アファーマティブ・アクションとは?日本の取り組み事例も

アファーマティブ・アクションをご存じでしょうか?

ダイバーシティへの社会的関心が高まる中、マイノリティに対する差別や格差を是正するための取り組みとして、アファーマティブ・アクションが注目を集めています。アファーマティブ・アクションを実施することで、これまで不利益を受けていたマイノリティの人々に、さまざまな機会を提供することが可能だと考えられています。その一方で、取り組みに対しての賛否両論も、一部にはあるようです。

本記事では、アファーマティブ・アクションの概要や歴史、課題や日本・海外での取り組み事例をご紹介します。企業運営にも重要な要素なので、ぜひ参考にしてください。

この記事の目次

アファーマティブ・アクションとは?

アファーマティブ・アクションは、過去の社会的・構造的な差別の影響で、現在不利益を受けている集団に対して、実質的な機会均等をもたらすための特別な機会を提供することを意味します。不利益を受けている対象は、女性、有色人種、少数民族、障害者などを指します。

例えば、ある集団が長年にわたり経済的、教育的、職業的な差別を受けてきた結果、同じ出発ラインで競争することが難しい状況が存在します。このような現実を考慮して、平等な機会を提供するための措置がアファーマティブ・アクションです。

日本では「積極的格差是正措置」や「積極的差別是正措置」とも呼ばれ、ポジティブアクションとの間に意味的な違いはありません。

アファーマティブ・アクションは、過去の差別や現在の不利益を受ける集団に対して、平等な機会を提供するための重要な取り組みといえます。

アファーマティブ・アクションの歴史

アファーマティブ・アクションには、アメリカの歴史が深く関わっています。アメリカでは、黒人やヒスパニック系の人々が長年にわたって差別を受けてきました。特に教育や職場での機会において、白人に比べて不利な立場に置かれるケースがあったようです。それは、進学の機会を逃したり、好条件の職に就けなかったりすることを意味します。

具体的な起点は、1965年に当時のアメリカ大統領であるジョンソン大統領による、アファーマティブ・アクションを求める大統領令の発布です。これは、職業や教育における差別を是正するための積極的な措置を要求するものでした。当時のアメリカ社会では人種差別が深く根付いており、この命令は格差是正の大きな一歩となったのです。

現在では、アメリカに加え、南アフリカ共和国やインド、マレーシアなどでもアファーマティブ・アクションを取り入れています。

アファーマティブ・アクションは、歴史的な背景と社会的な状況を考慮して、差別されてきた集団に平等な機会を提供するための措置として誕生した歴史を持つのです。

アファーマティブ・アクションの課題

一見ポジティブな要素しか見当たらないアファーマティブ・アクションですが、価値観の違いを起因とした課題も抱えています。ここでは、主な課題として挙げられる「逆差別」や「マジョリティに対する差別」について解説します。

逆差別につながる

アファーマティブ・アクションは、内容次第で逆差別につながるという課題を抱えています。過剰なアファーマティブ・アクションを実施することは、一部の人々を特別扱いしていると受け取られる可能性があるからです。

具体的には、障害のある人や女性を限定した採用枠を儲けるなどが挙げられます。実際に海外では、特例子会社を「特別扱い」と受け止める方も存在するようです。このような捉え方は、新たな形の差別、すなわち「逆差別」として認識されることがあります。

原則として、アファーマティブ・アクションは、長らく不利益を被ってきた人たちの差別を構造的に解消するためのものです。特定の集団を過剰に優遇するのではなく、あくまでも全ての人に平等なチャンスを提供することが目的と捉えましょう。

関連記事:【企業向け】特例子会社とは?障害者雇用のメリットなどについて簡単に解説

マジョリティに対する差別がおきる

アファーマティブ・アクションの採用は、マイノリティへのサポートとして評価される一方で、「マジョリティに対する差別である」との声も存在します。では、どのような背景からそのような意見が生まれたのでしょうか。

近年、特に若い世代の間で「反Woke(ウォーク)」という思想が広がっています。元々は、人種やジェンダーを巡る差別や不平等に敏感で問題意識を強く持つ人々を指す肯定的な言葉として、「Woke(ウォーク)」がありました。しかし「反Woke」は、その「意識が高いことを気取って、価値観を押しつけている」と捉え、批判する思想のことです。

例えば、大学入試や採用試験で一定数のマイノリティの枠を設けるアファーマティブ・アクションである「クオータ制」を採用することにより、適正な評価を受ける機会を奪われると感じるマジョリティの人々がいます。特定のマイノリティ集団への優遇策が、新たな形の差別を生む可能性があるという主張です。

参考元:合言葉は「反Woke」 文化戦争で保守色競う共和党候補たち | 毎日新聞

このように、アファーマティブ・アクションには賛否両論が存在します。マジョリティの立場からの批判や反論も1つの意見として理解し、社会全体で議論することが重要です。

アファーマティブ・アクションの日本の取り組み

日本でもアファーマティブ・アクションの取り組みが行われています。その代表的な例として、「男女共同参画基本計画」と「障害者雇用枠の推進」について解説します。

男女共同参画基本計画

日本のアファーマティブ・アクションに関連する取り組みの1つが、男女共同参画社会の実現を目指す「男女共同参画基本計画」です。

そもそも男女共同参画社会とは、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」を指します。

引用:男女共同参画社会基本法 第2条|e-Gov

そして、男女共同参画基本計画とは、男女共同参画社会を実現するために1991年に施行された「男女共同参画社会基本法」に基づいて、施策の方向性や具体的な取り組みを定める役割を担います。5年ごとに内容を更新し、現在は令和2年に12月に閣議決定した「第5次男女共同参画基本計画」に沿って施策が進められています。

障害者雇用枠の推進

障害のある人は、雇用の場面で不利な立場になるケースがあります。それに対するアファーマティブ・アクションの一種として行われているのが、障害者雇用枠の推進です。具体的には、障害者に就労機会を提供し、自立した生活を促進する目的を持つ「障害者雇用促進法」を指します。これにより、障害者に対して一定の雇用枠を確保することや、障害を持つ従業員のための職場環境の配慮や、支援の強化が企業に求められています。

障害者雇用枠の推進は、アファーマティブ・アクションの1つとして、日本の企業や組織での実践が進められている重要な取り組みです。

関連リンク:【2023年最新】障害者雇用促進法とは?改正点をわかりやすく解説

アファーマティブ・アクションの海外の取り組み

アファーマティブ・アクションの海外の取り組みとして、特に注目されるのが「クオータ制」です。

クオータ制とは、特定のマイノリティに対して、採用試験や入学試験で一定割合の枠を確保する制度を指します。例えば、合格者の中に女性や特定の人種の人々が一定の割合以上含まれるようにするものです。これにより、マイノリティの人々が社会のさまざまな分野で活躍するチャンスが拡がります。

例えば、ノルウェーは世界で初めて女性向けのクオータ制を導入した国です。国営企業や上場企業の取締役における女性の比率を、2007年末までに40%にすることを義務付けました。その結果、2021年には女性の比率が41.5%に到達しています。その後も、2015年にはドイツ、2018年にはアメリカのカリフォルニア州にもクオータ制が導入されました。

前述した通り、マジョリティに対する差別という声は存在するものの、クオータ制は差別の是正や多様性の促進に向けた効果的な手段として、多くの国で採用されています。

まとめ

アファーマティブ・アクションとは、社会的・構造的な差別により不利益を受けている集団に対して一定の機会を提供し、機会の均等を実現するための措置を指します。格差や差別を是正する前向きな取り組みとして注目を集めていますが、逆差別やマジョリティに対する差別につながる恐れもあるので、実施する内容には注意が必要です。

しかし、アファーマティブ・アクション自体は社会的意義のある取り組みであり、日本においても「男女共同参画基本計画」や「障害者雇用の促進」という形で実施されています。企業においても、従業員の満足度や倫理的な観点で重要な要素であり、運営方針の1つとして導入すべき取り組みといえるでしょう。

この記事を書いた人

大野順平

株式会社Kaien 就労支援事業部 法人サービス担当
ゼネラルマネージャー / シニアディレクター

2014年Kaien入社。採用支援、定着支援、社内啓発など、これまで20社以上の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画。

論文寄稿 :

月刊精神科「就労支援におけるneurodiversity」(2023年9月,科学評論社)

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