職業リハビリテーションの推進について定めています。
同法の対象となるのは一般企業だけでなく、公共団体や地方の教育委員会といった全ての事業者です。ただし、全従業員のうちどの程度の割合で障害者を雇用しなければならないのかを示す「法定雇用率」の基準が事業者の種別ごとに異なります。2023年時点における一般企業の法定雇用率は2.3%ですので、従業員43.4人以上を雇用している場合に障害者雇用の義務が発生します。
参考:【2023年最新】障害者雇用促進法とは?改正点をわかりやすく解説
障害者手帳について
求職者が障害者雇用枠を利用して就労する場合、原則的に「障害者手帳」の取得が必要です。障害者手帳は、以下の3種類に分類されます
名称 | 概要 | 対象となる障害の例 | 等級 |
---|---|---|---|
身体障害者手帳 | 身体障害者福祉法に基づいて、身体機能に一定以上の障害があると認められた人に交付される。 | 視覚障害、聴覚障害、音声機能・言語機能の障害、肢体不自由、内臓機能の障害 など | 1~7級まで。1級に違づくほど障害が重く、指定医に判定される。 |
精神障害者保健福祉手帳 | 一定以上の精神障害の状態にあると認定された人に交付される。 | すべての精神障害。うつ病、統合失調症、気分障害、てんかん、発達障害 など | 1~3級まで。疾患と能力障害の状況の両方から総合的に判断される。 |
療育手帳 | 児童相談所か知的障害者更生相談所において知的障害と判定された人に交付される。 | 知的障害 | 重度(A)とそれ以外(B)に区分される。自治体によってはさらに細分化される。 |
参考:障害者手帳の等級|人事が知っておくべき等級による違いについて解説
障害の種類について
障害者雇用の対象となる障害は、以下の4つの区分に分けられます。
前述の通り障害者手帳は3区分に分けられていますが、精神障害と発達障害はともに原則的に精神障害者保健福祉手帳が適用となります。
障害の種類 | 概要 | 障害や疾患の例 |
---|---|---|
身体障害 | 先天的・後天的な理由で身体機能の一部が不自由な状態。 | 視覚障害、聴覚障害、平衡機能の障害、音声機能・言語機能の障害、肢体不自由、内臓障害など |
精神障害 | 精神疾患によって精神機能に障害が発生し、日常生活や社会活動に困難を抱えている状態。 | 統合失調症、うつ病等の気分障害、パニック障害、PTSD、依存症など |
発達障害 | 生まれつき脳機能の発達に偏りがあり、日常生活に支障が出ている状態。明確な定義はないが、広義には知的障害に含まれ、複数の疾患が併存する場合も多い。 | 自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習障害(LD)など |
知的障害 | 知的能力と適応機能が遅れた水準にとどまり、日常生活において困難を抱えている状態。知的機能や適応機能、知能指数によって判断される。 | 知的発達や運動発達の遅れ、言語の遅れ、読み書きや計算の困難、対人関係の困難、会話による意思疎通の困難 |
参考:【2023年最新】日本の障害者割合は人口の約7.6%|障害区分ごとの求職者の傾向も
オープン就労とクローズ就労
障害があることを企業に開示する就労を一般的に「オープン就労」といいます。反対に、障害のある方が職場に障害があることを開示しないで働くことを「クローズ就労」といいます。障害者雇用枠と絡めて考えると、障害のある方の就労は、以下3つのパターンに整理することができるでしょう。
- 一般雇用枠のクローズ就労:障害を職場に開示せず、自助努力により障害をカバーして一般枠で就労する働き方
- 一般雇用枠のオープン就労:障害を開示した上で、企業に合理的配慮の相談をしながら一般雇用枠で就労する働き方
- 障害者雇用枠(オープン就労):就職活動時に障害を開示し、障害者雇用枠を利用して就労する働き方
特に「一般雇用枠のクローズ就労」は、発達障害など目には見えづらい障害のある方が選択して働いているケースが多いようです。人によって判断の理由は様々ですが、一般論として、障害者枠雇用の場合には一般枠雇用と比べて職種の選択肢が狭かったり、給与アップが見込めない場合があることが起因していることが想定されます。もちろん障害の開示は本人の希望次第ですが、周囲が必要な配慮をできないため業務に支障が生じ、うつ病などの二次障害につながるケースもあります。
まだ障害者雇用の経験がない企業様の中には、障害者雇用に取り組むことに前向きになりづらい場面があるかもしれません。しかし、障害のある人が働きやすい環境を整えることが、一般枠雇用も含めた会社全体の業務の生産性向上につながるケースもあります。一般雇用枠のクローズ就労で働いていた従業員から障害の開示があり、オープン就労への切り替えの申し出があった場合には、業務パフォーマンス向上の契機と捉え、快く受け入れる姿勢が大切です。
障害者枠の給与について
障害者差別解消法では、障害者雇用枠であることを理由に障害者の給与を他の従業員よりも低く設定することを禁止しています。障害者雇用であるかどうかに関わらず、担当する業務の内容や成果によって一般雇用の従業員と同じように給与を決定しなくてはなりません。
しかし、厚生労働省が発表している『平成30年度障害者雇用実態調査結果』によれば、精神障害者保健福祉手帳を所持している人の障害者雇用における給与の平均額は約14.6万円と、一般雇用の平均より大幅に低いことがわかりました。精神障害者は時短勤務をしていることが多く、その分給与額が低くなってしまうのも一因ですが、「障害者雇用の給与は最低賃金程度であるのが相場である」という偏見が一部に残っている影響が一因となっているのかもしれません。
以下の記事では、業種別の平均給与についても詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。
参考:【人事】障害者雇用の給料の決め方|平均額・相場について解説
採用活動について
企業が一から障害者の採用活動に取り組む場合、地域の就労支援事業所と連携するのがおすすめです。
就労支援事業所とは、一定期間職業訓練を受けた人材の紹介や、職場への定着サポートなどのサービスを無料で提供している公的福祉施設です。安定した障害者雇用を実現するためには、業務内容のマッチングや業務スキルの習得度だけでなく、障害者が自身の特性を理解し、必要な措置を言語化して伝える能力が必要です。就労支援事業所は、このような観点で就労訓練を受けた人材を紹介してくれるため、安定雇用につながりやすいサービスといえます。
就労支援事業所を活用した採用活動の流れは、以下の通りです。
- 求職者が必要な就労訓練を受ける
- 企業が職場実習を受け入れる
- 実習を通し、環境改善などの必要な措置を講じる
- マッチした求職者を雇用する
- 必要に応じて定着支援を受ける
参考:就労移行支援とは?人事担当が知っておきたい制度の基礎知識やメリットを解説
まとめ
障害者雇用枠とは、障害者が職場で自身の能力を十分に発揮し、平等に就労機会を得るための制度です。求職者側だけでなく、助成金の支給や人材定着率の向上など、企業側のメリットも多くあります。
障害者雇用枠を初めて利用する場合には、地域の就労支援事業所を活用するとよいでしょう。または、民間の支援企業に依頼することも可能です。Kaienでは、障害者雇用における職場実習の受け入れや就労移行支援を行なっていますので、障害者枠での雇用をお考えの場合はぜひご相談ください。
Kaienでは、障害者雇用の担当に新たに着任されたご担当者様に向けて、障害者雇用を進めるうえで必要な業務切り出し・採用・定着の基礎理解や、法定雇用率の制度、行政指導の基準、助成金の知識を効率よくお伝えする無料セミナーを定期開催しています。併せてご確認ください。
参考:新任の障害者雇用ご担当者向けセミナー<業務切り出し・採用・定着の基礎知識から、最新の民間サービスのトレンドまで>
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